新弟子の「リンチ死」疑惑の渦中にある前時津風親方(元小結・双津竜)の解雇理由は「相撲協会の信用、名誉を著しく失墜させた」というものだった。わかったようなわからないような説明だが、それを言うなら、北の湖理事長ら執行部の面々にも同様の処分が下されるべきではないか。新弟子の死因に疑念がもたれた時、協会あげて真相究明に乗り出していれば、文科省から指導を受けることもなかったし、世間からこれだけ批判を浴びることもなかっただろう。理事長以下執行部の不作為が「協会の信用、名誉を失墜させた」ことは明々白々である。

 監督官庁である文科省は北の湖理事長を呼んで、�協会独自の真相究明、�関係者の処分、�再発防止策の検討、�過去の類似例の検証、�検討委に外部有識者を加える――以上5つの指導事項を突きつけた。このうち協会が履行したのは、前親方を厄介払いした�だけで、あとはお茶を濁している。文科省もナメられたものである。

 ともあれ北の湖理事長の「保身」は目に余る。自身の進退について問われるや、ぶっきらぼうに「時津風自身が(責任を)とるべきだ」。これが国技の長の姿だろうか。居直っているとしか思えない。残念だが「名横綱、名理事長に非ず」と言わざるを得ない。

 相撲部屋は現在53ある。それらは5つの一門により区分けされている。その意味で協会は一門の連合体と言えなくもない。「53もある部屋の隅々にまで目が届くか」「一門の決め事には理事長といえども口をはさめない」。理事長を弁護する側からは、そんな声が漏れ聞こえる。

 私に言わせれば、それは「ムラ社会の理屈」であって、一般社会では通らない。「治外法権」をそこまで正当化したいのなら公益法人をただちに返上すべきだ。仮に自民党のある派閥で不祥事が起きたとする。総裁が「派閥内のことに私は口を出せない」などといえば、その時点でアウトだろう。

 元親方が立件された時点で北の湖理事長は潔く身を退き、執行部は総退陣すべきである。若者の尊い命が失われ、対応策も後手後手に回った。にもかかわらず、理事長以下執行部が居座れば、相撲界はこの先、深刻なモラルハザードに襲われるだろう。大相撲という素晴らしい日本文化を現執行部と抱き合い心中をさせるわけにはいかない。

<この原稿は07年10月10日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

◎バックナンバーはこちらから