レッドソックス
 12年振りの地区優勝は果たしたが、終盤のレッドソックスはヤンキースの勢いの前に青息吐息だった。その原因は、今季前半の快進撃を支えて来た投手陣に疲れがみえたことである。
 先発はエースのジョシュ・ベケット以外、衰えの目立つカート・シリング、この時期は未知数の松坂大輔、地区シリーズは欠場することになったティム・ウェイクフィールドとやや迫力に欠ける。
(写真:MLBプレーオフ初体験の松坂大輔はどんな活躍を見せてくれるか)
 ブルペンを見ても、頼りになるのはクローザーのジョナサン・パベルボンくらい。打者に慣れられ始めた岡島秀樹、もはや往年の力はないエリック・ガニエ、マイク・ティムリンらにはもはや絶大な信頼は寄せられまい。
 今季のレッドソックス打線は決して強力とは言えず、ここまでの勝ち上がりが投手力に支えられてのものだったことは間違いない。その生命線が揺らぎ始めたいま、プレーオフでも多くを望むのは酷か。初戦の相手が相性の良いエンジェルスだったのはラッキーと言えるが、それでも互角以上の予想は出し辛い。

ヤンキース
 後半戦はMLBベストレコードで突っ走り、最高のムードで決戦に挑む。ワイルドカードでのプレーオフ進出とはいえ、ワールドシリーズ制覇以外はすべて失敗と見なされる点は今秋ももちろん変わっていない。
 チームの長所は相変わらずの強力打線と、新たに誕生したマリアーノ・リベラとジョバ・チェンバレンの強力クローザー&セットアッパー・デュオ。この2つの破壊力だけでも今季は最後まで勝ちきれるのではないかという声も多い。
 ただ、守備の悪さ、リベラとチェンバレン以外のブルペンの不安定さ、機動力のなさ、とプレーオフの勝敗に直結しそうな欠点が多いところも相変わらず。そして何よりの問題は、自慢の打線が好投手相手だと奇麗に沈黙するところ。
 今季は爆発的な成績を残した主砲アレックス・ロドリゲスも、基本的には失投しか打てない「ミステイクヒッター」である。各チームがエース級を揃え、ミスなどほとんど犯さないプレーオフで打てないのも当然。彼がこの時期に弱いのをすべて精神面だけに起因させようとするのは大きな間違いだ。
今秋もAロッドからシーズン中のような爆発的な打棒は期待できず、その主砲の特徴はチームカラーを象徴している。地区シリーズでは、好投手が揃ったインディアンス相手に苦戦を強いられそうだ。
(写真:松井秀喜の膝の状態が悪いこともヤンキースの不安材料の1つ)

エンジェルス
 伝統的に小技重視。投手力と守備力を基調とした実にプレーオフ向けの野球を展開するチームで、今季もその傾向はまったく同じ。
 ジョン・ラッキー、ケルビン・エスコバルの2大エースを軸に、抑えの切り札フランシスコ・ロドリゲス、主砲ブラディミール・ゲレーロ、快足チョーン・フィギンス、後半戦は絶好調だったギャレット・アンダーソンら役者は随所に存在する。「打線が迫力に欠ける」という声もあるが、元々プレーオフでは大量得点は望めない。スモールボールはチーム全体にすでに浸透しているため、長打力がないことがそこまでの痛手になるとも思えない。
 不安材料としては、リーグ1のセットアッパーと言われたスコット・シールズの不調が挙げられる。さらに、ここにきてゲレーロ、ゲイリー・マシューズ、バートロ・コロンら主力が故障に見舞われたのも痛い。
 しかしそういったネガティブな要素を差し引いても、筆者はこのエンジェルスが覇権に最も近いと見る。大本命に推すほどの力強さはないが、最も短期決戦に適しているチームのように思えるのだ。

インディアンス
 日本では最も馴染みが薄いチームだろうが、今季のMLBベストレコードをレッドソックスと分け合ったことが示す通りの地力は秘めている。
 スーパースターと呼べる強打者はいないが、20本塁打以上が5人を占める打線は切れ目がない。トラビス・ハフナー、グレイディ・サイズモアといったスター候補生たちは、今季はやや不振だったとはいえ、大舞台でブレイクしてもまったく不思議はないだろう。
(写真:この時期、全米各地のスタジアムは熱狂に包まれる)
 そしてこのチームの何よりの強みは、CC・サバシア、ファウシスト・カルモナという強力な2枚のエースを持っていること。今秋はエンジェルスがラッキーとエスコバル、ヤンキースが王健民とアンディ・ペティート、レッドソックスがベケットとシリング(あるいは松坂)と、各チームがそれぞれ2枚看板と言える投手を抱えている。だがその中でも、現在の勢いと支配力ではインディアンスの2人がベストだ。
 特に5戦制の地区シリーズで、サバシア、カルモナと3〜4度対戦しなければいけないチームは相当に不利と言える。つまり、ヤンキースには危険信号点滅だ。実際に「ESPN.COM」のコラムニストたちも、10人中7人がヤンキースとの地区シリーズはインディアンス有利としている。そして筆者の意見も、その7人と同じである。


直前大胆予想
<地区シリーズ>
○インディアンス 3勝1敗 ×ヤンキース
○エンジェルス  3勝2敗 ×レッドソックス

<優勝決定シリーズ>
○エンジェルス  4勝3敗 ×インディアンス


杉浦 大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
◎バックナンバーはこちらから