9月初旬に行われた3大陸トーナメント大会、日本代表はホスト国のスイス、オーストリアを抑えて、優勝を果たしました。7日のオーストリア戦はPK戦の末に敗れたものの、11日のスイス戦は4−3で逆転勝ち。最後まで集中力の切れないプレーが印象的でしたね。

 この遠征で何より評価したいのは、選手たちの気持ちの強さです。オシム体制初選出の松井はもちろんのこと、積極果敢にボールに飛び込んだ巻、次々と前線のスペースに飛び出した闘莉王など全員が気迫にあふれていた。オシムジャパン初の欧州での大会ということもあり、選手たちのモチベーションは非常に高かったですね。敵地でチーム一丸となって結果を出せたことは選手たちにとって大きな自信になるでしょう。

 ただ、やはり課題も見えましたね。まず、簡単なパスミスが目立ちました。得点こそ奪っていますが、フィニッシュの段階のプレーの精度もよくありませんでした。オシムジャパン発足から1年以上経ったこともあり、オシム監督の理念を選手はわかってきています。これらの課題を修正できれば、より上を目指すことができると思います。

 来年2月から、ついに南アフリカW杯の予選が始まります。3大陸トーナメントに参加したメンバーは素晴らしいプレーを見せてくれましたが、彼らのポジションが安泰というわけではありません。予選に向けて、今まで呼ばれていない選手もテストされる機会は必ず出てくるでしょう。オシム監督もそう考えているのではないでしょうか。

 その中でも私が注目しているのはMF小笠原(鹿島)です。小笠原は、シンプルにはたいてプレーする中村俊(セルティック)とは違うタイプのゲームメーカー。体幹の強さを生かしたボールキープでタメをつくることができます。ミドルレンジからのシュートも正確で力強い。オシムジャパンのアクセントとなりえる存在です。この小笠原をはじめ、オシム監督が今後どのような新戦力を招集するのか。注目していきたいですね。

 北京五輪を目指すU-22代表にも触れておきましょう。U-22代表を率いる反町監督に対して、メディアや協会から厳しい意見が出ています。しかし、私自身は、反町監督でなければ、ここまでの成績を残せなかったと思っています。チームは最終予選3試合を終えて、2勝1分の勝ち点7で首位。これだけの結果を残しています。反町監督の情熱が選手たちに深く浸透している証ですよ。逆に高く評価されるべきだと思いますね。

【勝利の喜びは疲労を忘れさせてくれる】

 いよいよ今季のJリーグも佳境に入ってきましたね。第26節を終えて、連覇を狙う浦和が2位のG大阪に勝ち点6差をつけて首位に立っています。今の浦和には死角が見当たりません。闘莉王、鈴木ら日本代表選手を中心とした守備は堅く、非常に安定した戦いを見せています。

 代表、アジアチャンピオンズリーグ、リーグ戦と過密日程により、選手の疲労は明らかにピークに達しています。しかし、勝利の喜びというのは疲れを吹き飛ばして、背中を押してくれるもの。私も現役時代に経験しているから、よくわかります。今の浦和の選手たちは疲労があっても、それを感じないような状態なのでしょう。

 G大阪にしてみれば、第20節(8月15日)で浦和との直接対決に敗れたことが響きましたね。それまで首位を立っていましたが、一気に勝ち点1差につめよられた。その後、2勝2分3敗とふるわず、首位を明け渡してしまいました。緊張の糸がプッツリ切れた印象がありますね。勝ち点6差のビハインドは大きく、厳しい状況に立たされています。

 もちろん、浦和が落ちてくる可能性がないわけではありません。第26節終了現在、2敗で抑えていますが、3敗目を喫するとガタガタと音を立てて、崩れるかもしれない。そうなれば、今までは勝利の喜びで抑えていた疲労も吹き出してきます。まだまだ、優勝争いからは目が離せないということですよ。

 最後に、僕の古巣の鹿島アントラーズについて。現在、リーグ戦で3位につけていますが、首位浦和とは勝ち点10差があり、優勝は厳しいでしょう。限りなく赤信号に近い黄信号が点滅していると思っています。しかし、仮にリーグ優勝が難しくても、ナビスコ杯、天皇杯とクラブ10個目のタイトルを獲るチャンスは残されていますからね。

 10冠の鍵を握るのはタテのラインだと思っています。各ポジションの核となるFW柳沢、MF小笠原、DF岩政、GK曽我端の4人です。彼らが中心になって、しっかりとチームを締めてほしい。先の新潟戦で2ゴールを決めたFW田代ら勢いのある選手が絡み、自分たちのサッカーができれば、タイトルを手中に収めることができるでしょう。鹿島のサポーターはJクラブ前人未到の10冠達成を待ち焦がれています。朗報を楽しみに待ちたいと思っています。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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