「田尾(安志)や牛島(和彦)のような1度も指導者としてユニフォームを着たことがない者を理論派と呼ぶのはむずかしい」
 かつて楽天・野村克也監督はこう語ったという。

 田尾氏は楽天が新規参入した05年に指揮を執り、勝率2割8分1厘で最下位。牛島氏は05、06年の2年間、横浜を率い3位と最下位。チーム事情を考えれば同情すべき点はあるが、監督として成功したとは言い難い。

 監督に就任する前、田尾氏の打撃理論、牛島氏の投球理論はともにメディアから高い評価を受けていた。コーチを経験することなく、監督になった。「一度、コーチを経験しとった方がよかったんや」と野村監督は続けたかったのかもしれない。

 ストーブリーグの季節になるとマスコミ辞令として、多くの評論家が監督候補としてメディアをにぎわせる。今季は人気評論家の栗山英樹氏が、その代表格か。
 ファンからも、こんな話をよく耳にする。
「一度、Xさんに監督をやらせてみたい。あの人のピッチング理論は素晴らしい。頭も良さそうだし……」
「Yさんのバッティング理論にはうなずける点が多い。ああいう人が指導すれば、もっとスターが生まれてくると思うんだ。本人にはユニフォームを着る気がないのかな……」

 テレビの解説を聞いていたら、誰でも今すぐ名監督になれるような気がする。読みが的中すれば「私の言ったとおりになったでしょう」とサラリと言っておけばいいし、読みがはずれて負けた場合は「あのポイントでの起用法が勝負を分けましたね」と嫌味たっぷりに答えればいいのだ。

 2リーグ制以後の巨人で唯一、チームを優勝に導けなかった堀内恒夫氏もテレビ解説は評判がよく、読売グループ内からも「彼は理論家だ」との声が上がっていた。皇太子夫妻が野球観戦に訪れた際には解説役も務めた。「名選手名伯楽に非ず」との格言があるが、同様に「名評論家名監督に非ず」でもある。

<この原稿は07年10月8日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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