近年のボクシング界では最大規模の試合前記者会見が、9月19日にニューヨークのロッカフェラーセンターで行なわれた。
 会場はクリスマスに世界最大のツリーが飾られる敷地内。そこで、なんとオスカー・デラホーヤとバーナード・ホプキンスが司会役に起用され、12月8日に予定されるWBCウェルター級タイトルマッチ、フロイド・メイウェザー対リッキー・ハットン戦のプロモーションイベントが盛大に催された。
「ボクシングが死んだなんて言ったのは誰だ? 今年の終わりには最高のカードが連続で用意されているんだぜ!」ホプキンスはその場で高らかにそう叫んだ。
(写真:左からメイウェザー、ホプキンス、ハットン、デラホーヤと記者会見には新旧スター4人が揃った)
 その言葉通り、この試合の約1ヶ月前の11月10日にはWBCウェルター級タイトル戦としてミゲール・コット対シェーン・モズリー戦も行なわれる。共に世界中から注目を集めそうなこの重要な2試合で、今年のボクシング界は華やかに幕を閉じようとしている。

 それにしても、次々と垂涎ものの好カードを生み出す米ボクシング業界には感心せずにはいられない。人材の枯渇を恐れず、その時点で最強の者同士、あるいは最も注目を集めそうな選手同士を直接対決させる。
 特に今回の2試合は、それぞれ強敵を倒して来たもの同士による「準決勝」的位置づけのカードであるだけに、実現の意味合いは大きい。

(写真:ハットン(左)とメイウェザーの対戦は今年度末を飾る大イベントだ)
 まずはフェルナンド・バルガスに2連勝したモズリーと、ザブ・ジュダーをストップしたコットが激突。続いてデラホーヤを明白な判定で破ったメイウェザーが、ホゼ・ルイス・カスティーヨを4RKOで倒したハットンと雌雄を決する。さらにこの2試合の勝者が来年の「決勝戦」で対戦すれば、名実共に誰もが認める新たな中量級の覇者が生まれるというわけだ。
 こんな壮大なストーリーを楽しめるのだから、ここしばらくはやや人気低迷中だと言っても、やはりアメリカのボクシングファンは幸せである。そしてもちろん1試合ずつをとって見ても、今年末に行なわれる2大世界戦はどちらも激闘必至の好カードだ。

 そこで今回は、この2試合の行方を一足先に具体的に占ってみたい。東西に分かれて行なう決戦を勝ち抜いて、晴れて中量級ウォーズ「決勝戦」に駒を進めるのは誰か?

■WBAウェルター級タイトル戦 11月10日@ニューヨーク
 ミゲール・コット(プエルトリコ/30戦30勝(25KO))
  対
 シェーン・モズリー(アメリカ/44勝4敗(37KO))

 結果の予想がし難いことでは近年有数のこの対戦。「ESPN.COM」のダン・ラファエル氏も「まさに互角の実力者同士で、まだどちらを有利とするか決められないでいる」と記している。
 馬力のコット、スピードのモズリーとスタイルは対照的だが、好戦的な性格同士で試合が噛み合うことは必至。戦前の会見では尊敬の言葉を交換し合った真面目な2人は、リング上では一歩も引かず真っ向から打撃戦を繰り広げるだろう。

(写真:コット(左)対モズリー戦は実力伯仲の好カードだ)
 モズリーがハンドスピードに任せて圧倒するか、あるいはコットが若さに裏打ちされた馬力で押し切るか。技術はモズリー、パワーはコットがやや上。あとはタフネス、スタミナ次第で勝負が決まりそう。
 筆者の予想を述べるなら、時の勢い、第2の地元と言えるニューヨークで戦える地の利、ジュダー戦である程度の打たれ強さを示したことなどから、わずかにコット有利と見える。打ちつ打たれつの展開の末に、中盤以降にわずかに抜け出したコットが際どい判定勝利を得るだろう。
 もっとも、モズリーのパンチもかなり当たりそうで、それでコットが大きなダメージを負ってしまった場合には結果はまったく違ったものになる。いずれにしても、「年間最高試合」候補と開始前から囁かれるこの試合は、最後まで目が離せない激闘になることだけは間違いない。

■WBCウェルター級タイトル戦 12月8日@ラスベガス
 フロイド・メイウェザー(アメリカ/38戦38勝(24KO))
  対
 リッキー・ハットン(イギリス/43戦43勝(31KO))

 一方、やや評判倒れになりそうなのがこちらの試合。「全勝同士」「日英対決」「07年最後の大試合」とバックグラウンドは派手だが、両者の力量差自体は歴然としているように思える。
 ハットンは前戦であのタフなカスティーヨをKOして男を上げた。だがその試合のカスティーヨの動きは極めて鈍く、とてもじゃないがかつてメイウェザーと接戦を繰り広げたのと同じボクサーには見えなかった。今が絶頂期にあるメイウェザーを相手に、同じやり方でハットンが勝てるとは思えない。
 コットと同じく馬力とインファイトが売りのハットンだが、接近してからの攻撃パターンに乏しいのが弱点。よって、試合が長引いたときには、飛び込みざまのボディブローとクリンチを延々と繰り返すことになる。また、決して強打者ではないルイ・コラーゾのパンチでダメージを受けたように、打たれ強さにも少々疑問符が付く。
 スピード、技術、勘の良さを全て備えたメイウェザーなら、そういったハットンの弱点を軽々とついてくるだろう。サイドに動いてジャブを付き、接近されても簡単に体勢を入れ替える。時に強烈なカウンターを鼻先にお見舞いして、相手に思い切ったアタックを許さなくする。

 結果として、メイウェザーが序盤から着々とポイントを稼いで行くはず。そこでKOしきれないがためにメイウェザーの人気、知名度も飛躍しないのではあるが、それでも採点自体は問題ない。終盤にはブーイングも訊かれるほどの明白な判定で、現代最高のスピードスターの手が上がるだろう。
 しかし、続く「決勝戦」をより盛り上げるためにも、メイウェザーにもそろそろ何らかの形でドラマチックな結末を演出して欲しいもの。これまで不敗のハットンを追い込み、予想を超える壮絶ストップ勝ちでも抑められれば、降って湧いたボクシング界の隆盛にもさらに弾みがつくのだが……。
(写真:デラホーヤの存在はイベントを盛り上げる)


杉浦 大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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