優勝争いをしている最中での日本ハム・トレイ・ヒルマン監督の唐突な退任発表。他の球団なら「サプライズ!」となるところだが、日本ハムは違った。「異例かもしれないけれど、日本ハムじゃあり得ない話じゃない」と大社啓二オーナー。現場レベルも落ち着いたもので動揺の色はほとんど見られない。

 大社オーナーのコメントにもあるように、昨季はビッグスターの新庄剛志が4月早々にシーズン限りでの引退を表明した。シーズンオフにはFA権を行使して主砲の小笠原道大が巨人へ、貴重な左のセットアッパー岡島秀樹がレッドソックスへと移籍した。相次ぐ主力の退団、流出を受けて開幕前には日本ハムを下位に予想する評論家も少なくなかった。しかし、9月11日現在、2位・ソフトバンクに2ゲーム差をつけて堂々の首位。連覇となれば球団史上初の快挙だ。

 日本ハム躍進の原動力――それは「チームは生き物だ」という球団のフィロソフィー(哲学)に求められる。先の言葉を口にしたのは現球団社長の藤井純一である。藤井はJリーグ・セレッソ大阪の球団社長を4年間務めた実績を買われ、ファイターズの経営を任されるようになった。周知のように野球以上にサッカーは選手の出入りが激しく、監督交代の頻度も高い。地域に根付き、ファンに愛されるためにはどうすべきか。

 藤井は言う。「選手や監督個々の力に頼るのではなく、チームそのものの魅力を高めていくしかない。そのためにはチームをブランド化し、ロイヤルティーを向上させる必要があった。ヨーロッパのサッカーを見てもメジャーリーグを見てもチームは生き物だということがよくわかる。生き物である以上、新陳代謝は当然。来る人間がいれば、去る人間もいる。それに一喜一憂しているわけにはいかない」

 全く同感だ。私はチームはバスのようなものだと思っている。乗る人間がいれば降りる人間もいる。車内の風景が変わっても、何事もなかったようにバスは走り続けなければならない。「新庄や小笠原がいなくなったというのに今季は(昨季よりも)お客さんが増えているんですよ」。この事実は札幌に移転して丸4年、ファイターズが名実ともに道民球団に成長した何よりの証と言えそうだ。

<この原稿は07年9月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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