少し前の話になりますが、8月7日にアイランドリーグ選抜の監督として石川に遠征し、北信越BCリーグ選抜との交流試合に臨みました。若者が野球にチャレンジできる土壌が誕生し、こうして試合ができたことを本当にうれしく感じました。

 結果は16−1。アイランドリーグの大勝に終わりました。リーグ3年目と1年目の差が出た試合だったと言えるでしょう。BCリーグ側は大事なところでエラーやムダな四球が出た分、ワンサイドゲームになってしまいました。各チームの監督・コーチのみなさんはNPB経験者ばかりですから、おそらく理想と現実のギャップに悩んでいるのではないでしょうか。

 でも、アイランドリーグも最初は同じでした。つまらないプレーでみなさんから、かなりお叱りをいただいたものです。独立リーグの先輩として1つアドバイスさせてもらえるとすれば、「NPBと同じ感覚で教えてはダメだ」ということ。ドラフト指名される人間が“野球エリート”だとすれば、独立リーグにやってくるのは“雑草”です。基本から指導しないといけない段階の選手が多くいます。自分たちがNPBで当たり前にやっていたことは彼らにとって当たり前ではないかもしれない。この意識を持って接することが重要です。

 たとえば、高知では最初にキャッチボールを徹底して練習しました。捕球からスローイングまで基本動作を何度も何度も繰り返しました。千葉ロッテに行った角中勝也も初めはキャッチボールから。スローイングに難のあった彼が、秋には素晴らしいレーザービームを披露してスカウト陣を驚かせました。もちろん角中にドラフト指名されるだけの素質があったことは事実です。しかし、それを花開かせたのは、本人が基本をしっかり身につけてくれたからだと思っています。

 四国で監督を2年やってみると、チームにとってNPBに選手を送り込むことがいかに重要か、よくわかります。高知はリーグ初年度、優勝しましたがドラフト指名はゼロでした。一方、2年目は年間チャンピオンを逃しましたが角中がロッテに入団しました。もちろん、優勝できればもっと良かったのでしょうが、2年目のオフのほうが地元の反響は大きかったように感じました。
 
 7月に角中が1軍に昇格し、リーグ出身選手として初ヒットを放ったことで、周囲の目はさらに変わってきています。もしかしたら、この中にNPBで活躍できる選手がいるかもしれない。そんな期待を持って、チームを見ていただけるのはありがたいことです。

 選手たちも一緒にやっていた仲間がテレビの向こうでプレーしていれば、大いに刺激を受けます。現に角中が1軍に昇格したときには、誰もがCS放送の見える家やお店に行って試合中継を見ていました。マリーンズのユニホームを見た角中を見てハートに火がつかなかった人間はいないはずです。高知は後期も3位に沈んでいますが、最後に今シーズンの集大成を見せてくれることでしょう。

“独立リーグの選手はプロであってプロでない”
 結論を言えばこの一言に尽きるのかもしれませんね。ファンのみなさんに愛されるチームになるため、地域密着をおろそかにすることはできません。ファンサービスをしたり、地元の活動に貢献したり、子どもたちに野球を教えたり……。この点はNPB以上にプロとしての自覚と努力が必要でしょう。

 一方でグラウンドの中では、いかにこのリーグを離れてNPBに行くかを考えなくてはいけません。ここはアマチュアの選手と変わりはなく、監督・コーチの指導力が試されます。選手任せでうまくいくなら、既に彼らは上のレベルで野球をしています。BCリーグは立ち上がったばかりで首脳陣も関係者のみなさんも大変な時期でしょうが、目標を高く定め、互いに切磋琢磨したいものです。

 日本の新しい野球文化をつくるためにも、両リーグの発展は不可欠です。シーズンの最後にはBCリーグチャンピオンとのチャンピオンシップが行われます。その舞台に立てるよう、残り試合、“Win the Win”のスローガンに立ち返って戦い抜きます。引き続いての応援、どうかよろしくお願いします。


藤城和明(ふじしろ・かずあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1956年4月5日、兵庫県出身。150キロ近い剛速球を武器にした本格派右腕として、市立琴丘高から新日鉄広畑へ進み、77年のドラフト1位で巨人に入団。82年に阪急へ移籍。86年、ロッテで現役を終えた。引退後は歌手デビューして注目を集める。93年より5年間、巨人の2軍投手コーチを務め、98年には韓国・三星ライオンズ投手コーチも経験した。現役時代の通算成績は101試合14勝19敗、防御率4.51。05年の四国アイランドリーグ創設に伴い、高知の監督に就任。07年も3シーズン目の指揮を執る。



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