実業団日本一を決定する「日本リーグ」での決勝トーナメント進出を目指した伊予銀行男子テニス部。今季は2年連続で4位に終わり、惜しくも目標を達成することはできなかった。
 もちろん、来季の目標は3年ぶりに決勝トーナメントに進出することだ。しかし、目標を達成するためには、さらなるレベルアップが不可欠だ。では今、チームには何が必要とされているのか――。キャプテンとして2年目を迎えた日下部聡選手に各選手の現状と課題について訊いた。

 前回の日本リーグ第2ステージ最終戦、伊予銀行は勝たなければいけない相手だったリコーに1−2で敗れた。日下部選手は、その敗因を「勝利への執念不足」と言い、日本リーグでの最大の反省点として挙げた。

 それから約1年、昨年12月から今年1月にかけて行なわれた日本リーグ第2ステージ最終戦、伊予銀行は再びリコーと対戦した。結果はシングルスを2本とも取った伊予銀行が2−1で勝ち、雪辱を果たした。

「決勝トーナメントに進出することはできませんでしたが、リコーには前回の借りを返すことができました。今回は僕たちの方が勝利への気持ちが強かった。チームが精神的に成長した証拠だと思います」

 その最大の要因は昨年4月に入行し、社会人1年目の植木竜太郎選手だ。
「植木の練習で前向きに取り組む姿や、試合で気持ちを前面に出したプレーがチーム全体のモチベーションを上げてくれたのだと思います」と日下部選手。植木選手がチームに与えた影響は大きかったようだ。

 日本リーグではプロからも白星を挙げた植木選手。彼の躍進ぶりは先輩らに「プロ相手にも、勝てるんだ」という自信を起こさせた。そして「後輩がこんなに頑張っているんだから」と鼓舞させたのだという。

 そんな植木選手も春から夏にかけては仕事とテニスの両立に悩み、大学とは全く違う生活環境の変化にとまどいを見せていた。しかし、今ではすっかり職場にも慣れ、テニスにも集中できているようだ。

 では、植木選手の今後の課題とは何なのか。日下部選手は「メンタル面」と言う。それは気持ちを前面に出すことが植木選手の最大の長所でもあり、また課題でもある。
「団体戦だと、僕たち周りが盛り上げられますから、植木も気持ちが乗るんでしょうね。そういう時の植木は本当にすごいプレーをするんです。
 ところが、個人戦になると、当然一人で戦わなければいけませんから、ちょっとしたことがきっかけでガクンとテンションが下がってしまう。そのためにプロに勝つほどの腕をもちながら、格下に負けてしまうこともあるんです」

 植木選手は試合中、少しでも納得のいかないプレーをすると、「何が悪いんだろう?」と考えこんでしまうことがしばしばある。また、自分では取れると思ったポイントが取れなかった時、「もっと厳しいコースに打たなければ」と思いすぎるあまり、そこから気持ちを引き上げることがなかなかできないのだという。

 ミスをしても、すぐに気持ちを切り替え、次のプレーに集中する――これが植木選手の当面の課題だ。
「でも、彼はまだ23歳と若い。これからどんどん経験を積むことで、メンタル面が鍛えられていくと思います」と日下部選手。来季はどんな活躍してくれるのか、植木選手への期待は高まるばかりだ。

 チームの支柱を担う湯地選手

 さて、日本リーグではダブルスを組んだのが萩森友寛選手と湯地和愛選手だ。
「萩森はここ一番の大事な場面で守りに入らず、強気の姿勢でポイントを取りにいけるようになりました」と日下部選手は萩森選手の成長についてこう語った。

 萩森選手は、サーブ、ストローク、ボレー……どんなプレーもソツなくこなせるオールラウンドプレーヤーだ。その半面、これといった武器がないため、相手のプレースタイルに合わせてしまうことが多いのが、悩みどころだ。
 だが、日下部選手は、その武器のなさを逆に武器にすることができる、とアドバイスを送る。

「萩森は、植木のように自分の武器をいかして自らポイントを狙っていくというタイプではありません。でも、それは逆に言えば、相手のプレースタイルによって自分のプレースタイルを変えられるということでもあります。試合の中で相手が何を苦手としているのか、を早めに見極めることで作戦をたてられるんです。これは、なんでもソツなくできる萩森だからこそできることです」
 今後、萩森選手には相手のプレースタイルを見極める“目”と、素早く状況判断しながら作戦を組み立てる“臨機応変さ”が求められる。

 一方、チーム最年長の湯地和愛選手は、今ではプレーイングコーチ的役割を果たしている。
「湯地さんは周りがよく見えていて、各選手にいろいろとアドバイスしてくれます。普段の練習でも自ら球出しを買って出てくれてフォームをチェックしてくれるんです。本当に湯地さんには支えてもらっています」
 日下部選手も、湯地には全幅の信頼を寄せる。チームにとってはなくてはならない存在だ。先の「精神面での成長」も、こうした湯地選手の支えがあったからに他ならない。

 その湯地選手から昨年、キャプテンを引き継いだ日下部選手は今季、ランキングは自己最高の42位にまで浮上した。その最大の要因は守りを重視した点にあるという。
「僕も大学を卒業したばかりの頃は、植木のようにどんどん自分から積極的に攻めるタイプのプレーヤーでした。でも、ここ数年で自分から動くのではなく、相手にミスをさせるる“守るテニス”に変わってきました。2007年度はその守りを徹底したことで、自分のプレースタイルが確立された。それが自己最高のランキングとなって表れているのだと思います」

 例えばストローク戦。一見、相手が積極的に攻めているように見えていながら、スライスなどでタイミングをずらし、打ち気にはやる相手に「アンフォースドエラー」(イージーミス)をさせるのだ。実は、テニスというスポーツはこの「アンフォースドエラー」をどれだけ少なくするかで勝負が決まると言っても過言ではない。相手からどれだけミスを誘うことができるか。それが“守りのテニス”だ。今後はこの守りのテニスに、バランスよく攻めのテニスを掛け合わせたプレースタイルを確立することが目標だ。

 さて、3月半ばからは4月に入行する小川冬樹選手(神戸学院大)も練習に参加し、現在は主にフォームチェックなどの基本練習を行っている。小川選手の加入で人数が5人となった伊予銀行。日本リーグに出場できる4枠に入るには 、チームメイトに勝つことが必要となる。それだけに競争意識が芽生え、互いに「負けられない」とばかりに練習にもより一層熱が入っているようだ。

 4月からは本格的にシーズンが始まる。「心技体、全てにおいて成長させていきたい」と日下部選手。果たして、2008年度はどんなシーズンとなるのか。伊予銀行男子テニス部の躍進に期待したい。


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