高校、大学、社会人の女子硬式野球チームが一同に顔を合わせ、日本一を決定する「全日本女子硬式野球選手権大会」は今年で3回目を迎えた。昨年に引き続き、松山を舞台に8月4日(金)から4日間、熱戦が繰り広げられる。愛媛初の女子硬式野球チーム「マドンナ松山」も2年連続の出場となる。

(写真:中学生から30代まで幅広い年代の選手が所属するマドンナ松山)
 松山市郊外へ車を飛ばして約20分。山に抱かれたグラウンドで選手たちは大会直前の練習に励んでいる。梅雨が明け、気温30度を超す猛暑の中、マドンナたちは大粒の汗を光らせながら動き回っていた。さらに山を登ると“女子野球 マドンナ松山”という大きな横断幕が掲げられた専用の打撃練習場(写真)もある。

「おかげさまで練習環境はかなりよくなってきました。スポンサーさんや市民のみなさんの援助で活動資金も集まっています。チーム結成2年目になり、人・モノ・カネについては充実してきました」
 チームを率いる酒井秀和監督(伊予銀行)も活動が軌道に乗ってきたことを実感している。マドンナ松山は昨年5月、全日本女子硬式野球選手権大会が松山で開催されるにあたり、四国初の女子硬式野球チームとして発足した。伊予銀行女子ソフトボールチームのOGを中心に選手を集めたが、大会までの期間は約3ヵ月しかなかった。

「いかにチームとしてまとまって大会に出るか。それだけで精一杯でした。フォーメーションや細かいプレーまでしっかりできなかったですね」
 キャプテンで外野を守る東純子選手(伊予銀行)は昨年のチームをこう振り返る。初戦こそ山口県のアトランタ96に22−0と大勝したが、2回戦は日本代表クラスも所属する埼玉県のトクハルレディースハマンジに3−7と及ばなかった。
「序盤はリードしていて勝てない試合ではなかった。悔しい気持ちでいっぱいでした。もっと野球をやりたいという気持ちが沸いてきました」

 その思いはどの選手も同じだった。オフシーズンを終え、今年初めての練習。選手たちの打球は一冬を越えて鋭さを増していた。全体練習がない日でも各自で素振りやトレーニングを重ねていた成果だった。

 東京ヤクルトの選手もアドバイス
 
 プロ野球選手との出会いも刺激になった。自主トレで松山を訪れた東京ヤクルトスワローズの選手と一緒に練習する機会をつくってもらった。宮本慎也、宮出隆自らヤクルトの主力プレイヤーの指導を受け、バッティングのコツを伝授された。結果、東キャプテンは納得いく打撃ができるようになったという。
「私の場合、会心の当たりだと思っていたのが失速してしまう。その悩みを思い切って聞いてみたら、“腰の開きが早い”とアドバイスをもらいました。ボールにバットが当たる前に腰が開くと、力が逃げていってしまう。そこで腰を意識しながらスイングするようにしました。それだけで強い打球が打てるようになったんです」
(写真:ティーバッティングから選手たちは次々と快音を響かせる)

 今年からチームに加わった兼頭知子選手(伊予銀行)は、目の前でみるプロのテクニックに感心した。
「宮本さんはすごく難しい打球でも普通に捕っていた。見た目は地味かもしれないけど、ああいうのが投手に安心感を与える守備なんだなと思いました」
 兼頭選手は伊予銀行女子ソフトボール部出身でショートを守る。昨年の大会はスタンドから応援していた。「野球をやってみたい」。ソフトボールでは1部リーグで打率3割の経験もある好打者だったが、思い切って野球にチャレンジすることにした。

 ソフトボールと野球は似て非なるスポーツである。ソフトボールをやっていたからといって、いきなり大活躍できるほど野球は甘いものではない。グラウンドやボールのサイズ、ピッチャーの投法、走塁のルール……。兼頭も最初はとまどった。
「まず、グラウンドが広いので守っていてバウンドが途中で変わることがある。スローイングにしてもソフトボールは5本指でつかんで投げていましたが、野球は持ちかえて2本の指で投げないといけない。いつもギリギリの状態で守っています。大会は楽しみでもあり、不安ですね」
 銀行での仕事が終わった後はトレーニングに加え、テレビでプロ野球中継をみながら、一流選手の動きや配球を勉強する。「打って、投げて、走れるところ。そして点が入ったときの喜びはたまらない」。兼頭選手は今、野球にどっぷりとハマっている。

「ソフトボールだとボールはフワッと落ちてくるんですけど、硬式ボールの場合は落下するのは速いですからね。ライナーでも硬式ボールはドライブがかかったり、スーッと伸びたりします。ここは理屈じゃなくて経験しないとわからない。それでも彼女たちは野球に頑張って慣れようとしている。大会でもそれなりの結果は出すんじゃないですか」
 酒井監督もソフトボール経験者の活躍に期待を寄せる。今季は兼頭選手も含め、伊予銀行ソフトボール部から2名が新たに加わり、選手層は厚くなった。練習試合でも、昨年は歯がたたなかった中学生の男子シニアチームと互角の勝負ができるようになった。チーム力は確実にアップしている。
(写真:守りでは一歩目の動き出しを速くすることを徹底する)

 エースは中学生、4番は主婦

 大会の目標は昨年の1勝を2つ上回る3勝。「昨年よりもしっかり練習は積んできた。実現可能な数字です」。東キャプテンは自信をみせる。今大会はトーナメントではなくリーグ戦に方式が変更された。予選リーグ3試合で一気に目標を達成すれば、決勝リーグ進出と3位以内入賞が決まる。予選リーグ初戦は一昨年の準優勝チーム、埼玉栄高校との対戦が組まれた。

 キーマンとなるマドンナ松山のエースは中学2年生だ。江嶋あかり選手はサウスポーでストレートとカーブのコンビネーションで大人たちを牛耳っていく。気持ちも強く、大舞台でもナイスピッチングを見せてくれるはずだ。

 一方、4番は新婚の主婦が務める。平田恵選手は「松井秀喜タイプ」(酒井監督)の左のスラッガー。昨年の大会では、広い坊っちゃんスタジアムの中で、あわやフェンスダイレクトという大飛球を放った。しかも、それが逆方向の当たりだったから観客や関係者を驚かせた。大会を視察していた女子日本代表・大倉孝一監督が代表のセレクションに自ら誘ったほどの強打者だ。「平田の前にはランナーをためるようにもっていきたい。あいつならなんとかしてくれる」。酒井監督も全幅の信頼を寄せる。

 若さと経験が融合した今年のチーム。上位進出には何が必要か。酒井監督は“基本”の大切さを説く。
「男性の場合は長年の蓄積がありますから、基本プラスアルファの部分で勝ち負けが決まっていきますが、女子の場合はまだまだ歴史が浅い。まずは基本ができるチームが強いですね。だから、チーム結成時からスローイングひとつにしても基本を徹底的にやってきました」
(写真:「目が死んだらイカンぞ」。選手に熱く語る酒井監督)

 理想とするスタイルは“夏将軍”と呼ばれた母校・松山商業の野球だ。酒井監督も高校時代、松商野球を体に叩き込んだ。バント、エンドランなど小技を絡めながら少ないチャンスで点をもぎ取り、固い守備で相手を最小失点で抑える。「これこそが野球の基本」と酒井監督は考えている。

「野球王国の名前に恥じないようなプレーをみせたいですね。昨年は多くの人に応援にきていただいて感動しました。今年は逆にみなさんに感動を与える野球をしたいと思います。ぜひ期待していてください」
 キャプテンらしく東選手が意気込みを語った。野球王国・愛媛の球史に新たな1ページを書き加えることができるのか。元気はつらつのマドンナたちに勝利の女神が微笑む日は、もうそこまでやってきている。


 伊予銀行杯 第3回全日本女子硬式野球選手権大会 概要

【日程】 2007年8月4日(土)〜7日(火)
【会場】 松山・マドンナスタジアム、坊っちゃんスタジアム
【出場チーム】 12チーム
 平成国際大学(埼玉・初出場)
 倉敷ピーチジャックスレディース(岡山・2年連続2回目)
 尚美学園大学(埼玉・2年連続2回目)
 マドンナ松山(愛媛・2年連続2回目)
 オレンジレディース(埼玉・3年連続3回目)
 神村学園高等学校(鹿児島・3年連続3回目) 第1回大会優勝
 埼玉栄高等学校(埼玉・3年連続3回目) 第1回大会準優勝
 サムライ(埼玉・3年連続3回目) 第2回大会優勝
 浜松ケイ・スポーツ・オレティーズ(静岡・3年連続3回目)
 ビーバーズ(埼玉・3年連続3回目)
 BLESS(大阪・3年連続3回目)
 ホーネッツ・レディース(北海道・3年連続3回目)
【大会形式】
[予選]出場12チームを3ブロック(1ブロック4チーム)に分けたリーグ戦
[決勝]各ブロック1位チームによるリーグ戦

 マドンナ松山 対戦スケジュール
<1次リーグ>
4日(土) 埼玉栄高等学校(マドンナスタジアム) 9時30分〜 
5日(日) 浜松ケイ・スポーツ・オレティーズ(坊っちゃんスタジアム) 12時〜    
6日(月) 平成国際大学(マドンナスタジアム) 12時〜
<決勝リーグ> ※予選通過の場合
7日(火) 時間・対戦未定(坊っちゃんスタジアム)

【主催】 特定非営利活動法人 日本女子野球協会
【共催】 松山市/松山市教育委員会
【後援】 財団法人日本野球連盟/愛媛県野球連盟/愛媛新聞社
【協力】 関東女子硬式野球連盟/全国高等学校女子硬式野連盟/松山観光コンベンション協会
【協賛】 株式会社伊予銀行/四国コカ・コーラボトリング株式会社/株式会社日本航空インターナショナル


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