今シーズン、3大会連続でダブルス優勝を果たした伊予銀行男子テニス部。シングルスでもキャプテンの日下部聡選手が九州毎日オープンでベスト4など、チームとして調子のよさをうかがわせていた。しかし5月末以降の大会ではシングルスは予選や初戦敗退が相次ぎ、ダブルスでもチームとしての優勝は一つもない。
 果たして、チーム状況、個々の調子はどうなのか――。

「少し、疲労が出てきたかもしれませんね」
 昨年まで3年間キャプテンを務めてきた最年長の湯地和愛選手は、チーム状況をそう語る。4月から各地を転戦してきた伊予銀行。5月には大阪、兵庫、東京、埼玉での4大会をこなした。もちろん、社会人である彼らは、銀行員としての仕事を両立させながらである。疲労が蓄積するのは仕方のないことだった。
(写真:チームを支える最年長の湯地選手)

「1カ月ほど休養期間を置いたほうがいい」
 そうアドバイスしてくれたのは、伊達公子や浅越しのぶなどを育て上げ、今やナショナルチームのゼネラルマネジャーを務める小浦武志氏だった。伊予銀行男子テニス部とは、10年以上の付き合いで、何かと相談に乗ってもらっているという。
「春先に、小浦先生からそう助言をいただいていたんです。それで6月初旬のJTT埼玉オープンを終えてから、7月初旬のJTT垂水オープンまでの約1カ月間は大会を入れませんでした」と湯地選手は言う。

 その後、伊予銀行はJTT垂水オープンと東海中日選手権に出場した。レベルの高い大会ということもあり、結果を残すことはできなかった。しかし、今後への課題を冷静に見つめ直すという点では有意義な大会となった。

 エースに必要な積極性

 11月に行なわれる全日本選手権や12、1月に行なわれる日本リーグに向けて、今後は各自の課題を修正しながらチームレベルの向上を図っていかなければならない。個々の選手について、横井晃一監督と湯地選手はどのように感じているのだろうか。
 まずは日下部選手について2人に訊いてみた。

「練習を見ている限り、最も調子を落としているように見えるのが日下部です。大会ではきちんと成績を残しているものの、持ち味である思い切りの良さが影を潜めてしまっているように感じます。
 彼は相手が自分よりもレベルが高い選手の場合は思い切りのよさを発揮するのですが、逆に自分と同じくらいか、あるいは下のレベルの選手の場合“勝たなければいけない”という気持ちが強くなって、消極的なプレーをすることがあります。
 春先にはそれが改善されつつあったのですが、7月に入って再び積極さを失ってしまっているようです。でも、結果は残していますから、それほど心配はしていません。秋頃までには、きちんと修正してくると思います」(横井監督)

「日下部は今年からキャプテンとなり、エースであることよりもキャプテンとしてチームのマネジメントを最優先としてきました。でも、ここにきてやはり、自分がエースとしてチームを引っ張らなければいけないという自覚が芽生えてきたようです。リコーのエースである八木宏和選手に完勝した先の垂水オープンでは、そのことがプレーに表れていたように思います。
 彼は陸上をやっていれば、100メートルを10秒台くらいのタイムで走ることができます。その脚力をいかし、ラファエル・ナダルのような抜群のコートカバーで粘り強さを発揮するのが彼の持ち味。
 ただ、そういうテニスばかりではどうしても守り中心になってしまいます。ここぞ、というときの1本を自らが攻めることができるようになれば、さらに強くなるでしょうね」(湯地選手)

(写真:ダブルスで好結果を残している萩森選手)
 続いて萩森友寛選手について湯地選手はこう語る。
「彼はサーブ、ストローク、ボレー……どんなプレーもソツなくこなせるオールラウンドプレーヤー。しかし、逆にコレといった武器がないのが彼の悩みの種でもあります。ただ、今ある技術をさらにグレードアップさせていくことができれば、それが彼の武器となっていくでしょう。
 また、彼は今年、ダブルスで好成績を残していますから、その点では非常に自信をつけていると思います。日本リーグでは、おそらく私とダブルスを組むことになるでしょうから、今後は2人のコンビネーションを築いていきたいと思っています」

 新人ゆえの悩み・苦労

 一方、湯地選手が最も気になっているのがルーキーの植木竜太郎選手だ。今年4月に入行した植木選手は、もちろん職場でも新人。伊予銀行では最初の1年間、営業事務や窓口業務など、ジョブローテーションでさまざまな職務を経験していく。研修や試験も多く、仕事とテニスを両立させるために毎日奮闘中だ。そんな植木選手を湯地選手はこう分析する。

「新しい環境に対応するのに必死で、少しゆとりがなくなってきているように感じられます。それがテニスにも影響しているのでしょう。先の東海中日選手権では本来なら勝てる相手に負けてしまいました。
 ただ、彼は年配の人からかわいがられるタイプ。少しずつ仕事にも慣れて自信がつけば、テニスでも本来の力を発揮できるようになるのではと期待しています。
 技術的には、社会人となりさらにもう一段上を目指していってほしいと思っています。というのも、大学の時のように自分のプレーさえやれば勝てるわけではありません。相手や自分の調子の良し悪しによってプレースタイルを変えていくことも必要です。そうしたテクニックを身に付けていってほしいですね」

 では、横井監督は植木選手をどのように見ているのだろうか。
「社会人1年目は、誰でも環境の変化にとまどうもの。個人差はあるものの、だいたい夏を過ぎる頃には、自分のペースをつかむことができるようになります。研修も多いですから、テニスの練習がままならず、はがゆいでしょうね。植木にとって、今が一番苦しい時期ではないでしょうか。
 しかし、彼は何でもポジティブに考えられるタイプ。たとえ落ち込んでも、悩みを抱え込むことはしません。ですから、近い内に調子を取り戻すのではないかと思っています」

 最後に、湯地選手について横井監督に訊いてみた。
「湯地には近い内に、私の後を引き継いでもらおうと思っています。周りをよく見ていますし、今でも選手たちの兄貴分としてキャプテンの日下部をうまくサポートしてくれています。指導者としては、申し分ないですね。
 ただ、今現在は現役なわけですから、もう少しプレーヤーとして頑張ってもらいたい。自分のことを考える時間をもっと大事にしてほしいんです。
 特にこれからの季節は体調管理が重要になってきますから、トレーニング以外の生活面でもケガをしない体づくりを心がけてほしいですね。そうすれば、もっと活躍できる選手だと私は思っています」

 当の本人も、ケガへの警戒心は強い。実は、昨年度の日本リーグ直前、湯地選手は練習中に右足首を捻挫した。そのため、日本リーグのファーストステージの第1戦、第3戦は横井監督が出場している。今年は万全を期して日本リーグに臨みたいという思いが、湯地選手には強くある。


 譲れない四国王者の座

 さて、7月25日から香川で開催されている四国選手権は、伊予銀行テニス部にとって非常に重要な大会だ。この大会で優勝すれば全日本選手権のB予選の出場枠が与えられるからだ。
 全日本選手権には3種類の予選がある。A予選ではランキングでダイレクトに本戦に入れなかった選手たちによって行なわれ、3回勝てば本戦に上がれる。B予選では賞金がついていない北信越、中国、四国、九州の4つの地域選手権の優勝者によって行われ、1回勝つだけで本戦に出場することができる。そしてC予選では47都道府県大会の優勝者が対戦し、4回勝てば本戦に上がることができる。
 つまり、四国選手権で優勝すれば、B予選で1回勝つだけで本戦の出場権が与えられるのだ。

 昨年はシングルスでは日下部選手が、ダブルスでは湯地、日下部ペアが見事優勝。日下部選手は、シングルスでB予選を経て本戦出場を果たした。今年はその日下部選手が第1シードで優勝に最も近い。
 地元開催の四国選手権では伊予銀行が勝って当然、という周りからのプレッシャーは他の大会以上に強い。「そういう中で勝ってこそ意味がある」と横井監督。その言葉からは、必ずや今年も伊予銀行から優勝者を出す、という意気込みが感じられた。

 それもそのはず。四国選手権では02年から伊予銀行がシングルス、ダブルスともに5年連続優勝している。もちろん、今年も四国王者の座をどこにも明け渡すつもりはない。四国でV6を達成し、全日本選手権や日本リーグへの弾みにしたいところだ。


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