“夢の球宴”、オールスターも終わり、プロ野球は24日からは後半戦に突入しました。今季はセ・パ両リーグともにダンゴ状態が続いており、どちらも最後まで目が離せそうにありません。特にセ・リーグは最後の最後に大どんでん返しが待っているかもしれません。
 今季のセ・リーグは昨年まで続いていた中日と阪神のいわゆる“2強時代”が終焉を迎え、チーム間の力量差はほとんどありません。前半戦の最後に首位に立った中日でさえも、前半戦を見る限りでは不安定さは拭えません。中日にとって一番怖いのは主力選手のケガです。既に打線の柱である福留孝介選手が右ヒジのケガで長期離脱が発表されています。今後、ケガ人が相次げば昨年覇者の中日といえども、非常に苦しい状況になるでしょう。

 意外にも最も安定しているのは25日現在3位の横浜です。過去5年間で最下位4度の横浜は、今季も5月は8連敗を含む15敗(7勝)を喫し、なかなか波に乗ることができませんでした。しかし6月には13勝6敗と大きく勝ち越し、7月も連敗は1度だけと、徐々に調子を上げてきています。
 今季の横浜はチーム力が非常にいい。投手の調子が悪ければ打線が援護し、逆に打線が沈黙した時は投手が踏ん張る、といったフォローがきちんとできているのです。最も腰を据えて野球ができていますから、ペナントレース中はもちろん、プレーオフでも他球団にとって手強い相手になりそうですよ。

 さて、今季はセ・リーグもプレーオフ制度が導入されました。ペナントレースで3位以内に入れば、日本シリーズ出場権をかけて「クライマックスシリーズ」を戦うことができるわけです。どの球団が最後にはAクラスに入るか、そのポイントとなるのが阪神と巨人です。

 キャンプ中、非常にいい仕上がりを見せていた阪神。ところが、期待していた投手陣が結果を残すことができず、ここ数年にはなかった苦しい前半戦となりました。その要因として一番に挙げられるのが、福原忍投手と安藤優也投手。昨年まで不動のエースだった井川慶投手の穴を埋めてくれるだろうと考えられていたこの二人が出遅れたことによって、先発ローテーションの構想が崩れてしまいました。

 福原投手は4月中旬になんとか今季初登板を果たしたものの、ここまで15試合に登板して2勝6敗。首脳陣も頭も悩ませていることでしょう。
 昨季は勝負どころでストレートでも得意のカーブでも思うように打ち取ることができました。ところが、今季はそれができていない。足のケガで踏ん張りがきかないため、リリースポイントが固定されていないからでしょう。昨季と比べてボール2個分程、高めに浮いてしまい、それを痛打されてしまうのです。

 7月10日の巨人戦では6回を3安打無失点に抑え、完全復活の兆しを見せました。しかし、次の16日の巨人戦では序盤に4点を失い、4回途中で降板しています。いい時と悪い時がハッキリしているのも今季の福原投手の特徴でしょう。
 しかし、調子の良し悪し関係なく、悪ければ悪いなりに抑えるのがエース。昨季、12勝をマークできたのはそういうピッチングができていたからです。マウンドに上がってみなければわからない、では首脳陣だって使いづらいでしょう。

 私見を述べれば、思い切って一度、2軍に落とし、じっくりと調整した方が福原のためにもチームのためにもいいと思うのです。
 というのも、プレーオフ進出をかけて正念場となるのは8月後半。その一番大事な時にこそエースが必要なのです。チームは今、若手の台頭もあり、いい状態にあります。そうである今だからこそ、福原に猶予を与えるチャンスではないかと思うのです。

 一方、巨人はというと、最も危機的状況にあるような気がしてなりません。というのも、今季はこれまでAクラスに定着しているものの、昨年と同様にチームが一つになっていないからです。これまでは選手の力でなんとか勝つことができていましたが、これから正念場を迎えるにつれて、チーム力のなさが浮き彫りになるかもしれません。

 首脳陣と選手たちの向かっている方向に統一性が感じられないのは、原辰徳監督の采配に芯の通ったリーダーシップが見られないからです。攻撃のサイン一つにしてもそうですが、原監督の考えはコロコロ変わってしまいます。
 もちろん、試合の流れに合わせて采配をふるうのが指揮官。しかし、それを選手が理解できているか、納得できているかが非常に重要なのです。それが今の原巨人には感じられません。

 例えば、7月15日の広島戦。2−2の同点で迎えた7回裏1死満塁の場面で、原監督はあろうことか二岡智宏選手の代打に1軍に昇格したばかりの小関竜也選手を送ったのです。私もこれには驚きました。
 二岡選手といえば、キャプテン・阿部慎之助選手、選手会長・高橋由伸選手、エース・上原浩治投手と並ぶ、巨人の貴重な生え抜きの主力選手です。その二岡選手を今季一度も1軍の試合に出場していなかった選手に代えたのです。おそらく二岡選手は納得できなかったでしょう。それでは発奮するどころか、選手は混乱してしまうだけです。

 24日からは左手親指を痛めている李承選手に代わって、4番に小笠原道大選手が起用されました。一昔のように常勝軍団でない現在、絶対的な4番は必要ありません。調子の良し悪しによって代えてもいいと私は思っています。

 重要なのは誰を4番にするかではなく、4番に起用した選手にその試合を最後まで任せ切ることができるか、ということなのです。4番とは攻撃の要。単に4番目に座っているというわけではありません。勝敗を左右する重要な役割を与えるのですから、変に送りバントなどさせず、ドーンと任せるべきです。そして負けたときには「4番のお前が打てなかったら負けたんだぞ」と言っていいのです。そうすれば、4番としての自覚や責任感が芽生えます。
 73代4番打者に指名された小笠原を、原監督は最後まで信頼して使うことができるでしょうか。注目したいですね。

 現在はAクラスにいる巨人ですが、今後はチーム一丸となることができなければ、プレーオフ進出への可能性も低くなるでしょう。Bクラスの球団が7月に入って好調の兆しを見せているだけに、決して楽観視はしていられません。
 10月の「クライマックスシリーズ」に出場できるのは、果たしてどの3球団でしょうか。今季は例年以上に面白いペナントレースが見られそうです。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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