「PRIDEは、この先どうなってしまうのでしょうか」
「海外のトップ選手は、ボードックファイトやUFCに皆、流れてしまいますよ。日本人選手だってHERO’Sに行ってしまうんじゃないですか。田村潔司とかもHERO’Sに出るんでしょ?」
「今年に入ってからPRIDEは、まだ1回しか大会を開いていないじゃないですか。(地上波での)テレビ中継も無くなったし、ファンに忘れられてしまいますよ」
 私の耳に届くのは、そんな声ばかりだ。色んな噂話も聞くが、まあ、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかと私は思う。
 ここ数年、総合格闘技のビッグイベントが毎月のように開かれていた。PRIDEにせよ、HERO’S にせよ、一つの大会が終われば、話題はすぐに次の大会へと移っていく。ビッグマッチを見終えた後の余韻に浸る時間もなく連続ドラマのストーリーを追うことに、ファンは慣れてしまった。だから、時間が空くと退屈に感じてしまう。加えて、観る者の興味が、試合そのものではなく、興行の行方だったりするのにも違和感を覚える。我々は、プロモーターではないのだ、試合自体を、ゆっくりと待ち、ゆったり楽しみたい。

「ストレスなんですよね、次の試合が決まらないことが…」
 ある日本人選手は、私にそう言った。自分の闘う場所が無くなるのではないか、という不安があるとも口にした。闘う場所を何も、PRIDEに限定しなくても…と向けても、「それもそうなんですけど」と浮かない表情でいる。
 多くの選手が、そんな風に思っているのかと思いきや、どうやらそうではないと最近、気付いて少し安心した。先日、一緒に呑んだ選手をはじめ、何人かがこんな風に話していた。
「まあ、いい休養ですよ。経済的なことを考えると、ちょっと困るなとも思いますけど、もともと、お金のために闘っていたわけでもないですからね。怪我してても試合が組まれたら出たりして無理もしてたんですよ。格闘技は、やれる限り続けるつもりだし、きっとまた試合をする時が来るでしょうから、その時に備えて、いまは自分を磨きますよ」
 そう、何も焦らなくてもいい。
 ブームが過ぎれば過ぎたでいい。PRIDEも年内には再開される。もしもPRIDEが消滅したとしても、それで総合格闘技が無くなるわけではない。この時期に充実した練習を積み、コンディションを整えた選手が、PRIDE再開時にリング上で輝くことができるのだ。


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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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