<青春とは人生の或る期間を言うのではなく、心の様相を言うのだ>
 米国の詩人にして実業家、ユダヤ系ドイツ人のサミュエル・ウルマンがうたった有名な詩「青春」の一節である。


 日本では連合国軍総司令官ダグラス・マッカーサーの座右の銘として知られ、松下電器の創業者である松下幸之助もこの詩をこよなく愛した。近年では元首相の村山富市が色紙にサインを求められると、好んで先の一節を添える。

<安易を振り捨てる冒険心、こういう様相を青春と言うのだ>
 ウルマンはこうもうたっている。低きに流れるな、常に高みを目指せと尻を叩かれているような気にさせられる。

 ドジャースのクローザー斎藤隆が37歳にして「ミッドサマー・クラシック」――すなわちオールスターゲームに監督推薦で選出された。3日(日本時間)現在、33試合に登板し1勝0敗22セーブ、防御率1.34。見事な成績だ。昨季も6勝(2敗)24セーブをあげており、この成績は決してフロックではない。

 正直に言えば、彼が36歳で海を渡ると聞いた時、「too late」(遅過ぎる)だと思った。なぜ3年前にFA権を取得した時点で海を渡らなかったのか、と。外角と低目に甘いメジャーリーグのストライクゾーンは確かに斎藤の決め球であるスライダーに適している。加えてメジャーリーグのボールはシーム(縫い目)が高いため、空気抵抗が増す分、切れ味も鋭くなる。「短いイニングなら…」との期待はあった。しかし36歳の斎藤は私の目には、残念ながらピークアウトした選手のように映った。「オールド・ルーキー」ならぬ「トゥー・オールド・ルーキー」だと。

 認識を改めねばなるまい。チャレンジに遅過ぎるということはない。摩擦を恐れて平穏にたたずんでいれば、周囲は陽だまりのようにやさしい。しかし、失われた時間は、もう2度と戻ってこないのだ。そして悔いだけが残る…。
<人は信念と共に若く、疑惑と共に老いる。人は自信と共に若く、恐怖と共に老いる>(「青春」)

 斎藤のピッチングを目にするたびに思う。彼は年々、たくましくなっている。年々、賢くなっている。そして年々、若くなっている…。

<この原稿は07年7月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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