広島カープは5勝18敗1分の戦績で交流戦最下位に終わった。交流戦開幕前は3位につけていたが、交流戦で13も負け越したことにより、現在(6月28日)は3位と8.5ゲーム差の5位。クライマックスシリーズに出場するためには3位以内を確保しなければならないが、きわめて厳しい状況になってきた。

 先発ピッチャーが早いイニングでマウンドを降りた時、味方が反撃するまでゲームをコントロールするミドルリリーフがこのチームにはいない。
 夏場を迎えれば先発ピッチャーはさらに疲弊する。どこかに縁の下の力持ちはいないものか。

 意外なところから声が上がった。
 発言の主は、カープOBでもある四国アイランドリーグ、香川オリーブガイナーズの西田真二監督だ。
「ウチの天野浩一が適任ですね。アイランドリーグで先発しているうちに、実戦でのカンや肩のスタミナも戻ってきた。短いイニングなら何の問題もない。きっと、いい仕事をしてくれると思いますよ」

 天野は02年にカープに入団し、主に中継ぎとしてプレーしていたが、04年の秋に右肩を痛め、06年のオフ、自由契約になった。
 球団から「バッティングピッチャーとして残らないか」と打診されたが、現役に未練があった。悩んだ揚げ句、天野は先輩の西田に相談した。
 というのも、自由契約を通告される直前、西田に「オマエ、今年ダメでもアイランドリーグという手があるからな。そのことを頭に置いておけよ」とアドバイスを受けていたからだ。

 振り返って天野は語る。
「その後、西田さんは香川の監督に就任した。よく考えてみると、すごい偶然ですよね。西田監督からは“まだ投げられる。もう1回やってみよう。(指導者になるのは)もうちょっと後で考えればいい”と言われました。それでアイランドリーグ入りを決めたんです」
 アイランドリーグは当初、NPB(日本プロ野球組織)選手の参加を認めていなかったが、06年5月にルールを改正し、天野はNPB出身第1号となった。

 アイランドリーグでの天野の成績は主に先発として15試合に登板し、6勝5敗、防御率1.53。西田監督の期待通りの活躍をみせている。右肩の不安も完全に消えた。
 カープ時代の03年には49試合、04年には45試合に登板している。プロでの実績は十分。キレのいいストレートが持ち味で、“真っスラ”やシュート系のボールで打者を凡打に打ち取るテクニックは、アイランドリーグの中では頭ひとつ抜けている。

 自由契約ゆえ、どこの球団とも新たに選手契約を結ぶことができる。
 NPB→アイランドリーグ→NPB復帰となれば、もちろん日本プロ野球史上初。天野の再チャレンジが成功すれば、復活の場所を提供したアイランドリーグの価値も高まるはずである。
 天野の動向を注視したい。

<この原稿は07年7月15日号『サンデー毎日』に掲載されています>

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