10日の新潟アルビレックスBC戦、3−2と接戦を制し、約1カ月ぶりに3位に浮上しました。上位2チームとの差は、まだまだありますから、嬉しさというより、さらに上を目指そうという気持ちです。選手たちも、これまで以上に前向きな気持ちになっていることでしょう。
(写真:現在、リーグトップの奪三振数を誇る給前投手)
 5勝12敗3分と、なかなか勝ち星が伸びていない状態ではありますが、チームとしての雰囲気は全く悪くありません。勝利の味を味わえず、少しモチベーションが下がったときもありましたが、それでも選手一人ひとりの明るさは変わりませんでした。
 というのも、他の3チームとの力量差をほとんど感じていないということが理由の一つに挙げられます。これまでの20試合中、1点差負けは8試合、引き分けは3試合。ともにリーグトップです。ですから、上位チームともレベルの差があるわけではないのです。

 では、なぜあともう一歩のところで勝つことができなかったのでしょうか。最大の理由は攻撃の始動が遅かったことにあります。相手にリードされてから、あわてて追いかける。何とか食らい付いて、1点差、引き分けにまでは追いつくものの、「さぁ、これからだ」というときには、時すでに遅しでゲームセット。こういう試合運びをしていては、なかなか勝てません。

 まず、自分たちが先取点を取って、序盤からリードを奪う。後は、ダメ押し点を狙いながら、ピッチャーを中心に守り抜いていく。こうしたパターンをつくっていく必要があると思います。
 そういう点では、10日の新潟戦は理想的なゲームだったといえます。まずは序盤に3点のリードを奪い、終盤に1点差に詰め寄られたものの、その1点差をなんとか守り抜くことができました。こうしたゲームが増えてくると、勝ち星も徐々に伸びてくるでしょう。

 野球は打って、点を取らなければ勝つことはできません。とはいえ、やはりバッティングは水物。その日がよかったからといって、翌日もいいとは限りません。だからこそ、投手力や守備力が安定したチームが上位に進出できるのです。
 その点、うちのチームはまだまだ発展途上にあります。特に、2本柱の給前信吾(横浜商大高出身)と涌島稔(高知ファイティングドッグス出身)は、いい素材をもっているピッチャーですが、力を出し切ることができていません。

 二人とも三振をとれる力があり、給前は6試合で40個、涌島は5試合で33個とリーグトップの数字を誇っています。しかし、余計な四球が多いことが一番の課題です。特に打線が点を取った次のイニング、「点を取ってもらったんだから」と抑えようという気持ちが力みにつながり、コースを狙いすぎてカウントを悪くしてしまうのです。さらに、ストライクを取りにいった甘いボールを打たれてしまう……。こうした悪循環なピッチングに陥ってしまいがちです。

 完璧に抑えようとするのではなく、「ヒットやホームランを打たれても仕方ない。でも、四球だけは絶対に出さないぞ」という気持ちで、初球からストライクを取りに勝負していかなければなりません。そうしたメンタルの強さを持ってほしいと思います。

 涌島は185センチ、93キロといい体格をしていますし、コントロールもあります。もう少し自分のストレートに自信をもつことができれば、元来の強気なピッチングができてくるでしょう。
 給前のストレートは速さもキレもリーグトップ。課題はカーブのコントロールです。初球のカーブが外れて0−1というカウントにしてしまい、自らを苦しめてしまっているケースがよくあります。このカーブのコントロールさえ身につけば、勝ち星はどんどん増えてくるでしょう。

 現時点では富山や石川との差が大きく開いていますが、シーズンはまだ始まったばかり。借金を一つ一つ返して、最後には優勝争いに加わりたいですね。そのためにも、今のチームの明るい雰囲気が失われないように、私自身が元気に頑張っていこうと思っています。


木田勇(きだ・いさむ)プロフィール>: 信濃グランセローズ監督
神奈川県出身。横浜商大高、日本鋼管を経て、80年にドラフト1位で日本ハムに入団。1年目に22勝8敗4セーブ、228奪三振、防御率2.28の成績を残し、新人王ならびにMVPに輝いた。その後、大洋(現横浜)、中日に移籍し、90年に引退。引退後は解説者、評論家として活躍。今年から信濃グランセローズ監督に就任した。
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