移籍金、年俸(5年契約)合わせて約4600万ドル(約54億円)もかけて井川慶を獲るくらいなら、2年総額300万ドル(約4500万円)で岡島秀樹(レッドソックス)を獲った方が良かったと今頃、ヤンキースは後悔しているに違いない。

 5月21日時点で0勝0敗2セーブ、防御率0.42。20回3分の2イニング連続無失点だった。
 エースのカート・シリングが「ウチのブルペンの中では一番安定している。これまでプレーした中でも(リリーフ投手としては)ベストピッチャーのひとりだろう」と言うくらいだから岡島の貢献度は群を抜いている。クローザーでもいいくらいだ。

 さて、岡島と言えば“あっち向いてホイ”投法である。首をあれだけ振って投げるピッチャーは個性派揃いのメジャーリーグの中でも稀である。
 首を振るピッチャーはバッターにとっては嫌なものだ。ボールがどこに来るかわからない。岡島に相対する左バッターは、ボールがリリースされる瞬間、例外なく腰を引いている。

 巨人時代、何人かのピッチングコーチが“あっち向いてホイ”投法を矯正しようとした。しかし、岡島は頑なに自らのフォームにこだわった。
 投げる時には首を振る岡島がコーチの意見には素直に首をタテに振らなかった。それがよかったのである。

 あの切れ味鋭い独特のカーブは間違いなく首振りフォームがもたしらものだ。首のひねりを利用して、同時にボールをひねっているのだろう。これに右バッターのアウトサイドに決まるチェンジアップが加わった。コントロールも良く、今の岡島を攻略するのは至難である。

 もし岡島がコーチの意見に素直に従い、首振りフォームを捨てていたら、今のメジャーリーグでの活躍はあるまい。野茂英雄のトルネード投法、イチローの振り子打法しかりだ。
 野茂やイチローを育てた故・仰木彬は「個性に勝る基本なし」と言ったが、岡島を見ているとそれがよくわかる。

<この原稿は07年6月11日号『週刊大衆』に掲載されています>

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