開幕から1ヶ月弱が経過した4月27日―――。
 昨冬に松坂大輔のレッドソックス入りが決まった直後から待望された対決が、この日についに実現した。
 伝統の宿敵同士の主力選手として、松坂と松井秀喜が雌雄を決する。
 2回裏、聖地ヤンキースタジアムのマウンドに松坂が上がり、打席には松井秀喜が立った。第1球が投じられたとき、球場中で炊かれた多数のフラッシュのおかげで、一瞬目の前が見えなくなった。
(写真:松坂のニューヨークデビューは全米からの巨大な注目を集めた (C)ダミオン・リード)
(写真:苦しいスタートとなった松井だが、必ず徐々に調子を上げて来るはずだ (C)ダミオン・リード)
 注目された「ゴジラ対モンスター」の初対決は、2打数0安打1四球に抑えた松坂の勝利。だが松井は抑えても、6回を投げて5安打4失点と煮え切らない内容に、試合後の松坂には会心の笑顔はなかった。
「個人的に満足感は特にないです。チームとして勝てた喜び。それだけです」
 周囲の騒ぎとは裏腹に、松坂には松井への特別な意識はなかったようである。日本人対決のためにメジャーに渡って来たわけではない。大切なのは試合に勝つこと。レッドソックスの主戦投手の一人として、これまで常に先を走って来た宿敵ヤンキースを乗り越えることこそが最大の目標だ。
 この試合を勝ちで飾って、4月は通算3勝2敗、防御率4、36。最高のスタートではないが、期待を裏切っているわけでもない。全米から集まった巨大な注目度が少し落ち着くこれから先、評価をどれだけ上げられるか。
 ここまでの松坂を眺めての筆者個人の感想を言うと、「ストレートが速くナックルカーブのないマイク・ムシーナ的投手」といったところ。基本的には変化球投手で、どんな球種でもストライクが取れる制球力を持っている。メジャーでも1級の投手だが、強者たちを完全に支配できるほどでもない。成績もムシーナと同じ程度(13〜18勝、防御率3、5〜4、00)に落ち着くのではないか。
 今後、獲得に100億円以上を費やしたレッドソックスを正当化させるには、やはりヤンキース戦での好投を続けること。そしてその主力打者の一人である松井との対戦も、マーケティング的な意味も相まって、これからも大きな呼び物であり続けるに違いない。例え本人が意識しよう、しまいと。
「あの歓声は今までの経験の中で一番大きかったかもしれない」
 初めてのヤンキースタジアムでの夜を振り返って、松坂はそう語った。
 その歓声は近々ブーイングに変わり、松坂自身に直接に向けられるようになるのだろう。そしてそれこそが、彼は本物のメジャーリーガーとして認められたことの象徴となるのだ。

(写真:もう間もなく、ニューヨークで味方ベンチに戻る際には大きなブーイングが送られるようになるだろう (C)ダミオン・リード)
 松井秀喜の方もまた、松坂よりも試合自体に無惨な形で敗れたことに悔しさを滲ませた。
「また気持ちを切り替えてやるしかない。試合の中でどうしても流れが向こうにいくことが多かった。松坂には打たされた感じですね」
 そう語る松井にとって、今春はこれまでで最大とも言える試練の季節となってしまっている。昨季の骨折から完全復活を期しながら、開幕直後に太ももの故障でまた戦線離脱。
 復帰後もバットは湿ったままで、4月の打率2割0分7厘、1本塁打、6打点はメジャー入り以来過去最低の数字だった。なんと最下位に沈んだチーム内で、不振の責任を問われても仕方ない立場だ。松坂とはまた違った意味で、いまの松井には日本人対決を意識して楽しむ余裕はないだろう。
「個人的にもチームにとってもいい月ではなかった。(5月から)また新たな気持ちでやるしかないでしょう」
 もっとも、焦らずともまだ5月。MLBの長い戦いは始まったばかり。逆襲への時間は充分にあるし、堅実さに定評のある松井なら必ず調子を上げてくるはずだ。そしてそのときには、新たな宿敵ピッチャーとの対戦もより大きな意味を帯びることは間違いない。

 松坂にとっても、松井にとっても、ほんの序章に過ぎなかった初対決――。初めてはイベントで、本当に重要なのは2回目以降。おそらくは10月まで続く新ライバル対決は、まだこれからが本番である。

杉浦 大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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