たとえば内臓の一部にガン細胞が見つかったとしよう。それが原因で腰は痛むし、体はだるい。普通の人間なら、きっとこう考えるはずだ。
「まずはガン細胞を切除してもらおう。すると腰の痛みも体のだるさもなくなるはずだ」

 ところがプロ野球界は摩訶不思議なところで、そうは考えない。
「腰の痛みや体のだるさの原因は別のところにあるはずだ。まずはゆっくりと時間をかけてマッサージをやろう」
 あのねぇ、と言いたくなる。ガン細胞を放置しておいたら命取りになるよ。それでいいんですか? と。

 西武ライオンズ球団が2人のアマチュア選手に約1300万円を不正に供与していた、いわゆる“裏金問題”はプロのみならずアマチュア球界をも揺さぶった。
 裏金問題が「希望枠」という名の逆指名制度に起因することは多くの識者が指摘している。まさにプロ、アマを蝕む“ガン細胞”が裏金なら、その成因が逆指名制度にあることは誰の目にも明らかだ。

 逆指名制度が導入されたのは1993年だが、導入当初はアマの有望選手の獲得資金として一球団あたり数十億円の“裏金”が使われていたといわれる。これは球団経営の圧迫要因のひとつにもなっていた。
 活躍することなく球団を数年で去っていった逆指名選手に向かって「あぁ、また×億円もの大金をドブに捨てちゃったよ」とつぶやいたスカウトの姿を私は何度も見ている。

 さすがに優柔不断な日本プロ野球組織(NPB)も、今回ばかりは裏金の温床になっている「希望枠」を撤廃し、下位球団から順番に選手を指名していくメジャーリーグ型のウエーバー制度を導入するとみられていた。ところが3月21日に行われた代表者会議での結論は「希望入団枠の撤廃は来年から」。これにアマチュア3団体と世論が猛反発したことで二転三転した挙句、「希望枠」は撤廃となったが、球界の優柔不断さが浮き彫りになった。

 重大な問題ほど先送りを続けるプロ野球。元日本プロ野球選手会会長(現ヤクルトスワローズ選手兼監督)の古田敦也は「まだシーズンも始まってないのに、時間がないというのはいくら何でも説得力がない」と語っていた。全く同感だ。改革はスピードが命である。ここでメスを入れなかったらガン細胞はさらに増殖するだろう。ファンの信頼は失われ、プロ野球の命取りになりかねない。

 裏金問題に詳しいプロ野球の元スカウトはウエーバー制をすんなり導入できない理由をこう読む。
「もう“裏金”が有望なアマ選手に支払われているんですよ。それを回収するまではやめられないということではないですか。それに(ドラフト改革を)先延ばしにすることで、ウエーバー制に反対する巨人などが、自分に都合のいい制度を作ろうとしているようにも思える。1年半もあればウエーバー制を骨抜きにすることだってできるわけですから」

 理解に苦しむのは根来泰周コミッショナー代行の「世間の風や勢いに流されてはいけない」という発言である。いったい、いつまで堂々巡りの議論を続けるつもりなのか。
もはや改革は待ったなし、議論よりも行動のときなのだが……。

<この原稿は07年6月号「フィナンシャルジャパン」に掲載されています>

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