開幕から約半月、香川は開幕3連勝と好調なスタートをみせましたが、その後は勝ったり、負けたりの状態です。乗り切れない原因は投手陣にあります。特に先発2本柱の天野浩一松尾晃雅の調子が思ったほど良くありません。

 2人に共通しているのは腕が振れていないということ。そのためボールがばらついて苦しいピッチングを強いられています。13日の愛媛戦、天野は愛媛相手に1−0と完封勝利をみせました。雨の中、結果を出したのはさすがですが、内容は厳しいものがありました。

 多くの打者に対してボールが先行し、0−2、1−2というバッター有利のカウントで勝負する場面が半分以上。初対戦で相手バッターが慣れていなかった分、助かりましたが、いつ点をとられてもおかしくない状況でした。ストライクを先行させるのは投手として当然のこと。ボール、ボールでは守っている野手のリズムにも悪影響を及ぼします。

 松尾も15日の愛媛戦では四球を連発。最後は荒木康一の頭部に死球をぶつけて危険球退場という散々な内容でした。2人とも2月のキャンプからトレーニングを順調にこなしてきました。今年にかける意気込みは強いものがあります。それだけに、ここにきて少し疲れが出ているのが腕の振れない原因かもしれません。悪いなりに2勝ずつ勝ち星をあげたことは天野と松尾のレベルの高さを証明しています。今後はうまく疲れをとりながら、調子を戻す方法を考えていく必要がありますね。

 他の3チームとひととおり対戦した中では、高知の西川徹哉が印象に残りました。2年目ですが、昨年はまだ高卒1年目でほとんど登板がなかった投手です。7日の試合で先発したときは、スライダーの切れがよく、ストライクをポンポンとっていました。終わってみれば9回途中まで投げて2失点。ボールが先行して3点を奪われた天野に投げ勝ちました。

 ストレートはまだ130キロ台でしか出ませんが、体つきは1年間でだいぶ良くなりました。彼のよさは天野や松尾とは反対に腕がしっかりと振れているところ。変化球でもストレートでも腕の振りが変わらないので、球速が出るようになれば厄介な投手になるでしょう。将来のドラフト候補と言って間違いありません。

 開幕といえば、少し前になりますが教え子である伊藤秀範(東京ヤクルト)が開幕1軍入りを果たしましたね。僕の1軍デビューは2年目でしたが、いきなり東京ドームの巨人との開幕戦で中継ぎのマウンドに上がりました。中日との開幕カードで中継ぎデビューを果たした伊藤と状況は似ているかもしれません。

 僕の場合は1軍で投げられる喜びのほうが大きくて緊張はありませんでした。ピンチの場面でマウンドに上がり、最初に対戦したのは岡崎郁さん。内容は忘れましたが、アウトにすることができました。次のバッター駒田徳広さんにタイムリーを浴びて交代になったものの、岡崎さんを抑えたことで少し自信がついたのを覚えています。

 結局、その年は6月に1度、肩痛のため2軍で休んだほかは、シーズンをずっと1軍で過ごしました。最初の登板で生まれた自信がいい方向に出たのでしょう。終わってみれば6勝(9敗)をあげていました。

 伊藤のデビュー登板をVTRで見ましたが、かなり緊張していたようですね。動きが固く、前の肩が入りすぎて球離れが早くなっていました。結果、ボールがシュート回転していました。立浪和義にタイムリーを打たれるなど、1回を2失点。良くも悪くもシュートがうまく曲がって、最後は何とか抑えることができましたが、スライダーにキレがなく、直球も使えない。1軍相手には打たれても仕方のない内容でした。

「打たれちゃいました……」
 その夜、伊藤から落ちこんだ声で電話がかかってきました。聞くと部屋にこもって、食事もとっていないとのこと。
「1回、打たれたくらいで落ち込んでどうする。まず、ホテルの中でちゃんと食事をとれ。そして部屋に戻って今日のピッチングを反省しなさい。修正点はわかっただろうから、次の登板で同じ失敗を繰り返さないよう、未来のために反省しなさい」

 伊藤は育成選手からオープン戦で巡ってきた1度の先発のチャンスをモノにして、1軍をつかみとりました。振り返れば僕も開幕1軍を果たした年のキャンプは打撃投手役。全く期待されていませんでした。そこで関根潤三監督の目に留まり、オープン戦でダイエーの主砲・門田博光さんを三振にとり、気がつけば1軍にいたという感じです。1軍の舞台にたどりつけないまま、ユニホームを脱ぐ選手も多い中、ルーキーで開幕2戦目に登板したことは貴重な経験になるでしょう。

 残念ながら伊藤はデビュー登板の後、すぐに2軍に落とされてしまいました。技術面、精神面を含めて自分の目指すべき方向を見据え、しっかりファームで鍛えてほしいですね。伊藤の生命線はコントロール。デビュー戦では直球がほとんど使えませんでしたが、投球の基本はアウトローのストレートです。このキャンプで身につけた新球のフォークを生かすためにも、もう1度、直球を中心に精度を高めていくべきでしょう。

 どうやって1軍に戻ってくるのか。そして今度はどう1軍で生き残るのか。本当の勝負はここからです。早い時期にもう1度、伊藤が神宮のマウンドに登場することを香川から期待して待ちたいと思います。

※このコーナーは5月より第1、3火曜に更新日が変更になります。ご了承ください。

加藤博人(かとう・ひろと)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1969年4月29日、千葉県出身。87年ドラフト外で八千代松陰高からヤクルトに入団。2年目の89年に6勝9敗、防御率2.83(リーグ8位)の成績を挙げて一軍に定着。故障で戦列を離れた年もあったが、貴重な中継ぎサウスポーとして95年、97年のチームの日本一に貢献した。分かっていても打てないと評された大きく曲がり落ちるカーブが武器。01年に近鉄に移籍後、02年には台湾でもプレーした。日本球界での通算成績は27勝38敗、防御率3.85。05年にスタートした四国アイランドリーグで香川のコーチに就任。現役時代に当時の野村克也監督から学んだ“野村ノート”や自らの故障経験を活かした丁寧な指導で高い評価を受けている。

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