4月17日、5月のキリンチャレンジカップ、6月のW杯アジア最終予選に向けた日本代表のトレーニングメンバーが発表されました。今回、代表初召集が6人、岡田ジャパンとしては初招集5人と11選手が新たにメンバーに加わりましたね。今後も、新しい選手はさらに増えていくでしょう。継続的にチームに残って牽引役となっている選手には、新しく加わったメンバーにいろいろなことを伝えていってほしいですね。

 今回、DF陣にも4人の選手(寺田周平、長友佑都、高木和道、栗原勇蔵)が新たに代表に加わりました。中でも川崎フロンターレの寺田選手は32歳での初選出。指揮官が彼に望んでいるのは若手のサポート役だと思います。

 最近、諸外国との試合を見ていると、相手国のFWのスピードが速くなっています。特に裏への飛び出しや瞬間的な動きが早い。そういったプレーに寺田が対応できるかというと正直難しいでしょう。私も経験してきましたが、26〜28歳くらいの一番脂がのっていて頭と体がフィットしている年代と比べると、どうしても瞬発力が落ちてきてしまいますからね。

 ただ、彼はきちんと周りに指示ができ、組織をまとめ上げる力があります。判断力や経験値は持っているから、どんな場面で入っても統率を取ることができるんです。岡田監督は、若いDFに何かアクシデントが起きた時のひとつのテストケースとして寺田を練習に参加させているのではないでしょうか。

 実は私自身がそうでした。94年W杯の最終予選、日本代表には柱谷哲二(現東京V監督)と井原正巳(現U-23日本代表アシスタントコーチ)という不動のストッパー2枚がそろっていました。今考えてみると、私も彼らのサポート役として代表に呼ばれたんだと思います。練習では井原と組んだり、いろいろなテストケースを試しました。その中で、井原が考えていることを酌んだり、ディフェンスの修正も素早く行なうことができました。実際に試合に出たとしても、統率をとれるというのが当時の私に対する評価だったのだと思います。だからこそ、いつでも出られるよう、常に臨戦態勢でいましたね。

 寺田選手としてもチャンスですから、ぜひ代表に残ってほしいですよね。W杯最終予選まで進めば、欧州組の選手も呼んで総力戦で戦わなければいけません。W杯までまだまだ道のりは長い。岡田監督としても、どの選手を選んで、どういうパターンでいくのかというところはまだ、かたまっていないでしょう。ですから今は色々試しながら国内選手の選考と底上げを行なっているところだと思います。

 もちろん、選手の新規開拓をせずに、同じメンバーで精度を上げていくという方法もあると思います。これまでの日本代表は前任のオシム監督のサッカーを踏襲しつつ、岡田監督の考えるゲームプランを組み込んでいました。しかし、そのサッカーで前節バーレーンに敗れてしまった。岡田監督はあの敗戦をきっかけに、今、自分のカラーを出そうとしているところだと思います。Jリーグでも代表でも、監督というのは自分が表現したいサッカーをして駄目だったら潔く退くでしょう。しかし、与えられた駒だけでなんとかしろと言われ、負けたら監督の責任にされるのなら、やる意味がありません。今回の選考は岡田監督が自らのやり方に変えるという強い意志の表れだったのではないでしょうか。

<残念だった関塚監督の勇退>

 Jリーグでは大変残念なニュースがありました。私の中学校(船橋市立宮本中)の先輩にあたる川崎の関塚隆監督が体調不良を理由に監督を辞任されたことです。関塚さんはサッカーに多大な情熱を持ち、自分自身のやろうとしたことをストイックに突き詰めていく考えの持ち主。私にとって兄貴のような存在でした。

 今回、自ら監督の職を退く決断を下すまでには葛藤があったはずです。サッカー漬けの人生で、寝ても覚めてもチームを勝たせるためにはどうしたらいいのかと考えているような人でしたから、そうした生活が体に負担を及ぼしていたのでしょう。

 関塚さんには一度ここで十分に体を休めてほしいと思っています。外から客観的にピッチを見ることで新しい発見もあるはずです。いい充電期間だと思って、まずお体を大切にしてほしいですね。

<アジアで勝つために必要なサブメンバーの強化>

 AFCチャンピオンズリーグでは23日、鹿島が北京国安にアウェーで1−0と敗れてしまいました。ゼロックススーパーカップに始まり、リーグ戦、ACLと過密日程が課せられている中で、どうしてもケガ人や体調不良の選手が出てきてしまっています。開幕から調子がよかった鹿島ですが、ここに来て勝ち星から遠ざかっているのは、FWマルキーニョス、DF内田篤人の離脱などによって歯車に狂いが生じていることが一番の要因です。内田ならもっとサイドから縦に切り込めたところを代わりに入っているDF新井場徹はあと一歩足が出てこない。このように少しずつチームにズレが出てきています。

 アジアで勝ち抜いていくためには、チームの選手層を厚くすることが大前提です。レギュラー組だけではなく、サブの選手たちの意識向上、加えてサブメンバーが出場した場合のシュミレーションも普段のトレーニングから行なっておく必要があります。ただDFは一度ズレが生じると負の連鎖に陥ってしまうのでディフェンスラインはあまりメンバーを変えないほうがいいでしょう。そこでポイントとなるのはサブのFWです。FWはもっと自分のもっている持ち味を出すべきです。ひとりひとりがそれぞれの持ち味をもった職人であることを、強く意識しなければなりません。

 4月19日のガンバ大阪戦は、結果こそスコアレスドローでしたが、見応えのある試合でした。ボールを奪うときには全体をコンパクトにまとめ、奪った瞬間にサイドを使ったワイドな攻撃を仕掛ける展開は見ていておもしろかった。昨年の逆転Vを経てチーム全体の成熟度は高まっています。あわてることはありません。選手と監督はもちろん、コーチやトレーナー、フィジカルコーチ、そしてフロントがベクトルをあわせて勝ち進んでほしいですね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


◎バックナンバーはこちらから