ノースリーブにショート丈、ベルトレス、そして浅めの股下――。北京五輪に出場する女子ソフトボール日本代表チームの公式ユニホームがこのほど発表された。従来のイメージを大きく覆す新ユニホーム。今大会を最後に五輪の正式種目から外れる女子ソフトボールで、日本がプレーとともに世界を驚かせる。

(写真:新たに藍色も加わった今回のユニホーム)
「五輪競技から除外されると決まった時、“ソフトボールは野球の女性版”だと言われた。ならば、ユニホームを野球とはまったく違うものにしようじゃないか」(日本ソフトボール協会・尾崎正則専務理事)
 今回のユニホームには、五輪競技復活へ向けたソフトボール協会の強い意志が表現されている。協会側が提案したユニホームのコンセプトは「宇宙」。永遠に広がる宇宙のイメージに、ソフトボール競技が今後も幅広く、末永く普及していくように、との願いを込めた。

「いただいた大命題をいかに形にするか。これが一番大変でした」
 野球の“星野ジャパン”とともに、女子ソフトボールチーム“斎藤ジャパン”のユニホーム製作を担当する宇野秀和さん(スポーツ事業部ダイアモンドスポーツウエア企画課長)がその苦労を語ってくれた。宇宙の広がりを表現するため、描いたデザイン案は軽く10枚を超える。最終的には、渦を巻いて広がっていく銀河系のイメージが採用された。

 次のハードルは、このイメージをいかにユニホーム上で表現するか、である。デザインを忠実に再現するため、今回はインクを気化させて繊維に色を浸透させる昇華プリント方式を採用した。さらに光沢感があり、環境に配慮した再生ポリエステル糸を使っている。しかも、アテネ五輪のユニホームで採用したメッシュ生地では穴の部分で色が抜け落ちてしまうため、新たに1から生地を編み上げる必要があった。

 ところが――。昨夏の試着テストでは選手たちから生地への不満が飛び出した。「ちょっと分厚くて、汗をかくと重く感じる」。デザインを重視した一方、軽量化や通気性の観点で問題が生じていたのだ。見た目と機能性、その両立を製作チームは求められた。
「そこで今回は伸縮性を持たせ、引っ張ると生地の目が開くという編み組織にしました。通常はフラットで穴が開いていないため、宇宙のイメージがきれいに見えるというわけです」
 数カ月の試行錯誤の末、ようやく生地が完成した。汗をかいても、すぐ乾く。汚れも落ちやすい。完成したユニホームへの選手からの評判は上々だ。
(写真:無限に広がる銀河のイメージがきれいにプリントされている)

 それだけではない。ユニホームのカッティングも大きく変わった。その立役者となったのが、今回の製作に全面的に携わった女性社員たちである。彼女たちは選手の要望をつぶさに聞いてまわった。自身もソフトボールの経験があるという塚原弘珠さん(スポーツ事業部ダイアモンドスポーツ営業販促部)は、そんな女性社員のひとりだ。
「まず、ベルトに違和感があるという意見が出ました。最近の選手たちはズボンを腰で履きますから、ベルトがなくても大丈夫なんです」
 特にピッチャーは、ベルトがあることで投球の際にその出っ張りが腕に当たり、投げにくさを感じていた。要するに、ベルトは選手たちにとって、まったく必要のないものだった。

 製作チームは真っ先にベルトレス化に着手した。ベルトでユニホームを締める必要がないこともあり、シャツの丈はグンと短くした。加えて、腕回りをスムーズにするため袖もカット。これまでにない斬新なシルエットになった。
「従来のユニホームでも袖をまくってプレーしている選手が多かった。でも僕たちの中では、どうしても野球のユニホームのアレンジという固定観念があって、ノースリーブやベルトレスという発想が出てこなかったんです。その点では経験のある女性が製作に加わったというのは大きかったですね」

 数々のユニホーム製作に携わってきた宇野さんにとっても、新たな発見の多いプロジェクトだった。前回のアテネ五輪とは比較にならないほど、何度も協会、選手たちと確認を取り合い、意見は全て反映したという。デザイン、カッティング、素材、どれをとってもバランスのよいユニホームが誕生した。

「実はあまり目立っていないんですけど、帽子にも一工夫があります。これまでは単なるニット帽でした。今回は中がメッシュ生地になっています。その上にニット素材を貼り付けたことで、従来の帽子とは通気性が格段にアップしているはずです」
 宇野さんが語るように、こだわりはユニホームだけにとどまらない。キャップ、スパイク、プロテクター、バット、移動用バッグ……全てのアイテムに最新のテクノロジーが注入されている。

 キャッチャーがつけるプロテクターも、そのひとつだ。プロテクターに求められる要素は第一に防御性である。投球やファールボールでケガをしないよう、選手たちの身を守ることがまず求められる。とはいえ、単に硬いプロテクターでは、ボールが弾んでしまう。すぐにボールを拾って、次のプレーに移りたいキャッチャーにとっては、できるだけ弾まずに目前に転がるほうがありがたい。

 もちろん低反発のみを求めるのであれば、素材を検討すればそれなりの効果が出る。だが、動きやすさを追求すれば、軽いほうがいい。ましてや真夏の北京でのプレーを考えると通気性も必要だ。
「今回は内側に低反発の素材を採用し、その特長を活かすため、表面をニット素材で覆っています。従来は少し硬い人工皮革を表面に使っていましたから、明らかに低反発性は向上していると思いますし、軽量化も実現できています。通気性も確保できるよう考慮しました」
 プロテクターづくりに関わった岡田邦男さん(スポーツ事業部マーケティング部用具企画担当)は、そう自信をみせる。
(写真:プロテクターを着用した乾絵美選手)

 新ユニホームは7月26日から行われるオランダ、カナダとの壮行試合でデビューを果たす予定だ。現在、開発中のバットも含め、6月にすべてのアイテムを最終納品するまで、制作チームの作業はまだ終わることはない。
「(五輪競技復活のためには)米国ばかりが勝っている現状を打破しないといけない。日本が金メダルをとることが、復活への第一歩なんです」(尾崎専務理事)
 アトランタが4位、シドニーが2位、アテネは3位。日本はあと一歩で金メダルを逃している。北京で悲願達成を――。その思いに最大限応えるべく、サイズなどの細部に至るまで選手たちとの“キャッチボール”を繰り返す日々が続きそうだ。

----------------------------------------------------
 ミズノでは、第29回オリンピック競技大会(2008/北京)に出場する日本代表女子ソフトボールチームのユニフォームを制作しました。
 完成したユニフォーム胸部には、「永遠に広がる宇宙」をイメージしたデザインを描いています。ソフトボール競技は今回のオリンピック競技大会を最後に対象競技から除外されることとなりますが、ソフトボール競技が今後も幅広い世代に末永く普及していくことを願ったものです。
 また、ユニフォーム制作にあたっては、ミズノの女性社員が日本代表候補選手から意見を収集し、これまでにない女性の観点から求める“ユニフォーム美”を追求しました。カッティング、素材感など随所に女性らしさを表現しています。
  ミズノ株式会社では、日本代表女子ソフトボールチームが悲願の金メダルを獲得できるよう全面的にバックアップしていきます。新型バットも現在開発中です。
>>詳細はこちら

(このコーナーでは北京五輪に向けたミズノの取り組みと、子どもたちへの普及、育成活動を随時レポートします)
◎バックナンバーはこちらから