前期は22勝16敗2分。優勝した香川に次いで2位でシーズンを終えました。投打がかみあって、いい形で後期に臨めそうです。マーク・ケリーアレックス・ラミレス・ジュニアと2人の外国人投手が途中加入してくれたことが大きかったですね。開幕時点で投手陣は実質6名のみ。コマ不足は深刻でした。彼らのおかげでピッチングスタッフの負担がだいぶ軽くなりました。

 中でも西川徹哉の充実ぶりが光ります。前期を終えて10勝5敗、防御率1.72。彼が投げれば負けないという雰囲気がチームに生まれつつあります。彼は投球の際に力みすぎる欠点がありました。しかし、西川のボールを冷静にみれば、球速は140キロそこそこ。いくら力を入れて投げても、コントロールが悪ければ簡単に打ち返されます。

「もっと楽に投げてみろ」
 そう彼にはアドバイスしました。投手は誰しもバッターから空振りをとりたいという本能があります。しかし、力で抑えるばかりが投手ではありません。制球を磨き、バットの芯を外す。三振でも凡打でもアウトはアウトなのです。西川がそこまで理解してくれたかどうかはわかりませんが、今シーズンは力が抜け、バランスの良い投球が続いています。夏場に向けてNPBのスカウトにアピールできる投手になってきました。後期もチームの中心投手として活躍してくれることでしょう。

 一方、チーム2位の7勝(2敗)をあげている野原慎二郎にはまだまだ不満が残ります。何より、いい時と悪い時がはっきりし過ぎです。スタミナ面で課題があり、登板間隔が狭まると、結果が悪くなる傾向があります。試合中でも5、6回を過ぎるとつかまるケースが目立ちます。

 彼は167センチと上背はありません。しかし、逆に重心を低くして、丹念に低めを突くことができます。オーバースローですが、ボールの出所はサイドスローのように低く、打者にとっては打ちにくいタイプです。昔、中日で新人王をとった森田幸一やダイエーで一時期リリーフとして活躍した斉藤貢のような小柄な投手と通じるものがあります。

 現在は中4日前後で先発を任せていますが、NPBを目指すとなれば、当然、中継ぎでも結果を残し続けることが肝心です。この夏はしっかり体力アップを図り、連投が利く投手を目指してほしいと思っています。

 いよいよ週末からは後期シーズンの開幕です。高知はまず前期優勝の香川をホームに迎えます。前期の対戦成績は1勝7敗。香川とせめて五分五分で戦えれば、もう少し優勝争いはもつれたはず。香川をいかに叩くかがチームとしての後期のテーマになります。優勝を目指すためにも、まず香川に勝ち越すことが我々の目標です。

 香川が常に安定した勝率を残せる理由のひとつは捕手・堂上隼人の存在でしょう。常時、クリーンアップに座る打撃もさることながら、キャッチャーとしてのリード、盗塁阻止のレベルも高いものがあります。堂上の頭脳の前に相手バッターは狙い球を絞らせてくれません。堂上の肩の前にランナーは機動力を使うことができません。
「堂上さえいなければ……」
 高知のみならず、他のチームもそう思ったことは1度や2度ではないでしょう。

 ただ、前期の対戦データを洗い出してみると、堂上こそ3割5分を超えるアベレージを残されているものの、トップバッターの洋輔と4番の智勝は2割台の打率です。ホームランバッターの丈武に対しては1割台しか打たれていません。香川は強力打線がウリですが、決して打たれて負けているわけではないのです。

 では、なぜ大きく高知は負け越したのか。それは四死球です。他の4チームとの対戦と比べ、香川戦の与四死球は圧倒的に多くなっていました。もちろん香川のバッターの選球眼の良さもあるのでしょう。しかし、投手が怖がって出したものも多いはずです。いくら好打者でも3割しかヒットにできません。もっと投手が大胆に攻めれば、香川の打線と互角に戦えるのではないか。今はそんな印象を抱いています。

 来る後期シーズンは暑い夏との戦いでもあります。高知はご存知のようにナイター設備球場がありません。真夏の炎天下での試合を余儀なくされます。新人の多いチームですから、調子を落とすことも出てくるでしょう。それは彼らにとって貴重な経験になるはずです。シーズン通じて安定した力を発揮しなければ、優勝も自らの好成績もありません。NPBに行って活躍することもできません。日々、グラウンドで学んだことを生かしつつ、自覚を持って1試合1試合を戦ってほしいものです。


定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸(前長崎監督)と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は千葉ロッテの内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。




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