野球韓国代表の中軸・金東柱(キム・ドンジュン、斗山ベアーズ)といえば、今や日本の野球ファンにも、すっかりお馴染みである。
 体重98キロの巨漢。実際にはもっとあるだろう。いかにもパワーのありそうな体つきだが、見た目以上にバッティングは器用だ。

 韓国プロ野球では実働10年で、通算3割1分1厘の高打率を残し、03年には3割4分2厘で首位打者に輝いている。
 キャリアハイは00年のシーズン。127試合に出場し、打率3割3分9厘、31本塁打、106打点。この年、シドニー五輪にも韓国代表の主砲として出場し、銅メダル獲得の立役者となった。

 忘れられないのが日本代表との3位決定戦だ。日本の先発はエース松坂大輔(現ボストンレッドソックス)。
 0対0で迎えた8回裏、日本は二死二、三塁のピンチ。迎えたバッターは3番李承(現巨人)。フルカウントから投じた松坂のストレートを李は左中間にはじき返した。
二人のランナーが返り、なおも二死二塁。ここで4番・金東柱はライト前にヒットを放ち、ダメ押しの3点目を奪った。
 最終回、日本は1点を返したものの、反撃もここまで。野球が五輪の正式競技になって以降、初めて日本はメダルなしに終わった。屈辱の夏だった。
 北京五輪アジア予選に李承の名前はなかった。北京には相棒が戻ってくる。金東柱にとっては負担が減るのではないか。

 さて、日本側の金東柱に対する評価はどうか。あるスコアラーの話。
「あの体型を見てもわかるようにインコースの速いボールが苦手。145キロ以上のストレートをインハイに投げ込んでおけば、まず打たれることはないだろう。
 しかし緩いボールは要注意。ミートが巧いから、ここ一番ではセンター返しを狙ってくる。4対3で勝った台湾でのアジア地区予選も3打席はうまくおさえたが、4打席目は岩瀬仁紀(中日)の甘いボールをセンター前におっつけられた。
 昔のことは詳しく知らないが、今は強打者というより好打者。失投さえ気を付けておけばたいして怖いバッターではないが、逆に言えば失投は見逃さない。国際舞台の経験も豊富だから、甘いボールは禁物です」

 金東柱本人は日本でプレーしたがっている。昨年オフにFA権を取得し、横浜と入団交渉を行った。まとまらなかったが、日本でプレーする夢はまだ捨てていないようだ。
 7月にはオリックスが今オフの補強候補のひとりにリストアップしているという情報が流れた。「ポスト・ラロッカ」というわけだが、サードの守備はお世辞にもうまいとは言えない。足も速くない。

 金東柱としては北京五輪で活躍し、今以上に日本球界に自らの名前を売っておきたいところだろう。そうした背景も考えると、やはり要注意のバッターであることは間違いない。

<この原稿は2008年8月31日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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