「センター前ヒットなら、いつでも打つことができる」。日本でプレーしている頃、イチロー(マリナーズ)はそう語っていた。
 それが証拠に日米で積み上げた3000本安打の内訳を見るとレフト方向に668本、センター方向に820本、ライト方向に740本(ホームランと内野安打を除く)とセンター方向が最も多い。イチローのバッティングはあくまでもセンター返しが基本なのだ。

 しかし、ホームランの打球方向はライト方向151本、センター方向28本、レフト方向10本と、ライト方向が最も多い。ホームランを狙う時にはポイントを前に置き、意識的に引っ張っていることがうかがえる。
「打率2割2分でいいなら、40本打てるとでも言っておきましょう」。イチローはこうも語っている。これも本音だろう。

 イチロー(当時オリックス)がレギュラーの座を獲得したのは1994年だ。この年、イチローは日本記録の210本安打を達成し、3割8分5厘の高打率で首位打者に輝いた。以降、日本では7年連続首位打者に輝いたが、この間、最も打率の低かったのが95年の3割4分2厘。だが、ホームランは自己最多の25本をマークしている。80打点で打点王のタイトルも獲っている。

 もしイチローが日本にとどまっていたら、いずれリードオフマンではなく、ポイントゲッターの役割が求められていたと思われる。そうなると試合数の関係(日本は米メジャーリーグより20〜30試合も少ない)もあり、3000本安打の達成はあと2、3年は遅れていたことだろう。

 翻ってメジャーリーグでは「モスキート(蚊)」との陰口も聞かれるが“不動の一番”として安打製造機に徹することができる。それを考えると、リードオフマンはイチローにとって天職だったのだ。通算3085安打の張本勲氏はイチローに「ピート・ローズの4256安打を目指せ」と語っている。

<この原稿は2008年8月23日号『週刊ダイヤモンド』に掲載されたものです>

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