今夏の甲子園は大阪桐蔭(北大阪代表)の17年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。決勝で常葉学園菊川(静岡)戦は21安打で17点を奪った。ここの打線は火がついたら止められない。中田翔(北海道日本ハム)がいた昨年はチームのスケールは大きかったが脆さも同居していた。今年はどこからでも点の取れる打線に成長していた。エースの福島由登を中心に守りもしっかりとしていた。

 さて、プロのスカウトのお眼鏡にかなった選手はいたのか。 ヤクルトの名スカウトとして古田敦也や高津臣吾らを獲得した片岡宏雄氏に訊いた。
「夏の甲子園には出なかったけど今年のナンバーワンはセンバツの優勝投手、沖縄尚学の東浜巨だろうね。腕のふりのしなやかさと手首の使い方にピッチャーとしての素質の高さを感じたよ」

 ところがこの東浜、早々と大学への進学を口にした。昔は進学希望の選手を指名し、強引に口説き落とすことができた。

 その典型例が桑田真澄だろう。彼は早大への進学を希望し、事実上、入学が決まっていた。ところが王貞治監督(当時巨人)が強引に指名し、入団にこぎつけた。直後、巨人と桑田側との間で密約説が流れたが、私が取材した限り、それはなかった。

 桑田は「巨人は清原を指名するもの」と思っていた。ところが「ピッチャーが欲しい」と王巨人は桑田に目をつけていた。巨人は桑田にとって憧れの球団だった。指名を受けて断る理由はない。「本当に僕でいいんですか」というのが当時の桑田の心境だったのではないか。

 だが2004年から「プロ志望届け」を提出しなかった選手に対しては手が出せなくなった。これにより、球団間のダーティーな駆け引きは減ったが、ドラフトが殺風景になったのも事実である。

 片岡氏は続ける。
「今年は東浜以外でこれといった選手はいないね。強いて挙げれば投手は千葉経大付の斎藤圭祐、打者では智弁和歌山の坂口真規かな。斎藤は2回戦の浦添商業戦で大量点を奪われたが、馬力があるから楽しみだね。うまくいけば楽天の田中将大のようになるかも。一方の坂口は186センチと上背があり、当たれば飛ぶからね。中田翔もそうだけど、飛距離は努力して得られるものではない。もって生まれた才能を感じるよ」

 個人的には準決勝で大阪桐蔭に敗れた横浜のサウスポー土屋健二あたりも磨けばいい素材だと思う。星野ジャパンの左のエースといえば成瀬善久(千葉ロッテ)だが、高校時代の実力を比較すれば、ほぼ同じだろう。

 左ピッチャーの場合、私はスピードよりもコントロールを重視する。例えば3年前のドラフト1巡目選手・辻内崇伸(大阪桐蔭−巨人)。甲子園で156キロをマークし、超高校級左腕と騒がれた。当時、156キロのストレートを投げるサウスポーなんてアマチュアはおろかプロにもいなかった。しかし入団して3年経った今も鳴かず飛ばず。聞けばフォームを崩し、未だにコントロールが定まらないらしい。残念な話だが、このまま“未完の大器”で終わってしまうのかもしれない。

 横浜の土屋以外にもプロで使えそうなサウスポーはいる。最速147キロのストレートとキレのあるスライダーを持つ近田怜王(報徳学園)。184センチの長身から力のあるストレートを投げ下ろす赤川克紀(宮崎商)。地方予選で敗退したが有馬翔(日南学園)の評価も高い。

 右では浦添商(沖縄)の伊波翔悟にスカウトが◎を付けていた。伊波は3回戦まで3試合連続で完投するなど肩にスタミナがある。ドラフト1巡目はともかく、上位では間違いなく消える逸材である。

 ところで今年のドラフト会議は高校生と大学生・社会人を区別しないで行なわれる。当たり前だ。高校生と、大学生・社会人を分けること自体、おかしかったのだ。即戦力が欲しいチームは大学生・社会人を重点的に指名すればいい。逆に将来性を買うのなら高校生を中心に指名すべき。それはあくまでも球団が判断することである。

 一昨年の田中将大や昨年の唐川侑己(ロッテ)のようなフレッシュな即戦力高校生の出現に期待したい。

(この原稿は『週刊漫画ゴラク』08年9月12日号に掲載されました)

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