伊予銀行女子ソフトボール部が遂に悲願を達成した! 日本女子ソフトボールリーグ2部リーグで14勝3敗の好成績を残し、7年ぶり2度目の優勝を果たした伊予銀行は1部昇格が決定。来春からは上野由岐子(ルネサス高崎)をはじめ、北京五輪で世界の頂点に立った日本代表がズラリと顔を揃える国内最高峰の舞台での戦いに挑むこととなった。

「嬉しいというよりも、まずはほっとしました……」
 優勝の瞬間、大はしゃぎする選手たちとは裏腹に、大國香奈子監督は静かに胸をなでおろした。
 開幕こそ黒星を喫した伊予銀行だったが、2戦目以降は負けなしの8連勝。同じく8勝1敗とした松下電工・津と同率首位で前半を折り返した。だが、そのまま順風満帆にはいかなかった。その後の国体四国予選では初戦敗退、全日本実業団女子選手権大会では決勝に進出を果たしたものの、リーグでは圧勝していた三島中央病院に完封負けを喫した。

「気持ちを切り替えていこう!」
 指揮官から激を飛ばされ、選手たちは気持ちを新たに後半戦に臨んだ。接戦を強いられたものの、伊予銀行はYKK、東海理化に2連勝。第3戦目の松下電工・津には開幕以来の黒星を喫したが、それでも延長まで粘ったうえでの惜敗。続いて行われた大和電機工業戦では5−1と後半戦に入って初めて快勝し、第4節を3勝1敗で終えた。選手たちには再び自信が戻っていた。だが、大國監督はこれが返って選手たちに気の緩みを生じさせないか、そのことが気がかりだったという。そして、指揮官の不安は的中した。

 第5節の前に行われた全日本総合女子選手権大会で初出場の松本大学に0−1の完封負けを喫したのだ。
「リーグ戦でできていたことが何でできないの? こんなくだらない試合するなんて、相手がどうのではなく、自分たちが1試合1試合気持ちを入れてないからだ! こんなくだらないミーティングは二度とやらすな!」
 今年一番という指揮官の厳しい言葉に、選手たちはガックリとうなだれるしかなかった。中には涙を流しながら、唇を噛み締めていた者もいたという。

「でも、ちょうど良かったんです。実はあまりにもリーグ戦で調子がいいので、渇を入れるためにも怒りたかったんです。でも、何もないのに怒ることはできませんからね。きっかけを待っていたんです(笑)。
 案の定、翌日の選手の表情からは気合いがみなぎっていましたよ。もう声の出し方一つで違いましたからね。本当にいいタイミングだったと思います」
 と大國監督。気を引き締めなおしたところで、伊予銀行は再びリーグ戦に臨んだ。

 優勝をかけて臨んだ第5節第1戦の大鵬薬品戦は1点差で敗戦を喫した。いきなり出鼻をくじかれたものの、大國監督は全く心配していなかったという。
「負けはしましたが、延長12回まで粘ってのこと。また、先発の清水美聡の調子を考えて、1点リードで迎えた7回に1イニング早めに高本ひとみに代えたのですが、今シーズン通じて初めて迷いましたね。結局、私の采配ミスだったと思います。ですから、選手のプレーにはまったく問題なかったのです」
 とはいえ、優勝するにはもう1敗も許されない状況であったことは確かだ。

 だが、伊予銀行はダブルヘッダーで行われた翌日の2連戦を連勝し、優勝に大きく前進した。延長サヨナラ勝ちを収めた東芝北九州戦では、後半戦のカギを握ると大國監督が言っていたキャプテンの川野真代選手と副キャプテンの矢野輝美、中田麻樹の両選手の3人がいずれもホームランを放った。しかも先制(中田)、逆転(川野)、サヨナラ(矢野)と大事な場面での一発だっただけに、チームの雰囲気は一気に盛り上がった。

 キャプテンという立場上、特に川野選手は全日本総合女子選手権大会での敗戦からチームを立て直そうと責任感を強く感じていた。そのため、第5節に入ると「自分がやらなくては」と思う余り、ガチガチになり、力を発揮することができずにいた。
「川野、顔がいけてないぞ」
 監督に言われたこの一言が効き、先のホームランにつながったのだという。

 その川野選手を大國監督は「チームをまとめるのに一番苦労した」と労った。本人も自分とチームの成長を感じているようだ。
「私はとにかく人の話を聞くことが苦手でした。自分の意見ばかりを言って、人の話を聞こうとしなかったんです。副キャプテンの2人ともよく考えの違いで言い合いました。でも、今ではだいぶ聞けるようになりましたね(笑)。相手を尊重することを心がけて、違う意見も取り込むようにしたんです。自分でも少しは成長したかなと感じています。
 優勝できたのはメンバー一人ひとりの気持ちが強くなったからだと思います。新人の子たちにも助けられましたね。普通、高卒だと先輩たちの顔色を見てしまうものなのですが、今年の新人たちはきちんと自分の意見を言える子たちばかりでした。だからこそ、私たちも負けないように頑張ろうと思えた。それがチームにとって大きかったのだと思います」

 10月13日、伊予銀行は最終戦の湘南ベルマーレ戦に臨んだ。勝てば優勝が決まる大一番に打線が初回から爆発した。「出塁すれば勝てる」と指揮官から絶大な信頼を寄せられている1番・中田麻樹がいきなり左中間へ二塁打を放つと、続く2番・重松文選手はライトの頭上を超えるタイムリー三塁打を放った。試合開始後、わずか数分で先制パンチを浴びせた伊予銀行は、さらにこの回2点を追加し、早くも試合の主導権を握った。

 そして3点差で迎えた最終回、2死ながら満塁とこの試合最大のピンチを招いたものの、最後はエースの坂田那己子投手がセンターフライに打ち取り、ゲームセット。伊予銀行が4−1で勝利し、優勝および1部復帰を果たした。

 だが、大國監督が優勝の喜びにつかれたのは、その日限りだったという。翌日にはもう指揮官の頭の中には来季のことでいっぱいだった。
「2部から上がったチームが1部で勝つことは非常に難しく、昇格しても1年で2部に降格することが多いんです。ですから、来季はまず残留することが目標です。それから定着、上位進出と徐々に上げていこうと。ひとまず3年計画で考えています」

 若いチーム内では数少ない1部経験者の川野キャプテンも同じ考えだ。
「1部は決して甘いところではありません。調子の良し悪し関係なく、結果を出す。そんな精神的に強い選手たちばかりがいるのですから。とにかく残留できるように頑張りたいです」

 12月には来春入行予定の新人選手を交えて恒例合宿が行なわれる。それまでは徹底して情報収集の期間にあてるという。歓喜に沸いた優勝の瞬間から、もう次なる戦いは始まっているのだ。さらなる高みを目指して伊予銀行女子ソフトボールの挑戦はこれからも続く。


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