国民体育大会、全日本選手権が終了し、いよいよ日本リーグまであと1週間となった。今年こそはと決勝ラウンド進出を狙う伊予銀行男子テニス部。いつもは和気あいあいとした雰囲気に包まれたチーム内にも、既に本番さながらの緊張感が漂っているようだ。果たして今、チームの状態はどうなっているのか。最年長の湯地和愛選手に各選手の仕上がり具合について訊いた。

 今年は横井晃一監督、キャプテンの日下部聡選手、湯地和愛選手、萩森友寛選手、植木竜太郎選手に、新人の小川冬樹選手が加わった。小川選手は神戸学院大学出身。4年時には関西学生春季トーナメント、秋の関西学生選手権で2冠を達成。全日本学生選手権でも8強入りしたほどの実力をもつプレーヤーだ。ところが、前半はなかなか満足のいく結果を残すことができなかった。

 湯地選手の目にはどう映っていたのだろうか。
「入行してから初めての試合となった5月の国体予選で負けてしまい、少し自信をなくしかけていました。なかなかトレーニングができていなかったこともあって、体もできていなかった。前半はかなり苦しんでいたようですね」

 果たして小川選手自身はどんなふうに感じていたのか。
「仕事をしながらテニスをすることが大変だということはわかっていました。ある程度、覚悟もしていたつもりです。でも、実際にやってみると想像以上でした。まず第一に大学時代は好きなだけやれた練習が一気に減ったことです。さらに僕の場合、昨年リーグ戦で足をケガして、ずっと練習ができていなかった。だから、なおさら体づくりが遅れてしまいました。そんな中で試合をやっても、今までできていたことができなかったり、勝てていた相手に勝てなかったり……。もう最悪な状態でした」

 8月にはヘルニアになり、練習もままならなかった。試合に出てもシングルスは全て初戦敗退。「いったい、何のためにここに入ったんだろう……」。仕事はもちろんだが、試合に出るからには「伊予銀行の顔」であり、テニスで結果を出すことも会社から求められていることは新人の小川選手にも痛いほど感じていた。それだけに心は焦るばかりだった。

 社会人1年目は、誰でも環境の変化にとまどい、悩んでしまうものだ。仕事だけでも覚えるのに必死だというのに、テニスもとなればなおさらだろう。思い起こせば、1年前の植木竜太郎選手も同じ悩みを抱えていた。

 しかし、植木選手がそうだったように、少しずつではあるが、小川選手にも復調の兆しが見え始めてきたようだ。10月のロイヤルSCオープン(千葉県)ではシングルスで久々に初戦突破を果たした。さらに11月中旬に行なわれたはさきオープン(茨城県)ではシングルスでベスト8。準決勝で優勝した高校生にストレートを負けを喫したものの、国体予選を除けば今シーズンの最高成績を挙げたことになる。

「最近になってようやく不安が解消されてきました。練習時間が限られているなら、とにかく時間を有効に使って効率のいい練習をしなければなりません。それがわかってからは、練習もダラダラとやるのではなく、集中するようになりましたね。練習後には最低でも週に3回はジムに行ってトレーニングをするようにしています。練習への取り組み方、意識がかわってからは、調子がよくなってきました」

 高校時代から団体戦の雰囲気が好きだという小川選手。それだけに日本リーグへの思いも強い。
「日本リーグが当部にとって、どれだけ大事であるかはひしひしと感じていますね。先輩たちはみんなすごく気合いが入っているし、練習もいつもと雰囲気が違うんです。いい意味で緊張感が漂っている。僕は1年目なので、とにかくガッツを出して元気よく思い切ったプレーをしたいと思っています」
 若手の活躍がチームを勢いづかせることは勝負の世界ではよくあることだ。小川選手にもぜひ期待したい。

 今年、絶好調なのが2年目の植木選手だ。4月の京都オープンに続いて7月の四国選手権、9月の宗像オープンで優勝を飾った。10月31日現在のJTAランキング(シングルス)は44位にまで上がった。今年5月の段階では66位。「50位以内に入りたい」という目標をたてていた選手とは思えないスピード出世だ。

 しかし、その植木選手にも疲労の色が見え始めているという。今月行なわれた全日本選手権頃から腰に若干の張りがあるというのだ。それでも湯地選手は「練習を少し抑えるようにはしていますが、特に問題はないと思いますよ」と心配していない様子。この分では日本リーグにはどうやら間に合いそうだ。

 キャプテン2年目を迎えた日下部聡選手は、今年はケガに泣かされた1年だった。5月には左太腿裏の肉離れを起こし、ようやく復帰を果たしたのも束の間、8月には肩を痛めてしまった。
「キャプテンとして人一倍頑張っている分、自分が試合に出られないことは辛かったと思います」と湯地選手。前キャプテンだけあって、日下部選手が置かれている立場、気持ちが痛いほどわかっているのだろう。日下部選手にはケガで苦しんだ1年間の鬱憤を日本リーグでぜひともはらしてもらいたい。

 チーム内で精神的にも技術的にも最も安定しているのが萩森友寛選手だ。特にダブルスでは優勝2回、準優勝1回、ベスト4が2回、ベスト8が3回と誰とペアを組んでもコンスタントに成績を残している。ケガさえせずに万全な体勢で日本リーグに臨むことができれば、昨年以上の活躍が見られることだろう。

 湯地選手自身も練習時間はさほど取れていないというが、調子は悪くないという。日下部、植木、小川の3選手のケガがどれほどまで回復しているかが、日本リーグへの最重要課題といえそうだ。

 さて、日本リーグは12月4日(木)から第1ステージがスタートする。決勝ラウンドに進めるかどうかは、この第1ステージの結果がカギを握るといっても過言ではない。というのも、第1ステージで対戦する4チームは前回、伊予銀行とは異なるブロックで5位・伊勢久、同6位・協和発酵キリン、同7位・ワールド、同8位・三井住友海上なのだ。もう一方のブロックで4位だった伊予銀行にとっては絶対に負けられない相手ばかり。第2ステージには前回優勝のミキプルーン、決勝ラウンド4位のリビック(元北日本物産)、同6位のJR北海道と強豪との対戦が待っているだけに、第1ステージで4連勝を飾り、少しでも貯金を増やしておきたい。そして最終戦のJR北海道戦で3位争いができるような状態にもっていくことができれば、決勝ラウンド進出の可能性も広がるはずだと湯地選手はにらんでいる。

 最終調整として11月30日からの3日間は、小浦武志氏の指導のもと、合宿を張っている。「本番前に急に上げようと思っても無理なので、直前から上げていき、ピークを本番にもっていければ体もスムーズに動いてくれる」のだという。実戦形式の練習を数多くこなし、本番に備えるようだ。

 日本リーグは企業同士のプライドがぶつかりあう、まさに真剣勝負の場。国内企業の王座決定戦ともいえるこの大会で伊予銀行は決勝進出を果たし、トップ6の称号を得ることができるのか。勝負の時は刻々と迫っている。


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