伊予銀行男子テニス部は、今シーズンから新指揮官に就任した秀島達哉監督の下、新たなスタートを切った。初の国体優勝と5年ぶりの日本リーグ決勝トーナメント進出に向け、現在は一人ひとりのレベルアップが図られている。果たしてどんな試みがなされているのか。チーム最年長となり、キャプテンとして牽引する日下部聡選手に現状について訊いた。

 秀島監督は伊予銀行男子テニス部にとって初めての専任監督だ。指導に専念することができるため、選手一人ひとりに目がいき届き、よりきめ細かな指導が可能となった。
「監督という立場に一本化されたことで、秀島監督には選手一人ひとりを細かくチェックしてもらっています。僕たち選手も、監督に常に見られているということを意識するようになり、練習からいい緊張感が生まれています」(日下部選手)

 日下部選手が秀島監督と初めて出会ったのは、日下部選手がまだ大学2年の時だった。日本リーグの前日、ダブルスが一人足りないからと伊予銀行から当時、監督兼選手だった秀島監督の母校であり、当時日下部選手が通っていた専修大学のテニス部に依頼があったのだ。そこで練習相手として借り出されたのが日下部選手だった。

「秀島監督のテニスはシンプルなので一見、地味に思えるんですけど、粘り強さがありました。とにかく一球一球に集中していた姿が印象的でした。今もそうですけど、話をしても親身になって受け答えしてくれましたね」
 このことがきっかけとなり、秀島監督は日下部選手を伊予銀行にスカウトした。だが、日下部選手が入行直前に秀島監督は異動に伴って引退。そのため、秀島監督が日下部選手を指導するのは今回が初めてだ。果たして、秀島監督とはどんな指揮官なのか。

「一人ひとりに対して親身になって相談にのってくれます。監督の方からも積極的にアドバイスをしてくれますし、自分たちからも遠慮なく聞きに行くことができる。普段は和気あいあいとした雰囲気ですけど、いざ練習になると厳しい。ちゃんとメリハリがあって、指導者としては適任だと思いますね」

 痛感した海外遠征の意義

 さて、今季から伊予銀行では国際大会の出場が可能となった。4月には早速、日下部選手と植木竜太郎選手が初の海外遠征を敢行した。試合は残念ながらともに初戦敗退だったが、二人とも大きな刺激を受け、そこから学んだことは多かったという。国内大会の数を減らして日本ランキングを落としてでも参戦した意義は十分にあったようだ。

「日本選手にはいないようなプレースタイルの選手がゴロゴロいて、彼らの練習を見ているだけで、いろいろと学ぶことができました。特に感じたのは、勝負強さですね。例えば、自分のサービスゲームの入り方一つとっても、必ずファーストサーブを入れて、自分のパターンにもっていくんです。一方で相手のブレイクポイントのときなど、ここという大事な場面でもきっちりとポイントを取ることができる。それが世界で勝つ“根拠”なんだと思いました」

 実は日下部選手は海外遠征の話を聞いた当初は賛成はしたものの、どんなメリットがあるのか、本当に自分はレベルアップができるのか、全く想像がつかなかったという。しかし、今は心の底から行ってよかったと思っている。

 世界を舞台に戦っている選手がなぜ強いのか。自分が経験して改めて日下部選手も植木選手も納得したことだろう。言葉も文化も違う異国で、移動も宿泊もそして練習のコートを取るのも全て自分の力でやらなければならない。そうした環境が強い精神力を養う。日下部選手自身も、どんな環境にも対応できるようになったと、海外遠征の効果を感じている。

 メンタル面においてもフットワークやサーブといった技術面においても、自分はまだまだだと感じることも少なくなかったという日下部選手だが、自信になったものもある。自分の最も得意なフォアハンドは十分に通用すると感じたのだ。ところが、昨季はこのフォアハンドが影を潜めた。日本ランキングが上がれば上がるほど、無意識に「(ランキングが)下の選手には負けてはいけない」という思いが強くなり、守りに入ってしまったのだ。その反省をいかし、今季は本来の攻めのスタイルを意識している。

「国内の大会に参加する数が減ったことで、ランキングが落ちているのですが、自分としてはこれがいいきっかけになるのではないかと思っているんです。ランキングを上げようと思ったら、(ランキングが)上の選手に勝たなければいけません。となれば、攻めていくしかないわけですからね」
 今後も日下部選手は国内を中心に国際大会に出場する予定だ。初戦を突破すれば、1ポイントを得ることができる。「たった1ポイントでもいい。とにかくATPランキングに入ることが目標」と日下部選手。植木選手や今後出場予定の小川冬樹選手とともに、世界ランキングに名を刻むことができれば、大きな自信となるに違いない。

 課題克服への道

 さて、現在のチーム状況はどうなのか。キャプテンから見た各選手の現状と課題を訊いた。まずともに海外遠征をこなした3年目の植木選手はケガもなく、順調そのものだ。以前は課題とされていた精神的な波も最近ではあまり見られなくなり、安定性が増してきている。もともとのガッツあふれるプレーとの融合でますます強さに磨きがかかっている。「このままいってくれれば」と日下部選手も太鼓判を押す。

 一方、多少伸び悩みを見せているのが萩森友寛選手だ。現在、取り組んでいるのがバックハンドとフィジカル面。これまでトップスピンで打っていたバックハンドをアプローチショットが打ちやすいスライス中心にかえようとしている。ネットプレーを得意としているため、相手のショットが浅くなったところを攻めようというのだ。一方、フィジカル面においては一朝一夕でクリアできるものではない。日々の積み重ねで克服していくしかないだろう。「もともとは力のある選手。足腰を鍛えて、動きの上でトップ選手についていけるようになれば、成績も伸びるはず」と日下部選手。今年1年間での成長に期待したいところだ。

 最年少の小川選手は、1年目の昨季はケガに泣かされ、練習もままらなない苦しいシーズンとなった。だが、今季はケガも完治し、練習も十分。成長の著しさでは一番で、日下部選手も「最も楽しみな選手」と語っている。ストロークに強い小川選手は、チャンスボールを一気に狙っていくのが得意だ。課題はボレーとサーブ。ボレーは速いボールに対しては対応できるものの、自ら決めにいくような攻めのボレーが苦手だ。また、サーブは今最も力を入れて取り組んでいるという。ヒザの使い方をマスターすることで、サーブ力の向上を目指している。「サーブは唯一、一人でも練習することができる。空いている時間をうまく利用して、地道にやっていくことが大切」と日下部選手は後輩を鼓舞する。

 そして今年入行し、新メンバーとして加わったのが坂野俊選手だ。今はまだ思うように結果を得ることができず、少々落ち込み気味だというが、日下部選手は全く心配していない。「坂野は高い技術を持っている選手で、フォアでもバックでもエースを入れる力がある。ただ、大振りになったり、タイミングがずれてとんでもないところにボールがいくことも……。もっと打つべきところと守るべきところのバランスがとれるようなってくれば、上にいける選手ですよ」。日下部、萩森、植木、小川の4選手が経験した新人ならではの壁を乗り越えた時、坂野選手の新境地が見えてくるのだろう。

 伊予銀行が今季最大の目標としているのが国体優勝だ。その予選が今月行なわれ、植木、萩森の両選手が8月の四国予選に出場することが決定した。植木、萩森のペアとしては2年ぶりで、一昨年は7位入賞にとどまった。しかし、今季は優勝を十分に狙える位置にある。
「二人ともダブルスは得意ですから、あとはシングルスでどこまで勝てるか。2本ともに取ることができればベストですが、強豪相手にはそうもいきません。どちらかがシングルスを1本とって、ダブルスに持ち込むことができれば勝機は十分にある」と日下部選手は語る。果たして四国予選、そして本戦で頂点へと上り詰め、日本リーグへと弾みをつけることができるか。今季の伊予銀行には見どころが目白押しだ。


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