プレワールドカップとしても知られるFIFAコンフェデレーションズカップ2009が6月14日、南アフリカの首都・ヨハネスブルクで開幕した。開催国と前回W杯優勝国、さらには各大陸王者を合わせた8カ国が1年後に本番を迎える南アフリカに集い、全16戦を展開する。出場する8カ国とは南アフリカ、イタリア、スペイン、ブラジル、エジプト、イラン、米国、ニュージーランド。果たしてコンフェデレーションズカップを制するのはどの国か?

 FIFAコンフェデレーションズカップは今大会で8回目を迎える。1992年にサウジアラビアで産声を上げたこの大会は、もともとサウジアラビアが主催し、各大陸の王者を一同に集め、覇を競う大会だった。国際サッカー連盟が主体となって行われたのは99年の第4回メキシコ大会から。名称も現在のFIFAコンフェデレーションズカップとなり、2年おきに開催される大陸間王者による世界一決定戦となる。2001年には日本と韓国の共同開催となり、翌年に行われるW杯のプレ大会としての地位が確立された。

 10年ぶりの日本不参加

 今年のコンフェデレーションズカップも見所の多い大会だが、一つ残念なことがある。それは日本の不参加だ。07年に行われたアジアカップで、イビチャ・オシム監督が率いた日本は準決勝でサウジアラビアに敗れ、出場権を獲得できなかった。日本にとってコンフェデ杯不参加となるのは、99年メキシコ大会以来、実に10年ぶり。日本のサポーターにとって馴染みのある大会だけに、アジアカップで優勝を逃がしたことは大きな痛手だ。

 ただモノは考えようだ。岡田ジャパンのコンセプトは「前線からのプレス」と「攻守の切り替えの速さ」だが、それを隠すことはできる。幸か不幸か欧州や南米の列強で日本代表を警戒している国はいないだろう。「世界を驚かせる」(岡田武史監督)ためには、むしろ、全体像を明らかにしない方がいいのかもしれない。

 ところで日本人の多くがコンフェデレーションズカップに興味を持っているのは、過去の日本代表がこの舞台で様々な名勝負を演じてきたからだ。01年日韓大会ではグループリーグを首位で突破し、決勝に進出した。惜しくもフランスに0−1で敗れたものの、この大会での躍進は翌年の日韓W杯での活躍を予感させた。

 前回05年ドイツ大会も忘れられない。グループリーグ第3戦で日本は南米王者のブラジルと対戦した。当時のブラジルは売り出し中のアドリアーノ、ロビーニョ、カカが存在感を増しており、中盤には王様として君臨するロナウジーニョがいた。豪華メンバーを擁したブラジルに対し、ジーコ監督率いる日本は真っ向勝負を挑み、2−2で引き分けた。とりわけ前半27分の中村俊輔(セルティック)の強烈なミドルシュートは今も記憶に新しい。ゴール正面からのFKを細かいパスで繋ぎ、中村が狙いすまして左足から放った無回転シュートは、まさにワールドクラスの一撃だった。彼の左足の威力が世界王者・ブラジルを大いに慌てさせた。惜しくも引き分けに終わり、日本はグループリーグで敗退したが、世界に大きなインパクトを与えたことは間違いない。

 32戦負けなしの無敵艦隊スペイン

 日本が出場しない10年ぶりの大会とはいえ、サッカーファンにとってこの大会は見逃せない。世界中から注目を集めているのはEURO2008王者のスペインだ。先月27日に行われた欧州チャンピオンズリーグ決勝でも、リーガ・エスパニョーラのバルセロナが3年ぶりに欧州チャンピオンに就いた。代表でもクラブでも欧州サッカーの頂点に君臨するのはスペインなのだ。

 CL王者のバルセロナからは、代表でも中核をなすシャビやカルラス・プジョル、ジェラール・ピケらが選出されている。ライバルのレアル・マドリッドからはセルヒオ・ラモス、イケル・カシージャスが代表入りを果たした。他にも、ダビド・ビジャ(バレンシア)、セスク・ファブレガス(アーセナル)にフェルナンド・トーレス、シャビ・アロンソ(以上、リバプール)……。キラ星の如く、才能溢れる選手を揃えるスペインは不動の優勝候補だ。

 キープレーヤーを一人挙げるならば、やはり司令塔のシャビになる。クラブでも代表でもコンビを組むアンドレス・イニエスタが負傷で今大会を欠場するのは残念だが、彼の創造性豊かなゲームコントロールは必見だ。スペイン代表のパスは必ず彼を経由していくと行っても過言ではない。シャビがボールに触れる回数が増えれば、無敵艦隊はさらに輝きを増す。

 若きスペイン代表はユース年代から世界の舞台で好成績を収めてきた。彼らは勝つことに慣れている集団なのだ。「素晴らしいサッカーをしながら、勝ちきれない」。これが以前のスペインサッカーが抱えるジレンマと言われてきた。その呪縛を解き放ったのが、08年のEURO制覇であり、今年5月の欧州CLを優勝したバルセロナの勝利だ。

 シャビを中心に華麗なパス回しを披露し、ここ一番での決定力のあるF・トーレスやビジャが一撃で相手にとどめを刺す。あたかも闘牛を思わせるようなエキサイティングなショーは、サッカーを芸術の域まで高めたと言える。これを見逃すのは人生の多大なる損失である。

 ブラジルの連覇、イタリアの復権なるか!?

 勢いのあるスペインに対し、もちろん南米王者のブラジルやW杯王者のイタリアも黙ってはいない。特にブラジルはW杯南米予選で苦戦が伝えられながらも、6月6日のウルグアイ戦とのアウェー戦で、実に33年ぶりの勝利を挙げ首位に浮上している。続く10日の2位・パラグアイとの試合も2−1で競り勝ち、混戦の南米予選で頭ひとつ抜け出した感がある。

 ドゥンガが率いて3年目のセレソンはロナウジーニョ(ACミラン)が君臨した時期から、カカ(レアル・マドリッド)を中心としたチームに生まれ変わっている。前回ドイツ大会では注目されたロビーニョ(マンチェスター・シティ)もドリブルの威力に磨きをかけており、エースのカカより8歳下のアレシャンドレ・パト(ACミラン)は偉大な先輩の後を追って急成長を遂げている。

 ブラジルというと、どうしても華麗な攻撃陣に目が行きがちだが、実はW杯最終予選では14試合を戦って6失点と鉄壁の守備陣がチームを支えている。その中心にいるのは、GKジュリオ・セーザルだ。インテルの正GKとして君臨しているが、その安定したセービングと的確な指示は、強固な守りで知られるセリエAにあっても抜群の信頼感を誇る。長くイタリアナンバーワンGKとして不動の位置にいたジャンルイジ・ブッフォン(ユベントス)よりも近年では高い評価を得ている。派手な攻撃陣だけでなく、守備の堅さにも注目だ。

 W杯優勝後、EUROでもいいところなく敗れたイタリアはどうか。アズーリの悩みの種は世代交代が進まないことだ。ベテランたちの奮闘ぶりには頭が下がるが、先述のブッフォンやファビオ・カンナバーロ(ユベントス)、ジャンルカ・ザンブロッタ(ミラン)やルカ・トニ(バイエルン・ミュンヘン)など3年前のW杯優勝メンバーが相変わらずチームの中心に座り、ややフレッシュさに欠ける。来年のW杯を見据えた大会でニュースターの登場を待ちたい。

 そんな中、注目を集めているのが91年生まれの18歳だ。その男はジョゼ・モウリーニョの秘蔵っ子と呼ばれるダビデ・サントン。08−09シーズン開幕時は全く無名の少年だったが、秘めた才能を名将に見出され、今年1月頃からセリエAでの出番を徐々に増やし、今ではクラブに欠かせない存在となった。プロデビューからわずか半年でイタリア代表にも選出され、コンフェデレーションズカップの舞台に立つ。まさにサッカー界のシンデレラボーイだ。

 この18歳は話題性だけでなく、実力も十分に兼ね備えている。187cmと大柄ながら、スピード感溢れるドリブルを武器に積極的な攻撃参加を見せる。デビューしたてのルーキーだが、線の細さは全く感じさせない。さすがにコンタクトの激しいセリエAで揉まれているだけのことはある。稀代の戦術家であるモウリーニョが重用することもあって、サッカーに対する理解度も高い。本来は左サイドバックながら、逆サイドでも無難に仕事をこなす器用さも併せ持っている。高齢化が問題となっているイタリアで、サントンが左サイドで躍動する場面が多く見られれば、イタリアが3年前のW杯以来となるビッグタイトルを獲得する可能性も捨て切れない。

 岡田JAPANのライバルたちと1年後の舞台をチェック!

 今大会はこれまでに挙げた3カ国が優勝争いの中心となると見られる。もちろん成長著しいアフリカ王者・エジプトや、切れ味鋭いカウンターが武器の北中米カリブ海王者・アメリカも虎視眈々と勝機を窺っている。開催国枠で出場する南アフリカもホスト国として無様なサッカーはできない。大陸のレベルに疑問符がつくオセアニア王者・ニュージーランドとW杯への出場が叶わなかったアジア王者・イラクはやや戦力的に劣ると見る。

 しかし、だからと言ってこの大会が無風で終わるとは思えない。今大会は標高1000mを超える5都市で開催されるからだ。最も標高が高いのはヨハネスブルクの1753メートル。この地では開幕戦と決勝を含む6試合が行われる。

 高地と聞くと、南米予選でのエクアドルの首都・キトやボリビアの首都・ラパスが真っ先に思い浮かぶ。サッカー大国のブラジルやアルゼンチンが毎回のように苦戦する“難所”だ。コンフェデ杯の優勝候補たちも高地対策を怠れば、格下相手に足元をすくわれかねない。

 W杯の歴史を紐解くと、1970、86年に行われたメキシコ大会が高地で行われている。この2大会では、地元のメキシコが2度ともベスト8入りを果たしている。特に86年準々決勝では優勝候補の西ドイツを追いつめ、PK戦にまでもつれ込む接戦を演じている。こうした歴史を踏まえればFIFAランキング72位と大会参加国の中では実力の劣る南アフリカの上位進出もありうるかもしれない。

 高地での試合は、とにもかくにも体を慣らすことが肝要だ。70年W杯では優勝したブラジルがリオ近郊の山中で3カ月間の合宿を行ったというエピソードもある。専門家によると、標高1000mを越える高地での試合では頭痛を訴えたり、脱水症状を起こす選手が続出するという。参加8カ国にとっては本大会への貴重なリハーサルとなる。

 南アフリカW杯の1年前に行われるコンフェデレーションズカップ。本番で岡田ジャパンが戦う舞台を知る上でも、そして各大陸王者に君臨する強力なライバルたちの現状を知るためにも、見逃せない全16戦になることは間違いない。地球の裏側で行われるプレワールドカップを、是非ライブで体感したい。


2009 FIFAコンフェデレーションズカップ 南アフリカ大会はスカパー!で
 フジテレビNEXTフジテレビONEで全16試合を完全生中継!
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2010 FIFAワールドカップ 南アフリカ大会もスカパー!で
日本代表戦含め全64試合をハイビジョン生中継!




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