他をよせつけない圧勝だった。
 5月22日から24日まで埼玉県・戸田ボートコースで行われたJapan Cup 第31回全日本軽量級選手権大会。男子シングルスカルに出場した武田大作選手(ダイキ)は7分18秒25のタイムで7年ぶり5度目の優勝をおさめた。昨夏の北京での敗北から、3年後のロンドンへ――。「今年は準備、勉強の年」と語る35歳が新たな歩みを始めた。
(写真:表彰式で笑顔をみせる武田)
 決勝が行われた5月24日はあいにくの天候だった。小雨が降りしきり、気温は18.6度(13時時点)ながら、初夏とは思えない肌寒さを感じた。午前中の準決勝で2着に7秒以上の差をつけて決勝に進んだ武田は、悪条件をもろともせず、滑らかな漕ぎでファイナルのレースをスタートさせた。

 最初の500メートルで早くも2番手とは約4秒差。それからも力強いストロークでどんどん他を引き離していく。レースの中間点にあたる1000メートル付近で、後続との差は約8秒に広がった。こうなると残りは一人舞台だ。武田は最後までスピードは衰えることなくゴールに入った。2着には13秒近い大差をつけた。

「春先から調子は悪かった。年齢的なこともあって調子を崩すと、なかなか元には戻らない。だから、この大会を機にやり直そうと思っていた」
 ボートを降りた武田はホッとしたような笑顔をみせた。昨年9月の全日本選手権ではシングルスカルで大会最多となる10度目の優勝。日本では向かうところ敵なしだった第一人者が今年4月のレースではまさかの敗北を喫した。しかし、5月2日の朝日レガッタ(琵琶湖漕艇場)で優勝し、このJapan Cupも制覇。「これでいい状態になると思う」。本人も手ごたえをつかんだレースになった。

 ただ、向かい風とはいえ、タイムは昨秋の全日本選手権(7分0秒60)と比べれば約18秒も落ちている。「これでは世界の中では出遅れてしまう」。武田はすぐに表情を引き締めた。今季は、もう一度世界と戦うため、「ワンストロークですすむ距離を長くする」ことを目標に取り組んできた。「練習ではできてきている。ただ、レースになるとまだまだ。ストロークが崩れてしまう」。理想の漕ぎにはまだたどりつけていない。
(写真:残り500メートル、必死にオールを漕ぐ武田)

 北京五輪のダブルスカルでは、優勝したオーストラリアのペアに予選で10秒以上の差をつけられた。「世界で戦うレベルになるには、今以上のスピードを手に入れなくてはいけない」。課題は明確だ。とはいえ、今年12月で36歳を迎える武田にとって、この年齢で瞬発力をアップさせるのは大変な作業である。

「年々、体の動きは鈍くなっているのを感じる。だからこそ刺激を与えなくてはいけない。これからはスピード練習の強度を高めようと思っています。ここ数年、取り組んできた練習プログラムは見直さないといけないでしょうね」
 “ゆっくり大きく”から“速く力強く”へ――次なるテーマは決まっている。「もっとスタートから爆発して激しく動ける体づくりをしたいですね」。陸上の筋力トレーニングでもさらに負荷をかけるつもりだ。

 6月からはいよいよ世界との戦いが待っている。現在、武田はワールドカップに出場するため、ドイツ・ミュンヘンに渡っている。「実はシングルスカルで出場するのは初めて。だから楽しみです」。当面の目標は8月にポーランドで行われる世界選手権で結果を出すこと。ボート競技はスタートすればゴールまでは一直線。武田も5度目の五輪に向けて、もうストロークを止めるつもりはない。

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(石田洋之)
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