「国体優勝」――これが今シーズンの伊予銀行男子テニス部の掲げた目標だ。地方銀行としての役割、つまり“地域振興”という意味では、愛媛県および四国代表として出場する国体は他のどの大会よりも大きな意味をもつ。果たして新潟トキメキ国体ではどんな活躍を見せてくれるのか。出場する萩森友寛選手と植木竜太郎選手、そして秀島達哉監督に意気込みを訊いた。

「僕にとっては特別な大会」と言い切るのは萩森選手だ。彼はチームで唯一の愛媛県出身者。それだけに国体に対しての思いは他の誰よりも強い。昨年まで課題だったフィジカルも春からの走りこみのおかげで随分と強くなった。秀島監督も「昨年までとは全然違う」と太鼓判を押す。

 そのフィジカル面が強化されたことで、メンタル面にも変化が表れている。それはプレーに迷いがなくなったことだ。実は昨年まで萩森選手は自分のプレースタイルを確立させることができずにいたのだ。
「昨年までは自分がどうすれば勝てるようになるのか、本当にわからなかった。ストロークで勝負しても、どうしても僕はパワーで負けてしまう。それでも無理やりに押し込もうとして自滅したり、逆に我慢強くいこうとして結局は消極的になったところを攻められたり……。何をやったらいいのか悩むことも少なくかったんです」

 確立しつつあるプレースタイル

 そんな萩森選手に秀島監督は「ネットプレーを自分のスタイルとして取り組んでいこう」と言ったという。これが萩森選手の迷いを一掃させたのだ。
「ネットプレーに意識を向けることで、中途半端さがなくなりました。そしたら結果も出るようになって、『よし、これでいいんだ』と思えるようになったんです」

 萩森選手は入社2年目の小川冬樹選手とは小川選手が大学生の頃から、何度も対戦したことがある。だが、一度も勝ったことはなかったという。ところが、今年になってその小川選手に初めて勝つことができた。チーム内での練習試合だったとはいえ、萩森選手には大きな白星だったようだ。
「小川に勝てたことで、試合での相手への気持ちも変わってきました。これまでは名前のある選手と当たると、いつも試合前から『強いんだろうなぁ』とマイナス思考になっていました。でも、小川が試合で勝ったりするのを見ると、『よし、オレにだってチャンスはあるはずだ』と思えるようになったんです。そのおかげで、どんな試合も簡単に諦めなくなりました」
 まだ自分のプレーに「自信」とまではいっていないが、「いい感触」は得ているという。そんな萩森選手は最近、よりテニスが楽しくなってきている。

 では、その萩森選手に指揮官はどんなことを期待しているのか。
「今、萩森とはネットプレーを全体の6割にもっていこうと話しているんです。サービスゲームでの“サーブ&ネット”は当然ですが、レシーブゲームでもセカンドサーブでは“リターン&ネット”、つまり相手のサーブを返したら、すぐに詰めるくらいに徹底的にネットで攻めていこうと。とはいえ、相手が強ければ強いほど、そう簡単には前に行かせてもらえません。ですから、大事なのはアプローチショットの精度を高めること。ネットの成功率はアプローチ次第といってもいい。とにかくタイミングやコースなど、体で覚えていくしかないと思います」

 がむしゃらさと冷静さ

 一方、植木選手は萩森選手と一緒に出場した2年前と比べ「がむしゃらさが増した」とメンタル面での成長を挙げた。
「今年は、日本ランキング20〜30位といった自分よりも上の選手と競った試合をすることができている。それは消極的にならずに自分からチャレンジしていっているからだと思うんです。そういった面では、新入社員の頃よりがむしゃらにやれているような気がします」

 では、その「がむしゃらさ」は何がきっかけとなったのか。その問いに、植木選手は「周囲からの影響」を挙げた。この「周囲」にはクルム伊達公子選手が間違いなく入っている。実は今月、広州国際女子オープン(中国)に出場した伊達選手のヒッティングパートナーとして約1週間、彼女に帯同したのである。果たして、そこでどんなことを感じたのか。
「夏の合宿でもそうでしたが、やはりゲームに入った時の集中力はすごかったですね。特に後半になればなるほど、自分のリズムでどんどん攻めていくんです。改めて、そういう部分は見習いたいなと」

 入社以来、チーム一の負けん気の強さを見せてきた植木選手だが、伊達選手のそれはさらに上を言っているという。しかし、それこそが世界を舞台にしてきたからこその強さだろう。そして、そういう彼女の言動を間近で見て、接することで、自然と植木選手にも思いっきりの良さが生まれてきているのではないか。39歳にしてもなお、世界で活躍する伊達選手から学ぶことは多い。

 さて、植木選手の現在の課題は何なのか。
「僕は周りが見えなくなってしまって、ペースがどんどん速くなっていってしまう。それだと、勢いというよりは単調になってしまうんです。だから、時には一呼吸おいてゆっくりをボールを運んだりすることも必要です。もちろん、自分のプレーをするということは大前提なのですが、相手を見ながら出し引きをうまく使っていきたいですね」
 萩森選手同様、課題をしっかりと見据えている植木選手。国体ではどんなプレーを見せてくれるのか、非常に楽しみだ。

 国体はチームでの戦い

 秀島監督によれば、相手が強くなればなるほど、シングルス以上にダブルスがポイントとなってくるという。7月の夏合宿ではまだ本調子とまではいっていなかった二人だが、その後、徐々にコンビネーションはよくなっているようだ。
「ようやくダブルスらしくなってきました。彼らの強みは総合力。植木のリターン力と萩森のネット際の強さ。互いが互いのいいところを引き出せるのが、彼らの持ち味です」と秀島監督。植木選手も「萩森さんは一発で決めるボレーがある。だから僕がかたちをつくって、萩森さんが詰める。こうした役割分担はきちんとできています」とコンビネーションに自信を見せている。

 伊予銀行の国体での最高成績は8年前の6位入賞。もちろん狙うは優勝だが、まずは準々決勝の壁を破ること。今大会、組み合わせを見ても、順当にいけば準々決勝で優勝候補の千葉県と当たる。ここをクリアすれば、頂点は見えてくるはずだ。

 硬式テニス成年男子の部は10月2日にスタートする。今年もチーム全員で大会に臨む伊予銀行。出場するのは萩森選手と植木選手の2人だが、チームメイトのサポートは優勝の絶対条件の一つといっていいだろう。そして、そのチームワークや勢いが、ひいては実業団最大の大会、日本リーグへとつながるはずだ。


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