4年ぶりに1部復帰を果たし、残留を目標に戦ってきた伊予銀行女子ソフトボール部だが、結果は2勝20敗で最下位に終わり、来シーズンの2部降格が決定した。特に後節は一つも白星を得ることができず、11連敗。だが、決して失ったものばかりではないはずだ。大事なのは、今シーズンの反省を踏まえ、来シーズンへのステップとすること。そこでシーズンを終えたばかりの大國香奈子監督と川野真代キャプテンに今シーズンを振り返ってもらい、来シーズンへの思いを訊いた。

「なんとかしがみついて残留をしたいとは思いましたが、前半戦で狂った歯車を後半戦で修正することができませんでした」と大國監督。いつもはハツラツとした指揮官の声も、沈みがちだった。

 前節を終えた時点で2勝9敗だった伊予銀行。後節では第1戦のデンソー戦で自分たちのかたちをつくり、第2戦の戸田中央総合病院戦で勝ち星を得ることが、波に乗るポイントになると考えられていた。だが、デンソー戦で0−10と大敗を喫すると、翌日の戸田中央総合病院戦も落とし、2連敗。いきなり出鼻をくじかれた伊予銀行は結局、9月は4連敗に終わった。1部残留のボーダーラインを6勝と考えていた伊予銀行にとっては、あまりにも痛い結果だった。

 大國監督は後節に向けての最重要課題をバッテリー間の配球だと考えていた。そこで7月にはバッテリーのための遠征を行うなど、昨年から正捕手に君臨する藤原未来選手のレベルアップを図った。だが、後節に入っても彼女の配球に変化が訪れることはなかった。

 そこで大國監督は勝つための決断を下した。後節第4戦の太陽誘電戦、藤原選手に代え、大学まで捕手を務めていた山本久美子選手にマスクをかぶらせたのだ。そして最後までリーグ戦では途中出場はあったものの、藤原選手に先発マスクがまわってくることはなかった。
「(4連敗後の)9月末の全日本総合女子選手権大会の初戦、東海学園大学と対戦したんです。その試合では藤原を先発させたのですが、それまでと何ら変わらない配球を繰り返していた。もうとにかく勝たないといけない状態でしたから、リーグ戦の残りもやはり山本に先発マスクをかぶらせることにしたんです」

 実は山本選手は強豪校、園田学園女子大学の出身。一昨年、インカレで優勝した大学4年時には、チームのキャプテンを務めたほどの実力者なのだ。大國監督は彼女の豊富な経験と優れた観察力に賭けた。しかし、1年以上のブランクはそう簡単には埋められなかった。投手陣との呼吸が合わず、後節再開直後のレオパレス21、豊田自動織機戦では2ケタ失点を喫した。
 それでも徐々に実力を発揮し始め、最後の3試合はいずれも4失点に封じた。特に前節の開幕戦で22失点の大敗を喫した日立ソフトウェア打線を4失点に封じたのは、投手陣の力投とそれを支えた山本選手のリードによるところが大きいのではないか。

 ただ、前節では成長がうかがえた打線は後節では力を発揮することができなかった。その要因を大國監督は次のように述べた。
「やはりピッチャーがあれだけ打たれていましたからね。バッターには大きなプレッシャーがかかっていたと思いますよ。『勝たないといけない』という気持ちからボールを選び出してしまった。打てなかったんじゃなくて、振れなくなってしまったんです。前節は初球から思い切っていけたのに、後節は簡単に2ストライクに追い込まれていましたから。三振の数が前節よりも増えていることが、そのことを物語っています」

 では実際、プレーをしていた選手たちはどんな気持ちだったのだろうか。代表として川野キャプテンに訊いた。
「前節はまだ順位を考えずに臨むことができたので、その試合その試合に集中することができました。前節を終えた時点で2勝でしたが、自分たちのプレーが出せれば、勝てるという手応えも感じていたんです。ところが、後節に入って試合数が減っていくごとに『勝たないと残留できない』と焦りが生じ始めたんです。それがプレッシャーになった。今思えば、もっと落ち着いてやればよかったなと思います」

 川野キャプテンは3年前、既に1部を経験済みだ。だが、キャプテンとしてチームを牽引しての今回、改めて2部との差を痛感したという。
「とにかく選手のモチベーションが全く違いました。1部の選手は観客を魅了するということにまで意識がいっているんです。自分たちのいいプレーを見せようというプロ意識があるように思いました。その点、自分たちはただただおびえて、観客への意識が欠けていたような気がします」

 1部未経験者の若手選手が多いチームをまとめ、シーズンを戦い続けることが、どれだけ大変なのかは容易に想像することができる。だが、川野キャプテンはどんなに大差がつこうとも、決して下を向かない。ピンチにも動じず、キャプテンはいつも笑顔をふりまきながら、大声でチームを鼓舞する。その姿勢は開幕から一貫していた。

「チームが暗くならないように常に声をかけていました。『苦しいけれど、一人で戦っているわけではない、チームみんなで気持ちを切り替えて頑張っていこう』と。
 試合前の緊張をほぐすために、時には冗談を交えたりすることもあります。笑顔は自分がリラックスしていることをみんなにアピールするためです。私が緊張した顔をしていたら、みんながかたまってしまいますから」
 指揮官が全幅の信頼を寄せているのも納得である。

 2年ぶりに出場した国民体育大会でもまさかの初戦敗退を喫するなど、今シーズンは苦しい時期が長く続いた。だが、最後のシオノギ戦、1点差で負けはしたものの、川野キャプテンはチームが今もつ力を出し切った試合になったと振り返る。もちろん敗戦に満足はしていない。だが、「今はここまでの力しかない」と納得することができたのだという。

 苦しいシーズンを終え、いい意味でもチームの課題が数多く浮き彫りとなったことだろう。では今後、どのようにしてチームの再建を図っていくのか。来シーズンについて大國監督に訊くと、次のように語った。
「来週から個人面談を予定しています。新チームに向けての具体的な方向性はそれが終わってからとなりますが、選手には『来年とにかく頑張って2部で優勝したい』とは思って欲しくありません。重要なのは1部に上がってからどうやって、そこに残れるかということ。ですから、もちろん来年は昇格を目指しますが、2年後、1部に上がってからのこともきちんと今から考えてもらいたい。それだけの決心をしてきてほしいと思っています」

 大國監督の並々ならぬ決意がみなぎっている重い言葉だ。そして4年間、監督の右腕となってチームを牽引してきた川野キャプテンも同じ気持ちだ。
「大事なのは次に1部に上がった時に、自分たちがどこまでやれるかということなんです。今のままのやり方では、次もまた最下位だと思います。だから、もっといろいろと変えていかなければなりません。それをこれから大國監督や副キャプテンらと話し合いたいと思っています」

 確かに今シーズンは結果的には誰もが認める惨敗だったのかもしれない。だが、それによってチームは今、生まれ変わろうとしている。「ピンチは最大のチャンス」「失敗は成功のもと」という言葉があるように、伊予銀行にとって今シーズンは決してムダには終わらないはずだ。予想以上に厚かった壁をどう打ち破るのか。伊予銀行の目標は1部昇格ではなく、あくまでも残留。来シーズンはそのための第一歩となる。


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