バンクーバー冬季五輪開幕まで約1カ月に迫った現在、その前哨戦ともいえる大会が世界各国で開催されている。世界のトッププレーヤーたちが本気モードで臨む大舞台だけに、現場の張り詰めた空気感は観ている者を圧倒する。また、五輪でのメダルに賭けたアスリートたちの最新情報が得られる最後のチャンスでもある。冬の祭典をより深く楽しむためには必見だ。

上村愛子の強さはターンにあり!

 今年のバンクーバー五輪で金メダルに近い選手といえば、フリースタイルスキー・モーグル女子の上村愛子(北野建設)が挙げられる。17歳で長野五輪に出場して以来、ウインタースポーツ界のアイドルとして人気を博してきた彼女は今、最も輝いているアスリートの一人だ。07−08年シーズン、日本モーグル界初のW杯種目別総合優勝を果たし、世界のトップに躍り出ると、昨シーズンは世界選手権でモーグル、デュアルモーグルの2冠を達成した。

 彼女を女王に押し上げた最大の要因はコブをえぐるように滑り、スピードを抑えることなく滑り落ちていく「カービングターン」の習得にある。高度な技術を要するカービングターンは、男顔負けの豪快さがある。成功すれば高得点が期待できるが、その分リスクも大きい。しかもターンは全体の5割を占めるだけに、失敗すれば表彰台どころの話ではない。上村も今季のW杯では開幕戦こそ2位だったが、09年最終戦となった第2戦では24位で予選落ち。年明け初戦の第3戦も14位と振るわず、周囲からはバンクーバーへの不安の声もささやかれた。

 しかし、第4戦ではようやく本来の上村らしい滑りを取り戻し、全43人中最速となる26.22秒の好タイムで開幕戦以来の表彰台(2位)を獲得。復調の兆しを見せている。「ターンがちょっとよくなったことで、エアもすごく良くなる。もっともっと、強い滑りできるようにがんばりたい」と本人も手応えを感じているようだ。

 これまでのW杯通算9勝中7勝は2月以降とシーズン後半に強さを発揮するのも、上村にとっては強みだ。彼女の“4度目の正直”に期待する国民は多く、五輪での“愛子スマイル”に期待がかかる。

虎視眈々と狙う五輪女王の座

 一方、モーグル女子日本のパイオニアといえば、里谷多英(フジテレビ)だ。地元開催となった長野五輪では予選11位からの大逆転で、冬季五輪では日本女子選手初の金メダルに輝いた。さらにその4年後のソルトレークシテーでも銅メダルを獲得。2大会連続で表彰台にのぼり、本番での勝負強さを見せつけた。

 だが、4年前のトリノでは15位と振るわず、一度は引退もささやかれた。その後も国内大会で予選落ちを喫し、W杯メンバーからも外れるなど、彼女が築き上げた栄光は地に落ちた。その間に後輩の上村愛子が女王の座を射止め、若手の伊藤みき(中京大)も台頭してきた。

 その陰で里谷はひっそりと、そして地道な努力を重ね、バンクーバーへのステップを踏んできた。引退覚悟で臨んだ昨年1月の北米杯で3位に入ると、3季ぶりにW杯遠征メンバーに復帰。いよいよ五輪を直前に控えた今シーズンのW杯では、開幕から2戦連続で決勝に進むなど、実績を積み上げた。そして今月13日、里谷の元に朗報が訪れた。スピードスケートの岡崎朋美同様、日本女子最多タイとなる5大会連続出場が決まったのだ。

 バンクーバー行きを掴んだ直後、里谷は「(5大会は)長いですね。その時々で気持ちが全然違います」と感慨深げに話し、バンクーバーでの目標について「後悔のない滑りができればいい」と控えめに語った。

 年末のトレーニングで痛めた腰の具合が完治せず、年が明けてからはレース欠場が続いたが、彼女のことだ。きっと五輪本番にしっかりと照準を合わせてくるだろう。大舞台での集中力という点ではまだまだ彼女の右に出る者はいない。逆境から這い上がってきた意地にも注目したい。

 開幕翌日の13日に行われる女子モーグル。果たしてバンクーバー五輪の金メダル第1号に輝くのは誰か。

崖っぷち皆川、ラストチャンスに挑む

 現在、確定している出場2枠をかけて、熾烈な争いが行われているのがアルペンスキー男子だ。有力候補に挙げられているのは次の3人。佐々木明(エムシ)、湯浅直樹(スポーツアルペンク)、そして逆転を狙う皆川賢太郎(竹村総合設備)だ。17日(現地時間)にスイスで開催されるW杯ウェンゲン大会後に発表される見通しで、勝負の時が刻々と近づいている。

 代表が確実視されているのがエースの佐々木だ。今シーズンは開幕戦を除き、全て2回目に進出している。第2戦は16位、第3戦は15位と上々の滑りを見せてきた。第3戦は21位だったものの、途中体勢が大きく崩れながらも完走した。昨年新たに挑戦したフリースタイルスキークロスで座骨を痛め、調整に出遅れたことを考えれば、十分に善戦していると言っていい。あとはどこまで自身の滑りを取り戻すことができるかだ。

 さらに佐々木にはもう一つ使命がある。17日のウェンゲン大会で結果を残し、日本人選手が国際スキー連盟(FIS)ランキング30位以内に入れば、日本代表の枠が一つ増える。その最も高い可能性を秘めているのが佐々木だ。同会場は06年に彼がW杯自己最高の2位に輝いた場所でもある。思い出の地を五輪への足がかりにしたい。

 一方、4大会連続、上村愛子との夫婦揃っての出場を狙う皆川はまさに崖っぷちだ。過去に負った両ヒザのケガの影響で近年はまともに滑ることができていない。そんな状況下でも、皆川は新しいチャレンジを恐れない。彼の長所は旗門部分でのターン。少しでもロスを減らすため、小さく鋭いターンを追求している。これを完璧にマスターすれば、五輪表彰台が見えてくる。

 板にも工夫が凝らされている。鋭角なターンをするにはしなりやねじれの復元時間が短い方がいい。そこで皆川は通常の板の約2倍硬いオリジナルの高反発スキーを使用している。開発に約2年かけるという力の入れようで、バンクーバーに賭ける強い思いが道具へのこだわりにも表れている。

 4年前のトリノでは4位入賞。悲願の表彰台まで0.03秒、距離にして約38センチの差でメダルを逃がした。アルペンでのメダルといえば1956年コルチナダンペッツォ大会・男子回転銀メダルの猪谷千春氏まで遡らなければならない。それどころか日本人のアルペン競技入賞も猪谷氏以来50年ぶりの快挙だったのだ。

 トリノでのレース直後、「メダルは欲しかった。悔しい気持ちとうれしい気持ちが両方ある。もっとリスクを背負っていい個所があった」と語った皆川。38センチの悔しさを知る男の4年越しのリベンジ物語を見たい。


ウインタースポーツもスカパーはもりだくさん!
アルペンスキー、フリースタイルスキー、フィギュアスケートなどを連日放送!


【主な放送予定】 放送はすべてJ SPORTS

 全米フィギュアスケート選手権2010(アメリカ/スポケーン)
1月17日(日) 27:25〜(生中継) 男子フリー
1月24日(日) 08:55〜(生中継) 女子フリー

 ISU欧州フィギュアスケート選手権2010(エストニア/タリン)
1月21日(木) 25:35〜(生中継) 男子フリー
1月23日(木) 20:20〜(生中継) 女子フリー

 男子アルペンスキー FIS W杯 09/10(オーストリア/キッツビューエル)
1月22日(金) 19:20〜(生中継)
1月23日(土) 19:20〜(生中継)
1月24日(日) 18:20〜(生中継)

 男子アルペンスキー FIS W杯 09/10(オーストリア/シュラドミング)
1月26日(火) 25:35〜(生中継)

 ISU四大陸フィギュアスケート選手権2010(韓国/全州)
1月29日(金) 14:00〜(生中継)

 フリースタイルスキーFIS W杯 09/10 男女モーグル(アメリカ/ディアバレー)
1月29日(金) 20:00〜(録画)

 男子アルペンスキー FIS W杯 09/10(スロベニア/クラニスカ・ゴラ)
1月30日(土) 17:35〜(生中継)
1月31日(日) 17:35〜(生中継)

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
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