野球賭博に深く関与した大嶽親方(元関脇・貴闘力)と大関・琴光喜は「解雇以上」、時津風親方(元幕内・時津海)は「降格以上」――。特別調査委員会の処分勧告受け入れと引き換えに日本相撲協会は名古屋場所の開催を決定した。
 これには賛否両論あるようだが、場所を潰すと反社会的勢力の影響を受けてのものになる。年6場所制になって52年、これまで1場所も中止になったことはない。長い歴史が反社会的勢力に歪められていいものか。

 加えていえば野球賭博に関与した親方や力士が、その責めを負うのは当然として、相撲には何の罪もない。年に1度の大相撲を楽しみにしている東海地方のファンもいる。それを無にするようなことがあってはならない。

 余談だが祖母は大の相撲ファンで年90日、星取表とにらめっこしながら茶の間での観戦を楽しみにしていた。まだ白黒テレビの画面に大鵬や柏戸が躍動していた頃のことだ。祖母は亡くなる前日まで相撲を観ていた。もし、この世に相撲がなかったら彼女の人生は少しだけ乾いたものになっていたかもしれない。NHKには全国にこういうファンがいることも忘れないでもらいたい。

 しかし、だからといってもう調査を打ち止めにせよと言っているわけではない。むしろ、その逆だ。賭博汚染の地下茎はいったいどこまで広がっているのか。徹底的に調査し、根を断つべきだ。
 反社会的勢力はなぜ力士に近づくのか。それは相撲界のインサイダー情報が欲しいからである。それがどこに行きつくかについては言及を避けるが、内部の人間でなければわからない情報が手に入れば胴元にとってこれほど有利なことはない。

 端的にいえば「野球賭博」は、「相撲賭博」への入り口に過ぎないのだ。「もし、野球賭博が力士たちの間に蔓延していなければ、私も相撲賭博とかかわりをもたなくてすんだかもしれない」。こんな衝撃的な告白を自著で行っている元力士もいる。果たして特別調査委員会は、そこまで踏み込めるのか。

 最後にひとつ提案を。天皇賜杯の下賜と内閣総理大臣杯の授与を今回に限っては見送るべきだ。表彰式で優勝力士が寂しげに立ち尽くす姿を見て何も感じなかったら、その時こそ相撲界は終わりである。

<この原稿は10年6月30日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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