今年もまたラガーマンたちの季節がやってきた。3日にはラグビーのトップリーグが開幕。12日からは関東大学の対抗戦、リーグ戦がそろって始まった。9月の声を聞いたとはいえ、歴史的な猛暑の名残が、まだピッチ上には残っている。選手たちにとっては過酷な条件下でのシーズンインと言えるだろう。

 今季はニュージーランドW杯への選考会

 しかし、彼らには例年以上に熱いプレーを見せなくてはならない理由がある。それは来年9月に迫ったラグビーW杯ニュージーランド大会だ。この5月、日本はW杯アジア地区最終予選を兼ねたHSBCアジア5カ国対抗で優勝し、7大会連続の本戦出場を決めた。ニュージーランドで掲げる目標は過去最高の2勝以上。グループリーグでは地元のニュージーランドをはじめ、フランス、トンガ、カナダと対戦する。最新のIRBランキング(9月6日現在)だと、日本は13位でカナダ(14位)、トンガ(16位)を上回る。決してラクな組み合わせではないものの、目標達成が困難なグループでもない。9年後に迫ったW杯の日本開催に向け、少しでも成果をあげたいところである。

 本番で代表が好成績を残せるかどうかは、ひとえに国内のラグビーがどれだけレベルアップするかにかかっている。選手たちにとっては1試合、1試合がジャパンのジャージを賭けた選考会だといっていいだろう。それだけにトップリーグ、大学ラグビーともに好内容のゲームが多く観られるはずだ。

 大学ラグビーでは、昨季、新たな歴史の1ページが開かれた。大学選手権で帝京大が創部40年目にして悲願の初優勝を果たしたのだ。これで大学日本一になったのは史上9校目。準優勝の東海大も初の決勝進出で、かつては早稲田大、明治大が軸となって発展してきた大学ラグビーは、まさに群雄割拠の時代に突入した。

 最後の最後にラグビーのおもしろさを表現

 昨季の大学選手権決勝はラストワンプレーまで手に汗握る熱戦だった。
 今年1月10日、東京・国立競技場。7対7で迎えた後半11分、均衡を破ったのは東海大だった。豊島翔平がPGを決め3点のリード、豊島は20分にもPGを決め、13対7と点差を広げた。しかし、ここから帝京大は本領を発揮する。26分、モールを押し込み、右サイドを抜けた吉田光治郎がインゴールに飛び込んだ。コンバージョンも決めて14対13と逆転。

 だが流れを引き寄せるまでには至らない。東海大も関東大学リーグ戦王者の意地を発揮する。後半39分、モールで帝京大を圧倒した。帝京大にとっては下がればトライ、反則を犯せばPG。絶体絶命の場面だ。両手を合わせて神にも祈りたくなるような場面を、しかし帝京大の岩出雅之監督は楽しんでいた。
「“もう1回、来たかよ”という感じでしたね。僕、あの場面で笑っているはずですよ」
 意外なセリフを岩出は口にした。

「まさに今シーズンで一番の集中力を発揮する場面。学生の成長の跡が見られる場面でもあるわけです。それをスタンドから楽しもうと。だから“ピンチだな”とは思わなかった。“大きなヤマ場が来たかな”という感じでした。信じる力というのかな、学生を信じていたので何も慌てなかった。
 むしろ最後の最後にああいうシーンが来てラグビーのおもしろさを最高のかたちで表現することができたと思うんです。その意味では最高の締めだったんじゃないでしょうか」

 昨季のチームを超える

 王座を奪取することよりも、防衛することのほうがもっと難しい――。プロボクシングの世界の住人たちが、しばしば口にするセリフだ。それは、どのスポーツにおいても当てはまる。
 追う立場から追われる立場へ――。帝京大学ラグビー部にとって、これは初めての経験である。
「V2は全く意識していません」
 岩出は機先を制するように言い、続けた。
「もし越えなければいけないチームがあるとすれば、それは昨年のチーム。2009年のチームにチャレンジさせる。追いつき、追い越せ。その作業の中で、どれだけの進化を果たすことができるか……」

 帝京大の武器といえば強力なFW陣だが、それは今季も健在である。ニュージーランドからの留学生ティモシー・ボンド(3年)は大学日本一の立役者のひとり。常に接点の中心にいて、難局の打開に体を張り続けた。既にフル代表の予備軍にあたるA代表入りを果たしており、近い将来、日本を牽引する存在になるかもしれない。

「ニュージーランドの代表になりたかったんですけど、年齢を考えると、代表に選ばれる可能性は少ない。日本でチャンスがあるのであれば、そちらで頑張りたい」
 憧れの選手はオールブラックス最多出場記録を誇るショーン・フィッツパトリックだ。
「見習いたいのは彼の自信と風格。彼はどんな局面でも決して諦めず、最後まで戦い抜いた。本当のリーダーシップとは何かを教わりました」
 
 “化ける”学生に注目!

 対抗戦で帝京大のライバルとなるのは対抗戦連覇を狙う早大か。夏合宿の練習試合ではスピードで帝京大を圧倒し、勝利した。両者が激突する11月3日(秩父宮)の試合は激戦となるだろう。また明大も12日の開幕戦で8トライをあげて大勝し、伝統の重戦車が復活の兆しをみせている。タックルが鋭く堅いDFの慶應大も侮れない。

 学生スポーツは社会人やプロとは違い、どんなに実力があっても最終学年が終われば、ユニホームを後輩に譲らなくてはならない。それゆえに勝ち続けることは至難の業である。しかし、上級生が抜け、ポジションが空くからこそ、代わりに入った下級生が実戦の中で見違えるほど“化ける”ことがある。それが学生スポーツを観る醍醐味だ。今季は対抗戦を全試合、キックオフからノーサイドまで「スカパー!」でチェックできる。観戦の楽しみは増した。

「V2よりも学生の成長が楽しみですね。いいプロセスを経ながら、今年も最後は笑いたい。ちょっと欲張りですけど」
 岩出はそう笑顔をみせた。V1を達成した時も、こみあげる感情が抑えきれなくなったのはノーサイドの瞬間ではなく、試合後の祝勝会場だったという。
「ウイングのひとりが最後の最後にいいプレーをしたんですね。その学生、入部した頃はやんちゃで、彼の母親と電話で話をしたこともありました。ところが、この1年でまるで別人のように成長したんです。練習も誰かに見られているからというわけではなく、ひたむきに取り組んでいた。祝勝会で、その子の両親と話をしているうちに、お互いにこれまでのことを思い出しちゃって……」

 指揮官を嬉し泣きさせるような教え子たちがシーズン中、何人出てくるのか。それが大学日本一の行方を左右するのかもしれない。

今季はJ SPORTSとスカチャンで関東大学対抗戦全28試合を放送!!
大学生の熱き闘いから目が離せない!!



【9月の放送予定】

9月19日(日)14:50〜 明治大 × 筑波大 スカチャン(生中継)
9月19日(日)25:00〜 帝京大 × 立教大 スカチャン
9月25日(土)19:00〜 慶應義塾大 × 日本体育大  J SPORTS1
9月25日(土)21:00〜 早稲田大 × 成蹊大 J SPORTS1
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※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
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