過去、中日の監督を最も長く務めたのは、来季から東北楽天の指揮を執ることが確実視されている星野仙一の11年。その間、2度リーグ優勝を果たしている。星野は2003年、阪神でもセ・リーグ王者になった。だが、日本一は1度もない。

 中日における2番目の長期政権となっているのが、今季、就任後3度目のリーグ優勝を果たした落合博満の7年。3年前には日本一を達成している。Bクラスに転落したことは一度もない。戦果だけみれば、落合は大変な名将である。
 地元テレビ局のインタビューで「尾張、三河が生んだ3英傑、織田信長、羽柴秀吉、徳川家康のなかで落合さんが目指すとすれば?」と訊かれ、「3人全部合わせたような存在かな」と涼しい顔で答えていた。
 現役時代、「狙っているタイトルは?」と訊かれると、決まって「3つ全部(首位打者、本塁打王、打点王)獲っていくよ」とハンで押したように答えたことを思い出した。今も昔も有言実行の男である。
 リーグ優勝を決めた直後のインタビューも落合らしかった。
「勝てたのは積み上げてきた練習量の差。今年は暑い夏で、よそはへばってくるが(中日は)鍛え上げている。7年間チームづくりをした、その結果が9月にうまく出た」
 他球団の監督が聞けば、歯がみするような発言だ。

 周知のように落合は現役引退後、1度もコーチを経験することなく監督に就任した。
 スポーツ界には「名選手、名伯楽に非ず」という箴言がある。史上最多となる三冠王3度の実績はダテではない。しかし、だからといって監督として成功する保証はどこにもない。
「“オレ流”では選手がついてこないのではないか?」
 ネット裏には、こんな声が充満していた。
 しかし、それも杞憂に終わった。主砲の和田一浩などは“落合理論”に心酔している。
「(08年に中日に移籍して落合監督の指示で)まずオープンスタンスをスクエアに近いスタンスに変えました。開いていた足を元に戻そうとすると体重移動が大きくなる。その時間が無駄だと。
 狙い球については、とにかく真っすぐを打ちにいけと。変化球はキャッチャーミットにおさまるまでに時間がかかる。自分の中で時間がつくれるから対応ができるんだと。しかし真っすぐはそういうわけにはいかない。
 西武時代にバッティングの基礎については身につけていたと思っていた。しかし落合さんと出会って体の使い方、仕組みを含め、もっと踏み込んだ部分について教えてもらった。もうひとつ上のランクの野球があることを知りました」

 知将・野村克也がユニホームを脱いで以降、こと野球の本質を知悉している指揮官といえば落合が一番だろう。
 ノムさんの“ボヤキ”のような愛嬌があれば、もっと人気が出ると思うのだが……。

<この原稿は2010年10月31日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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