マイアミ・ヒートが苦戦している。
レブロン・ジェームス、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュという豪華スターが集結したことで、今季はヒートが圧倒的な強さを発揮して勝ち進むと考えたものは決して少なくなかった。
 ニックスなどを率いた元名コーチのジェフ・バン・ガンディ氏をして、開幕前には「ヒートは1996年にマイケル・ジョーダン率いるブルズがマークしたシーズン72勝の記録を破るかもしれない」と予想したくらい。「スリーキングス」誕生のインパクトはそれほどに大きく、前評判は全米を揺るがすほどに高かったのだ。
(写真:開幕前は日米の多くのメディアがヒートにスポットライトを当てたのだが……)
しかし最初の17戦を終えた時点で、ヒートは9勝8敗。その後の2戦こそ連勝したものの、12月1日時点でイースタンカンファレンスのサウスイースト地区3位に甘んじている。「開幕直後から独走態勢へ」という地元ファンの淡い期待は、すでにもろくも消し飛んでしまった。

「僕たちは楽しんでプレーできていない」
11月22日のペイサーズ戦後にはレブロンが公にそう語ったように、迷走を続けるヒートからは早くも不協和音が飛び出し始めている。
特に11月11日のセルティックス戦後にはプレー時間の長さに不満を漏らしたり、開幕直後にはポイントガードとして起用されることに難色を示したり、レブロンのフラストレーションはかなり高まっている様子。今週にはエリック・スポエストラHCとの確執も取沙汰され始めた。おかげで「好きこのんで移籍しておきながら不平不満ばかり」とレブロンは再び揶揄され、今夏のキャブスからのFA騒ぎで一気に増やしたアンチファンを喜ばせてしまっている。

 ビッグマンの層が薄いこと、脇役の中で鍵を握る存在とみなされたマイク・ミラー、アドニス・ハスレムが故障離脱していることなど、ヒート不振の原因は複数指摘できる。だが中でも最大のポイントは、やはりチーム内のケミストリー不在に尽きるのだろう。
(写真:ドウェイン・ウェイドの出遅れもスロースタートの要因となっている)

ヒートの試合をしばらく眺めていれば、パスワークがスムーズでないことは一目瞭然。攻撃は個人プレーのオンパレードで、バスケットボールの醍醐味であるチームプレーのカタルシスはゼロ。おかげでこれだけスター揃いにも関わらず、試合が面白みに欠けるという無惨な事態になってしまっている。

特にレブロンとウェイドの噛み合いの悪さは顕著。片方がボールを持っている際にはもうひとりは突っ立ったまま見守り、そのパターンを順番に繰り返しているような状況だ。某チームのスカウトは「レブロンが出ているときはウェイドをベンチに下げ、ウェイドを使うときはレブロンを下げたほうが遥かに上質な攻撃が展開できるはず」と語っていたが、それも納得できるというものである。

実際にこの2人の個人成績は昨季と比べてそれぞれ低下している(レブロン/得点29,7→23,7点、FG成功率50%→44%)、ウェイド/26,6→21,6点、47%→44%)。得点の分け合いは予想されていた一方で、FG成功率が大きく下がっている事実こそが2人の間のケミストリー不在を物語っていると言ってよい。

ただ……それでもシーズンはまだ4分の1も終わっていない段階。建て直す時間は十分にあるのも事実である。
ヒートのゲームを見ていると、依然として手探りでプレーしている印象を受ける。プレシーズン初戦でウェイドが故障したため、開幕前にフルメンバーでの実戦準備をほとんど積めなかったことも忘れるべきではない。だとすれば、ヒートにとってシーズン序盤は未だ夏季キャンプの最中にいるも同然なのだろう。

「レブロンとウェイドはお互いに助け合うことはできないよ。彼らは似たタイプの選手たちだ。シューターのレイ・アレンとスモールフォワードのポール・ピアースがセルティックスでうまく一緒にやり遂げたのとはわけが違う」
ピストンズのトレーシー・マッグレディのそんな意見に代表されるように、ヒートのチーム構成には根本的に問題があると考える声は根強い。
(写真:3チームで最優秀監督賞に輝いた名将、パット・ライリーがHCに復帰するのではという憶測は消えない)

確かに最高のハマり具合をみせたセルティックスの“ビッグスリー”と比べ、ボール保持型のレブロンとウェイドが噛み合い難いタイプであることは確かなのだろう。さらに第3の男・ボッシュにしても、同じくボールを持つ必要がある選手である。そんなヒートの“スリーキングス”のケミストリー養成が、非常に難しい作業であることはもう疑いの余地はない。

しかし……そもそもそんなユニークなトリオであるがゆえに、今季のヒートは史上稀に見る注目を集めたのではなかったか。
「それぞれ卓越した個人技を持つ3人が集まり、ケミストリーを奏でたら、かつてないほど鮮やかなショウを見せられるのではないか」
そんな夢のある青写真が、このチームの基本コンセプトの1つだったはず(注/筆者も含む多くのファンや関係者はその考え方に未だ落胆し続けているのではあるが、ただ、このチームの是非論はまた別の機会に)。蓋を明けてみれば、それは簡単な作業ではなかった。“ショウタイム”の開始は延期を余儀なくされてきた。しかし予想を大きく裏切る迷走スタートを切ったがゆえ、逆に今後がさらに興味深くなったとも言える。

筆者も参加した某雑誌用のNBA開幕プレヴュー座談会で、「ESPN.COM」のクリス・シェリダン記者がこんな話をしていたのも思い出される。
 「11〜12月のヒートと3〜4月のヒートは様々な意味で別のチームになっているはず。その変化はいくつかの敗北とともにもたらされることになる」
これから先、ヒートはまだまだ迷走を続け、全米に群生するアンチ・ヒートたちを喜ばせていくのか。それともレブロンやウェイドが敗北の中からも多くを学び、精神的な意味でも成長し、徐々にケミストリーを養成していくのか。
(写真:3連覇を目指すコービー・ブライアント擁するレイカーズに挑める位置までヒートはたどり着けるか)

歴史に残る挑戦は失敗に終わるか、それともマイアミの地で一大パーティが間もなく開始されるのか、答えは分からない。
だが、嫌が応にも興味は惹き付けられる。2010〜11年シーズンが始まったとき、ファンも、アンチも、誰もがこのチームの動向に注目せずにはいられなかった。そしてヒートがスロースタートを切った後でも……。その部分だけは決して変わらぬままなのである。

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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