二宮: 今日は焼酎を飲みながらゆっくりとお話をお伺いしたいと思っています。
杉山: はい、よろしくお願いします。私、焼酎は好きで、父ともよく飲むんですよ。でも、そば焼酎は初めてなので、どんな味なのかとても楽しみです。


二宮: 「那由多(なゆた)の刻(とき)」はすごく香りがいいんですよ。
杉山: あ、本当ですね。なんだかブランデーみたい。美味しい!

二宮: なるほど。言われてみれば、ブランデーみたいですね。香りで楽しめるお酒ですね。ところで杉山さんは普段、どんなお酒を飲まれるんですか?
杉山: まずは最初にビールという感じで、あとはお料理に合わせて選んだりします。フレンチやイタリアンだったらワインですし、和食だと焼酎が合いますよね。

 お酒はいい気分転換

二宮: 現役時代もお酒を飲まれることはありましたか?
杉山: そうですね。年に一度、オフには友人たちとお酒を飲みながら語り明かしていました。その時はもう、思いっきりはじけるんです。

二宮: ツアー中は海外生活が続くわけですが、どういった時にお酒を飲まれていましたか?
杉山: そうですねぇ、ツアー中は飲まないのですが、普段は気が張って眠れない時や、ちょっとリラックスしたいなという時にワングラス飲むということもありましたね。

二宮: 試合で悔しい負け方をした時なんかは、飲みたくなるでしょうね。
杉山: そういう気持ちになることはありましたね。もう、悔しくて「こんな時、お酒でもクッと飲んで寝てしまいたい!」と。特にシーズン終盤になると、お酒の力を借りて、さっぱりしたいと思うことはよくありました。

二宮: 優勝した時には祝杯をあげたりするでしょう。
杉山: 表彰式でシャンパンをいただくこともあったので、次の会場に移動した後にみんなで祝勝会をやることもありましたね。

二宮: 引退された今は、お酒を飲まれる機会も増えたのでは?
杉山: はい、もともと好きなので結構飲んでいますね。量はそれほどではありませんが、晩酌程度に週5日は飲んでいると思います。

二宮: ご家族も飲まれるんですか?
杉山: はい、飲みますよ。母と妹は1、2杯ですけど、父と私は結構いける口なんです。

二宮: お酒の一番のいいところは?
杉山: 気持ちがおおらかになって、解放感を味わうことができます。特に、これまで普段はグッと自分をコントロールする仕事でしたので、その中で気持ちを緩めることも必要だったと思うんです。いつもいつも頑張っていては、息が詰まってしまいますから。抜く時は抜くというふうに切り替えが大事。そういう意味では、お酒はいい気分転換になっていたと思います。でも、時には呂律がまわらなくなったりすることもあるんです(笑)。自分でもわかるんですよ。「あ、口がまわってない」って。でも、そういうのも年に一度のことでしたし、それほどリラックスできているということだと思います。

 テニスはもう、お腹いっぱい!

二宮: 引退されてからもテレビに出演されるなど、忙しくされているようですね。なかなか休みもとれないのでは?
杉山: 本当は引退したら、ガッツリと休もうと思っていたんです。半年くらい何もせずに、これからのことをじっくりと考えてみようと。ですから、今の状態は予想外でしたね。ただ、これまでとは全く違う分野のお仕事なので、新鮮で面白いんです。自分が考えていたこととは違うことが起きている状態ですけど、「予想外の展開も素敵かな」って。時の流れに身を任せる時期があってもいいんじゃないかと。その中で「これだ」と思えるものを見つけていこうと思っています。

二宮: いろいろとやっていく中で、取捨選択していくと。
杉山: はい。これまでテニスという世界で大きな目標を追いかけ続けてきました。そのステージが一つ終わった今、また追いかけたいと思える夢を焦らずに、じっくりと時間をかけて見つけていきたいんです。

二宮: 早くに引退した伊達公子さんは今、また現役に戻って活躍されています。でも、杉山さんは「もうお腹いっぱいだから、現役復帰はない」とおっしゃっていましたね。
杉山: そうですね。昨年、現役を引退したわけですが、今でもあそこで辞めたのはベストだったな、と思えるんです。あれが少しでも早ければ未練が残ったかもしれませんし、逆に遅かったらボロボロになっていたかもしれません。「もうこれ以上できない」というところで終えることができたので、やり残したことはないんです。

二宮: 引退の時期というのは人それぞれですよね。全盛期でパッと辞める人もいれば、ボロボロになっても、まだ続ける人もいる。
杉山: アスリートって「結果が全て」と言われているし、それを求めて戦っているはずなのに、順位やメダルの色だけで満足できるものではないんですよね。例えば、あっさりとれてしまった金メダルよりも、自分がしっかりと努力してきたうえでとれた銀メダルの方が嬉しかったりするんです。結果以上にプロセスに価値ややりがいを見出す選手は少なくないと思います。

二宮: その代表例が有森裕子さんですよね。彼女は初出場で獲得したバルセロナの銀メダルよりも、苦労の末につかんだアトランタでの銅メダルの方に思い入れが強い。「自分で自分を褒めてあげたい」という名言が出たほどですから。
杉山: まさに、そういうことですよね。結局は、その選手にしかわからないものなんですよ。私自身はテニスに関しては、本当にもうお腹がいっぱい(笑)。よく「17年間はあっという間でしたか?」という質問を受けるのですが、私にとっては決してあっという間ではなかった。いろいろとありましたから……。第一線から離れて外側から見る立場になった今、「よくこんな生活を17年間もやってこれたな」と思うんですよ。それだけ丈夫な体であったことにも感謝したいですし、サポートしてくれた周囲がいたからこそできたこと。今、戻れと言われてももう無理ですね。

二宮: 17年間のテニス人生の中でも、やはりウィンブルドンのセンターコートでの試合は、特別思い入れが強いのでは?
杉山: 私にとってウィンブルドンは特別ですね。幼少時代からの憧れの地で、家に貼ってあったポスターやテレビで見ては「いつか自分もここに立ちたい」と思いながらやってきましたので。もちろん他のグランドスラムも歴史があるし、タイトルとしても素晴らしいのですが、ウィンブルドンには他にはない神聖な空気が流れているんです。そこで勝つことが、私の最大の夢でした。

二宮: グランドスラムでは唯一の芝のサーフェスですからね。
杉山: 特にセンターコートの芝はフカフカの絨毯のようで気持ちがいいんです。あの芝の上を歩いていると、いつもよりもテンションが上がりましたね。勝ちたいという気持ちもそうですけど、とにかくこんな最高の場所でできるんだから、自分の力を出し切りたいと思ってやっていました。2004年にはマリア・シャラポワ(ロシア)と、06年にはマルチナ・ヒンギス(スイス)と対戦しました。既に01年にダブルスでは経験していたのですが、やはりシングルスでの試合の方が印象深いですね。

 自分を騙し切ることが大事

二宮: 緊迫したゲームを何度も経験されたと思いますが、メンタルトレーニングに呼吸を用いていたとか。
杉山: そうなんです。ツアーを終えて帰国すると、本屋によく行っていたんです。特に何を買うか決めず、いろいろと見ていくうちに、欲しい本を手にするという感じなんですけど。そうすると、その時の精神状態が本の種類によってわかるんですね。例えば、心身ともに疲れきっている時は、癒し系の本が多いですし、何か一つステップアップしたいなという向上心がある時には、自己啓発本だったりするんです。
 そんな中で呼吸法と出合ったのは、確か20代半ばだったと思います。医学博士の塩谷信男さんの『自在力』という本に書かれてある正心調息法です。塩谷先生自身が提唱されている呼吸法なんですけど、その本に書かれてあったものが、自分の中でコトンと落ちたんです。

二宮: 実際、どのようにやるんですか?
杉山: 体の表面というよりも、ちょうど体の真ん中の臍下丹田を意識して、鼻から息を深く吸い込むんです。普段は浅くしか呼吸していないので、最初はなかなかうまくできないんですけど、何回かやっていくうちに、うまく肺の奥深くまで空気をいきわたらせることができるんです。大きく吸い込んだら、苦しくならない程度に少し息を止めます。ちょっとお尻の穴を閉める感じで、臍下丹田にグッと空気をためるんです。その時にいいイメージを思い描く。例えば、うまくプレーしている姿だったり、緊張せずにうまくスピーチしている場面だったり……。そして、今度は疲れや緊張といった毒素を体外に出すイメージで鼻から大きく息を吐き出します。最後は願い事が既に叶ったかのように、「よし、自分はうまくできた」というふうに過去完了形で思い込むんです。つまり、いいエネルギーを体全体にいきわたらせ、逆に毒素を体外に吐き出す。これが塩谷先生のおっしゃっている呼吸法なんです。

二宮: 呼吸を整えるだけでなく、メンタルトレーニングにもなっているわけですね。
杉山: はい。メンタルトレーニングというのは、ある意味、自分をどれだけ騙し切るかというところだと思うんです。それを呼吸を用いて自分に信じこませるというわけです。

二宮: 回数はどのくらい?
杉山: 1回やると、やはり少し息苦しくなるので、普通の呼吸を1、2回して息を整えます。そしてまた大きな呼吸をする。その繰り返しなんですけど、現役時代は25回やっていました。今では朝、夜、それぞれ10回程度やっています。

二宮: なるほど。確かに細胞が生き返る感じがしますね。
杉山: そうそう、そういうイメージが大切なんです。酸素がいきわたって、体全体にエネルギーがわいてくる、みたいな。

二宮: この呼吸法によって、うまくいった例はありますか?
杉山: 私にとってベストシーズンは03年だったのですが、その年、年間獲得ポイントの世界トップ8が出場できるチャンピオンシップスWTAツアー選手権の出場権をかけてヴィーナス・ウィリアムス(米国)と争っていたんです。残り2大会で優勝とベスト8以上であれば、私の出場が決まるという厳しい条件ではあったのですが、大会に入る前からずっとこの呼吸法をやっていました。そしたら、まず1つ目のジェネラリ・レディースで優勝して、次のアドバンタ選手権でもベスト4に入ったんです。もう、とにかく優勝して自分がチャンピオンシップスに出場すると信じ切ってやっていたので、その効果が出たんだと思います。

 衝撃を受けたイチローのプロ意識

二宮: 人間にとって酸素は大事だということはわかっていますけど、日常ではあまり意識して呼吸することはないですからね。
杉山: そうなんですよ。当たり前に酸素を吸っていますけど、それによって前向きになれたり健康になれたりするんですよね。この呼吸法に出合って、当たり前のことをきちんとやるって意外と大切なんだなってわかったんです。

二宮: 当たり前のことの方が忘れてしまいがちですからね。
杉山: そうですね。テレビのコマーシャルでイチローくんに憧れている野球少年が「イチローって何やってるのかな?」ってお父さんに聞くと、「普通のことをちゃんとやっているんじゃないかな」って答えるのがあるんですね。とても好きなんですけど、「本当にそうだなぁ」と思いますね。

二宮: 彼ほど日常生活がきちんとした選手は少ないですよね。
杉山: まだイチローくんがオリックスにいた時、一度、ヤワラちゃん(当時、田村亮子)や(松岡)修造くんなんかと集まってテニスをしたことがあるんです。もちろん、遊びでやったんですけど、イチローくんはウォーミングアップを入念にやっていたんですよ。そんなプロフェッショナルな方に会ったことがなかったので、すごくビックリしたことを覚えています。彼は「遊びだからこそ、ケガをしたくない」と言っていたんですね。全くその通りだな、と思いました。

二宮: 彼って本当は体が硬いんですよね。プロに入ったばかりの頃、「こんな硬い筋肉の選手は伸びない」と言われたくらいなんです。だからこそ、彼はストレッチを欠かさない。
杉山: 実は私も信じられないほど、股間節や肩の関節が硬いんです。赤ちゃんの頃、母が医者から「この子は股間節があまり柔らかくないから、オムツを替える時にストレッチをしてあげてくださいね」って言われたそうなんです。

二宮: よく天賦の資質っていいますけど、実は皆さん、人の知らないところで大変な努力をして弱点を克服しているんですよね。
杉山: 本当にそうですよね。私は肩の関節が硬いために後ろから腕が出ずに、どうしても横からになってしまうので、サーブを武器にすることができなかったんです。もし、もっと肩の関節が柔らかかったら、時速200キロのサーブが打てて、ナンバーワンになれていましたよ(笑)。なんて、それは冗談ですけど。でも、みんな完璧ではないんですよね。工夫したり、改善しようと努力したり……。そういったプロセスをアスリートは楽しんでいるんだと思います。

(後編に続く)

<杉山愛(すぎやま・あい)プロフィール>
1975年7月5日、横浜市生まれ。4歳でテニスを始め、15歳で日本人初のジュニア世界ランク1位となる。92年、17歳でプロに転向。97年のジャパンオープンでツアー初優勝を果たした。99年の全米オープンでは混合ダブルスで優勝。さらに女子ダブルスでは2000年全米、03年全仏、ウィンブルドンを制した。00年にダブルスの世界ランク1位となり、03年にはシングルスで自己最高の8位に入る。ツアー通算成績はシングルス6勝、ダブルスは日本人最多の38勝。4大大会62連続出場はギネス認定の世界記録となっている。







★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。国際的な品評会「モンドセレクション」2010年最高金賞(GRAND GOLD MEDAL)受賞。

提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
銀座 羅豚 はなれ
東京都中央区銀座8−10−8 銀座8丁目10番ビル1階
TEL:03-6808-1555
営業時間:
ランチ  11:30〜15:00(月〜日)
ディナー 17:00〜23:30(月〜金)、16:00〜22:00(土、日、祝日)

☆プレゼント☆
杉山愛さんの直筆サイン色紙を長期貯蔵本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」(720ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「杉山さんのサイン色紙希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、杉山愛さんと楽しんだお酒の名前は?


 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:斎藤寿子)
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