灼熱のカタールと冬のオーストラリア。選手であれば、どちらでプレーすることを望むのかは一目瞭然である。にもかかわらず、W杯開催地を決定するうえで、実際にプレーする者たちの意向が反映された気配はまるでなかった。
 選手がいなければなりたたないはずの大会が、こんなにも選手不在のまま決定されてしまっていいのか――そう憤慨していたら、さすがに選手の立場を慮る意見が聞こえてきた。開催時期を冬に移行したらどうかというフランツ・ベッケンバウアー氏の意見である。

 ドイツ紙ビルトによれば、ベッケンバウアー氏は「選手や観客が猛暑に苦しめられる夏と違い、1〜2月のカタールは、気温25度前後と非常に過ごしやすい。わたしは、これがスタジアムを冷却するために必要とされる費用を節約できる有効な代替案だと思っている。欧州の主要リーグは、この時期シーズン中であるが、日程を変更できない理由は特にないはずだ」と述べている。さすが、といわざるを得ない。

 氏のいう通り、欧州の主要リーグが日程を変更“できない”理由は特にあるまい。だが、シーズンを途中で中断してしまうことに対するアレルギー反応が皆無のはずもない。他の主要リーグに比べて冬季中断期間の長いドイツだから言えるのだ、という反発もあるだろう。ただ、発言の根底にあるのが選手やサッカーの質に対する思いであることも間違いない。今後、氏の提案は大きな論争を巻き起こすことが予想される。

 論争といえば、日本では代表の賃上げなどを巡る協会と選手会の対立がニュースになっている。「文句を言われる筋合いはない」という小倉純二会長の言葉はいささか行き過ぎとしても、個人的にはあまりにも「?」の多い論争である。

 そもそも、選手会とは誰のために存在する組織なのか。そして、代表選手とは、選手会に所属する選手たちの何%にあたる存在なのか。そのことを考えると、選手会が協会に突きつけたとされる要求が、選手会の総意によるものとはとても思えない。仮に要求が全面的に認められたところで、大多数の選手には関係のない話だからだ。

 負傷の保証がなされていない点や、アマチュアから代表に選ばれた場合の扱いなど、確かに現行の代表チームには改善すべき点がいくつかある。だが、代表で得た利益を全ての選手にもっと還元すべきだ、という論理ならばともかく、代表選手のみが潤う提案を、日本のプロサッカー選手は本当に望んでいるのだろうか。選手会がやるべきことは、もっと他にある、とわたしは思うのだが。

<この原稿は10年12月23日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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