大亀スポーツ振興財団では毎年、スポーツで優秀な成績を収めた愛媛県出身選手や、スポーツ界に貢献した県内の個人、団体を表彰している。10回目を迎えた今年度も1組の親子と5名の個人、1団体の受賞が決まり、9日に表彰式が行われた。国際レベルでの活躍をした選手、またはその指導者に送られるスポーツ大賞に輝いた浅見三喜夫、八瑠奈親子ら、受賞者の横顔を紹介する。
(写真:大亀会長(前列中央)を囲んで受賞者の記念撮影)
 昨年の柔道世界選手権、初出場ながら女子48キロ級を制し、一躍脚光を浴びたのが浅見八瑠奈選手(山梨学院大)だ。父・三喜夫さんも新田高で柔道部の監督を務め、伯父が伊予柔道会の師範という柔道一家である。八瑠奈選手は物心ついた頃から道場に通っていた。「努力を続ける才能がある」と父が評するように、メキメキと力をつけ、山梨学院大1年時に全日本ジュニアを優勝して初めて日本一になった。さらに、その後の講道館杯にも勝ってシニアの大会でも結果を残した。

 彼女の長所は「プレッシャーに強い」と自ら語るほどの精神力だ。国際大会にも強く、外国人相手には46連勝を収めたこともある。谷亮子選手が現役を去り、女子48キロ級は次のロンドン五輪に向け、激しい代表争いが繰り広げられている。五輪のプレシーズンとなる今年の戦いが重要になることは言うまでもない。同じ新田高出身では東海大の中矢力選手も男子73キロ級でグランドスラムを連勝し、五輪出場へ名乗りをあげた。27年前、三喜夫さんはロサンゼルス五輪の国内最終選考会を兼ねた全日本選抜体重別選手権で優勝しながら、五輪切符を得られなかった。その夢を娘と教え子が叶えるべく世界を転戦している。
(写真:表彰を受ける三喜夫さん(右、八瑠奈選手は海外遠征のため欠席))

 スポーツ選手やクラブの育成に携わり、青少年育成に貢献した指導者などを表彰する菜の花賞に選ばれたのは4名。まず1人目はソフトテニス指導者の宇野一行さんだ。1996年には総合型スポーツクラブの波方ジュニアクラブを設立し、全国大会選抜チームへ選手を送り出すとともに、自身も愛媛県代表の監督として参加してきた。クラブに通うのは現在、小学生30人、中学生22人。大勢の生徒を元世界チャンピオンの経歴を持つ女子コーチら11名の指導陣で支える。目標は6年後の愛媛国体の成功と上位入賞だ。

 2人目は陸上競技指導者の久保田幸一さんである。2000年から地元・三瓶で「早朝陸上教室」を開催。朝6時から45分間、約20人の子どもたちにつま先立ちやもも上げ歩行、垂直跳びといった基礎トレーニングを実施している。あえて早朝に教室を開くのは地域スポーツの振興、体力維持増進活動に携わる中で、「早寝、早起き、朝ごはん」の実践が最も効果的であるとの確信を得たからだ。「走ることはすべてのスポーツの基本。その基本を徹底することで、あらゆる種目に応用できる」。早朝教室から陸上のみならず、日本のトップアスリートが誕生することを心待ちにしたい。

 3人目はサッカー指導者の名本繁樹さんだ。愛媛でフットサルを普及させた第一人者と言っていい。きっかけは91年、サッカー解説のセルジオ越後さんを招いたサッカー教室。その指導法に感銘を受け、翌年にはセルジオ越後杯争奪川内サッカー大会を設立した。少人数で手軽にできるフットサルを広めた成果は、02年に地元の川内中が全国大会に出場したことにも表れている。指導のモットーは「楽しみながら基本的な技術力を身につける」。愛媛のサッカーといえば、世界王者のインテル・ミラノに移籍した長友佑都の活躍が光る。フットサルの世界でも“第2の長友”が誕生する日は近いかもしれない。

 最後の4人目はマスターズ陸上選手の正岡勇さんだ。年齢は91歳。陸上を始めたきっかけは70歳を過ぎた頃に患った緑内障である。視機能の回復を図ろうとジョギングをはじめ、75歳の時に健康マラソン大会で5キロを完走。「転倒せず、棄権せず、完走」を目標に定めながら走り続け、80歳になって全日本マスターズ陸上選手権に出場すると、200、400、800メートルの3種目で準優勝した。その後の5年間、各大会に参加しては延べ57回の優勝を収めている。その後、体調を崩し、競技を離れた時期もあったが、2年前から再開。昨年の全日本マスターズでは90歳以上のクラスで200メートルを制した。「何かを始めるのに遅いということはない。やればできる」と話す“鉄人”には本当に頭が下がる思いだ。

 地域に根ざしたスポーツ活動を続けている団体や個人に贈られるふるさとスポーツ賞には小田剣道会が選ばれた。内子町にある人口3000人ほどの小田地区では剣道が盛んに行われている。その拠点となっているのが小田剣道会だ。剣道会自体の練習は週2回だが、月2回の地域全体での合同稽古会には大人から子どもまで約100人が竹刀を振るう。また地区内にある3つの小学校にも指導者を派遣している。来年度から完全施行となる中学生の新学習指導要領では武道が必修化されることが決まった。指導者の確保は喫緊の課題だ。小田剣道会の試みは地域と連携した指導実践のモデルケースとしても評価されている。
(写真:表彰式には受賞者を含め、81名が出席した)

 また特別賞を受賞したのはブーメランの世界チャンピオン、近藤優子選手だ。ブーメラン競技では飛距離、正確さ、キャッチの3要素が問われ、大会では6つの種目を組み合わせて順位を決定する。近藤選手がブーメランと出会ったのは10年前。会社で先輩が遊んでいるのを見ているうちに、投げたブーメランがなぜ戻るのか不思議な魅力に取り付かれた。興味を持って調べたところ、国内競技会のみならず、世界大会まで存在することを知り、挑戦を決意する。

 昼休みや勤務後、休日を使って練習を続け、初出場した03年のジャパンカップでは個人総合7位に入賞。さらに翌年の世界大会では女子総合2位に入る。それから2年おきに実施される世界大会では2位が続いたものの、昨年6月、ローマでの世界大会で念願の初優勝。日本人初となる世界女王に輝いた。「まだまだ競技人口は少数ですが、これを機に少しでも多くの人が感心を持って、親しんでもらえれば」。競技会は全国で開催されている。1度、世界チャンピオンのテクニックをナマで観てみるのもいいだろう。

 大亀スポーツ振興財団の大亀孝裕理事長は「愛媛国体を成功させ、それを契機に、それぞれの開催市町において、その競技の普及・振興に努め、“ふるさとスポーツ”として定着させ、地域の活性化につなげていくことが重要」と語っている。財団が愛媛スポーツの発展に寄与している個人、団体の表彰を開始して、今年度は節目の10回目。「今後とも微力ながら愛媛県のスポーツの振興、発展の為に努めていきたい。特に競技の活性化を図るためには、地域や団体等において後援会活動を充実、強化していくことが重要であり、模範的な後援会については、表彰の対象にしたい」。これからも同賞は陰になり、日なたになってスポーツを支えている人たちを応援し続ける。

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(石田洋之)
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