海外でプレーするのはおしなべて特別な、いや伝説的な選手だったという印象がわたしにはある。日本においては非の打ちどころのない存在であり、その生きざまも鮮烈。過去を知る人に聞けば、例外なく「あのヒトはすごかった」という答えが返ってくる。それがカズであり中田英寿だった。
 だが、ここにきて状況は劇的に変わりつつある。
「入団してきた当時から体力的にはずば抜けたものがありましたし、本人もその点には自信を持っていましたけど、まさかインテルでプレーするような選手になるとは、ねえ」
 そう言って苦笑したのは、前FC東京監督の城福浩氏である。体力はスゴかった。だけど……という印象は氏に限ったものではない。大学時代に長友佑都と対戦した経験のある選手に話を聞いても、インテルはおろか、日本代表になることすら想像できなかったという答えが返ってくる。

 長友だけではない。
「そら確かに点だけはよう取ってましたけど、日本代表やブンデスリーガやらなんていうのは、夢にも思わなかったですね」
 滝川二高でコーチを務める松岡徹氏も、現在の岡崎慎司がたどりついた境地には驚きを隠せないでいる。確かに優秀な選手ではあったが、似たような、あるいは岡崎よりも才能を感じさせる選手を、彼は何人か見てきているからだ。

 長友にしても岡崎にしても、まだ所属チームでの定位置を約束されたわけではない。今後、レギュラーはおろか、ベンチから外される可能性もないわけではない。それでも、必ずしも伝説的な、あるいは怪物的な存在ではなかった彼らが欧州のトップクラブから引き抜かれたという事実は、今後の日本サッカーを劇的に変える可能性がある。
 つまり、カズや中田は、日本の土壌が育てたというよりは、神からの贈り物に近い存在だった。ゆえに、後継者を育てようという発想を、多くの指導者は持ちえなかった。カズは、中田は、カズだから、中田だからスターだったのだ。
 だが、長友は、岡崎は、指導者から見ても明らかな欠点を抱えた選手だったにもかかわらず、カズや中田でさえたどりつけなかった領域にまで足を踏み入れつつある。城福氏は、滝川二のコーチは、長友はどうだったか、岡崎はどうだったかという明確な物差しを持って選手に接することができる。選手は、どうすればセリエAで、ブンデスリーガでプレーできるのかという具体的なイメージをつかむことができる。

 特別な存在でなくても世界には通用する――。そう感じる日本人が多数派になった時、W杯優勝という目標はいよいよ現実味を帯びてくるはずだ。

<この原稿は11年2月24日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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