二宮: 焼酎をよく飲むようになったきっかけは?
荻原: 7、8年前に宮崎にサーフィン旅行に行ったのがきっかけですね。それから、いも焼酎を飲むようになりました。


二宮: サーフィンもやるんですか? 運動神経がいいから、すぐに乗れたでしょう?
荻原: 自分ではそう思っていないですけど、周りからは覚えるのが早いと言われています。サーフィンを始めたのは引退後に健司と行ったハワイ旅行ですね。たまたまレンタルサーフボードがあったので、「やってみるか」と気軽な気持ちで試してみたら、一発で波に乗れた。それで調子に乗って、サーフボードを買って九十九里浜とか宮崎で楽しむようになったんです。出身が海のない草津でしたし、その後はスキー一筋でしたから、まさかマリンスポーツをやるとは思いませんでしたけどね。

二宮: それで宮崎の焼酎の味を覚えたと?
荻原: それまでは焼酎に対して“クセがある”という先入観がありました。宮崎で飲み屋に行くと、地元の人がいも焼酎にお茶を入れて飲んでいたんです。それで興味を持って、飲んでみるとうまかった。滞在中にいろんな焼酎を飲んでいるうちに、すっかり好きになっていましたね。

二宮: じゃあ、雲海酒造の焼酎も以前から飲んでいたんですね。
荻原: ええ。いも焼酎の「木挽」とかは飲んだことがありますよ。宮崎で買って帰ったこともありますし、都内のアンテナショップでいろいろな銘柄を買って試したこともあります。そうこうしているうちに焼酎ブームがやってきたんですよね。でも、今回の「那由多(なゆた)の刻(とき)」は初めて飲みました。今まで飲んだ焼酎とは、また一味違っておいしいですね。

 風は敵であり友達

二宮: 90年代から、スキージャンプではV字飛行が一気に主流になりました。お兄さんの健司さんは、複合ではかなり早い段階からV字ジャンプを取り入れましたね。
荻原: アルベールビル五輪の直前に、当時のヘッドコーチから「健司、どうせジャンプがヘタなんだから新しいスタイルで飛んでみろ」って勧められたそうです。それまでの健司はジャンプが苦手だったんですよ。ところがV字で飛ぶと、ものすごく記録が伸びて、オリンピックで金メダルを獲っちゃった。

二宮: それまでの飛び方が合わなかったから逆に良かったと?
荻原: はい。もともとジャンプが得意な選手は、新しいスタイルに移行できなかったんです。それでV字を早くマスターした選手にどんどん追い抜かれてしまった。

二宮: やはり板をそろえて飛ぶのと、V字にするのとでは、飛ぶ感覚は違いましたか?
荻原: それまでには全く感じたことのない感覚でしたね。スキーを閉じて飛んでいた時は、なんとなく体で風圧を感じていたんですが、両方のスキーをV字に開くと、その先端がものすごく風圧を受けるんですよ。もちろん個人差はあると思いますけど、僕が最初に試した時には足のつま先で感じた風圧がものすごかったことを覚えています。

二宮: 風圧を受けるということは、それだけ揚力を得られるわけですね?
荻原: そうです。抵抗が生まれますから、うまく飛び出せれば落下速度も落ちる。その分、放物線が伸びて遠くへ飛べるというわけです。

二宮: しかも板を開いているから、体でも直接風を受けるかたちになる。
荻原: 開いて飛ぶことで、板と体の両方で風を受けますから、その分、飛距離は伸びましたね。札幌五輪で笠谷さんが70m級(現在のノーマルヒル)で、金メダルを獲った時の記録は84mでした。でも、今はノーマルヒルでも100メートルはラクに超えてきますからね。昔は飛ぶといっても、正直言ってジャンプ台から落ちるだけだったのが、今は放物線が伸びて、本当に“飛ぶ”という感覚になってきています。

二宮: V字にするためには飛び出しの瞬間に足を開かないといけません。慣れるまでは怖くなかったですか。
荻原: すごく恐ろしかったですよ。今まで目の前にあった板が、横に行っちゃうわけですから。一気に開かないといけないのになかなか開けない。おまけに当時は最新のスタイルだったから、指導者もどうやってアドバイスしていいのか分からないんです。最初は本当におっかなびっくりでやっていました。

二宮: 風はもちろん適度な向かい風がベストですよね?
荻原: はい。追い風は一番困ります。飛び出す瞬間は極力、抵抗は受けたくないので、風は敵です。風という見えない壁にナイフで切り込むようにヒュッと入っていかないといけない。でも、飛び出した時からは風は友達に変わります。なるべく風を受けて落下速度を落としていく。風にはすごく敏感ですよ。ジャンプ台に行くと、必ず風向計は確認します。それでも風は一定でないし、信号が変わって15秒以内に飛ばないといけないので運、不運に左右されます。まぁ、それらも含めてアウトドアスポーツの面白さと言うこともできますが。

 飛んだ瞬間に結果が分かる

二宮: 走ったり、泳いだり、ボールを投げたり、蹴ったりすることなら我々も経験があるので、少しはアスリートの感覚も分かります。でも、スキーのジャンプは簡単には経験できない。だから、選手たちが口にする感覚が掴めません。飛んでいる時はどんなことを考えているんですか?
荻原: 時間にして、飛んでいるのは3〜4秒です。だから飛んでいる間にあれこれ考える余裕はないですね。むしろ、飛び出した瞬間に自分の着地位置が分かるんです。飛んだ瞬間に「あ〜、失敗だ」とガッカリするか、「やった!」とウキウキするかのどちらかしかない。飛んでいる間に「おっ、伸びてる」とか「あっ、失速した」と変わることはないんですよ。

二宮: もう飛び出した後には、結果は変えられないと?
荻原: どうしようもないですね。飛び出した瞬間に失敗だと思って、ヘタに体を動かせば動かすほど、飛距離がどんどん下がるだけです。

二宮: 飛んでいる時は、周りの風景は見えるのですか?
荻原: よくテレビの中継で、「大倉山から札幌市の街並みが見渡せます。選手はこの景色を見ながら……」なんて実況がありますが、そんな風景は全く見えません(笑)。飛び出した瞬間から見えているのは着地する斜面くらいです。

二宮: 視界が悪くて着地する斜面が見えないのは怖いでしょう?
荻原: ヨーロッパでは濃い霧が発生するので、スタート地点から3メートル先しか見えないこともありました。もう足元しか見えない。コーチの声を頼りにスタートして、滑っていくうちに、ようやく飛び出し口が見えてくるという感じです。

二宮: 強風や吹雪も厄介でしょうね。
荻原: そうですね。でも、最も怖いのは別れた彼女が見に来ていることかもしれません(笑)。もちろん霧がかかっていたら下は見えませんが、晴れているとスタート地点は眺めがいい。不思議なもので上から見ていると、こっそり見ている人はどこか行動が違う。「何で、あんなところに人がいるんだろう」って余計に目立つんです。それが別れた彼女だったりすると飛ぶ前に動揺しちゃう(笑)。

二宮: 確かにそれは怖い(笑)。
荻原: お互いにうまく納得して別れられればいいんですけど、そうじゃないものもありますからね。こちらはうまく別れたつもりでも、向こうはそうじゃなかったり……(苦笑)。

 複合は人生勉強

二宮: 複合が大変なのは、ジャンプが終わると、クロスカントリーも待っている。両方を極めるのはハードでしょう?
荻原: しんどいですよ。キツいですよ。でも、複合は人生勉強になるんじゃないかなと感じています。ジャンプはいくら頑張っても、最後は運に左右されることがあるんです。そういう自分の力ではどうしようもない部分を学ぶことができる。一方、クロスカントリーは運では絶対に勝てない。ここでは努力の大切さを知ることができます。

二宮: 体力、技術はもとより、板に塗るワックスも勝敗を大きく左右しますよね。
荻原: 全く違います。外国の選手たちのワックスミスに助けられたこともあれば、逆にこちらのミスで大負けしたこともあります。ワックスが雪質や天候にばっちりハマれば、リニアモーターカーに乗った気分です。抵抗感がなくて浮いているような感じがします。これは一般のスキーヤーだと怖くて滑れないでしょうね。それくらいスムーズに進みます。逆にワックスが合わなかった時は、ゴキブリホイホイの上を歩いているような感じです(苦笑)。

二宮: 荻原さんたちが活躍していた当時とはルールが変わり、現在はジャンプのアドバンテージで逃げ切るという作戦を立てにくくなっています。クロスカントリー勝負になると、どうしても体格で勝る欧州の選手には負けてしまうと?
荻原: 背が高い分、スタンスも大きいですから1回の滑りが大きい。しかも長い板を使いこなせるので、どうしても体格のいいほうが有利になります。

二宮: 日本人が勝つポイントがあるとすれば、どんなところになるでしょう。
荻原: 強いて言えば駆け引き、心理戦に持ち込むことですね。うまく駆け引きできれば、強い連中を負かすことは不可能ではない。

二宮: たとえば、どんな駆け引きがありますか?
荻原: 僕は「死んだフリ作戦」をよくやりました。陸上のマラソンでもそうですが、疲れてくると頭が揺れたり肩が揺れたりする。それをワザと外国人選手の前で見せるんですよ。すると後ろの選手が「コイツについていくとペースが落ちる。オレが前に出る」ってなりますよね。それで前に行かせて、僕は後ろについて体力を温存する。それで最後に逆転したことが何度もありました。

二宮: そういう策略が当たると気分がいいでしょう?
荻原: 面白かったですね。相手に抜かせないように、わざと広めに足を踏み出したりしたこともあります。どんなに実力のある選手でも他人の板を踏んでしまうとツルッと滑ってしまいますから、抜こうにも抜けない。そして最後の秘策はレース中に相手を怒鳴ること。日本語でいいんで怒りの感情を相手にぶつける。

二宮: 言葉が通じなくても伝わりますか?
荻原: 不思議なことにどこの言葉も、頭にきた時に発するフレーズってニュアンスが似ているんです。聞いていて爽やかな語感ではない。だから、意味は分からなくても、怒っていることは分かる。“ふざけんじゃねえよ!”って大声で言うと、気の優しい選手だと遠慮がちになるんです。やはり、同じ人間ですから(笑)。

二宮: 世界を転戦するうちに、そういったいい意味でのずる賢さを身につけたと?
荻原: だいぶ、性格が悪くなりました(笑)。というか世界基準になった。最終的にはお人よしは世界では勝てないですね。トップレベルの選手が集まっているんですから、勝敗を分けるのはわずかな差。勝つためなら、ルールの範囲内で何でもできないと頂点には立てないですよ。

二宮: 現在はスポーツキャスターとしてメディアなどで活躍されています。こういった駆け引きも含めたテクニックを後進に指導するという考えは?
荻原: 現場はやりがいがあるでしょうけど、今は考えていないですね。現場は健司も復帰したので兄に任せて、僕はメディアの世界でウインタースポーツの広報担当として頑張りたいと思っています。ウインタースポーツの多くの競技は五輪の前後を除けば、スポットライトを浴びることが少ない。その意味で経験者がメディアの中にいるのといないのとでは違うのではないでしょうか。「次晴さんがいるから、ちょっとあの選手の取材をしてみるか」というケースもありますから。

二宮: 「那由多(なゆた)の刻(とき)」で今回も楽しいひとときを過ごせました。かなり飲みましたが、酔っても変わらないですね。
荻原: そうですね。今日はおいしいお酒が飲めて、本当にうれしかったです。そば焼酎はあまり飲んだことがなかったんですが、これからは家の晩酌でも楽しみたいと思っています。健司もお酒は好きですから、いつかこのコーナーに呼んでやってください。

<荻原次晴(おぎわら・つぎはる)プロフィール>
1969年12月20日、群馬県生まれ。幼少の頃から双子の兄・健司とともにスキーを始め、2人で切磋琢磨し、ノルディック複合で日本を代表する選手となる。1994年からワールドカップに参戦。95年の世界選手権では団体の金メダルに貢献。98年長野五輪では個人6位、団体5位といずれも入賞を果たす。長野五輪終了後、引退を表明。ウインタースポーツ普及をライフワークとし、スポーツキャスターとしてのメディア出演や講演活動などを行っている。また、選手経験を活かし、ノルディックのツアーを自らプロデュース。その楽しさを伝えている。オリンピックデーランのアンバサダー、日本ノルディックフィットネス協会のアンバサダーとしても活動中。



★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。国際的な品評会「モンドセレクション」2011年最高金賞(GRAND GOLD MEDAL)受賞。

提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
harden-tighten(ハーデンタイテン)青山
東京都港区南青山1−15−3 ペガサスビル2F
TEL:03-3479-3786
営業時間:
11:30〜15:00(L.O.14:30) 
18:00〜03:00(L.O.02:00)月〜金  
18:00〜24:00(L.O.23:00)土・祝

☆プレゼント☆
荻原次晴さんの直筆サイン色紙を長期貯蔵本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」(720ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「荻原さんのサイン色紙希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、荻原次晴さんと楽しんだお酒の名前は?




 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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