2勝を目指したニュージーランドで結局1つも勝てなかった。現在、開催中のラグビーW杯で日本は1分3敗で1次リーグ敗退に終わった。ジョン・カーワン体制下で5年間磨き上げたジャパンスタイルをもってしても結果を出せなかった現実は重い。今年限りでカーワンヘッドコーチの退任は濃厚な情勢だ。2019年の自国開催でベスト8入り――そんな目標達成も今のままでは夢のまた夢になってしまう。 

 強かったニュージーランド

 速い、うまい、強い。世界のトップクラスのラグビーを見せつけられた4試合だった。特に第2戦のホスト国・ニュージーランドのレベルの高さには衝撃を受けた。日本にとっては敗戦覚悟で臨んだ試合だ。フランス戦で2トライをあげたSOジェームス・アレジら主力を温存。ニュージーランドも司令塔のSOダン・カーター、主将のFLリッチー・マコウを外し、お互いに先を見据えた戦いになった。

 それだけに問われたのは結果よりも内容だ。1995年W杯での歴史的大敗(17−145)から16年、世界最強の相手にどのくらいジャパンスタイルを貫けるかがポイントだった。
 だが、立ち上がりからピッチを躍動したのは黒い軍団だった。4分、ボールを次々とつないで、日本の守りの隙間を突く。最後はCTBコンラッド・スミスにトライを決められ、あっさりと先制を許した。

 日本は低いタックルでオールブラッグスの出足を止めようと試みるものの、速いパスまわしと力強い突進になすすべがない。6トライを決められ、攻撃でもチャンスらしいチャンスをつくれないまま、0−38で試合を折り返した。

 後半に入ると、ニュージーランドはさらに猛攻をしかける。疲れから動きが鈍った日本の選手たちをあざ笑うかのように空いたスペースをボールを出し、簡単にラインを突破する。その視野の広さ、状況判断やプレーの正確さは、世界ランキング1位にふさわしいものだった。

 日本は立ち上がりの悪さを露呈した。全試合で先制を許し、先手をとれなかった。また試合運びの拙さも目立った。第1戦のフランス戦では一時は4点差に詰め寄ったものの、その後のチャンスをモノにできず。最終戦のカナダ戦では残り7分で8点差。1トライ1ゴールでも追いつけない点差にリードを広げていた。だが、肝心の場面で相手にボールを持たせ、チャンスを与えてしまう。逃げ切れずに20年ぶりのW杯勝利を目前で逃し、無力感の漂うノーサイドのホイッスルが鳴った。

 底辺拡大は急務

 W杯開催までに日本がやらなければならない問題が山積している。これで日本は第1回大会からすべてのW杯に出場しているものの、戦績は1勝2分け21敗と全く振るわない。ちなみに過去6大会でホスト国・地域は最低でもベスト8以上に進出している。
 
 そこに少子化が追い打ちをかける。底辺の 縮小を示す記事を2つ紹介しよう。
<国内の競技人口は92年度の15万3506人をピークに、06年度は12万5004人まで減少した。特に高校は5万4868人から3万3287人に激減>(毎日新聞07年12月22日付)
<全国高等学校体育連盟の登録人数は、91年度の5万7826人がピーク。ところが08年度は半数以下の2万7340人にまで落ち込んだ。都道府県別に見ると、08年度の加盟校数が最小なのは、福井県と島根県の3校。人数では鳥取県の89人(5校)だった。07年度の全国大会島根県予選では、15人の部員を確保できたのが江の川高(現石見智翠館高)1校だけ。結局、出雲高と松江高専の合同チームと壮行試合を行った>(読売新聞09年7月15日付)

 底辺が縮小してしまっては強化どころではない。ピラミッドの構造と一緒で、頂点を高くしようと思えば、底辺を拡大しなければならない。つまり今、ラグビー界がやらなければならないのは普及だ。その次が育成で最後が強化と考えるべきだろう。

 そのためには「学校」と「企業」を中心にした運営から脱却する必要がある。地域密着の理念を掲げるサッカーのJリーグとは異なり、ラグビーの社会人チームは親会社にオンブにダッコの状態だ。
 周知のように企業スポーツは不況に弱い。近年もワールド、日本IBM、セコムなどのトップリーグ経験チームが休部や大幅な縮小に追い込まれた。いくら若手を育てても、その受け皿がなければ強化策は絵に描いたモチに終わってしまう。

 翻って地域密着を旗印にするJリーグは「100年に一度の不況」に際しても、ひとつもクラブが消滅するということはなかった。現在J1、J2合わせて38クラブで構成されており、さらに拡大する方針だ。
「昔はサッカーよりもラグビーのほうが人気があったのに……」
 そう嘆くラグビーファンをたくさん知っているが、構造自体を変えない限り、残念ながら“過去の栄光”は取り戻さないだろう。

 ラグビー界のグランドデザインを

 もちろん、ラグビー界にもそうした現状に危機感を覚える者がいる。現神戸製鋼GM兼総監督の平尾誠二氏はそのひとりだ。
――本来、スポーツの主役は「地域」と「住民」でなければならないのに、この国は「学校」と「企業」です。ここを改革しない限り、この国のスポーツの後進性は何も改善されないのでは?

 かつて私の質問にこう答えた。
「取りあえず、スポーツを教育の現場からどう切り離していくか、がテーマになるでしょうね。例えば神戸市なら、神戸というスポーツクラブの中に、野球もサッカーもラグビーも入っていく。
 これは文化の創造ですよ。しかも、採算の取れるマーケットが既にある。神戸市民は夏に野球、春と秋にサッカー、冬にラグビーを見る。それはほかのスポーツであってもいいんです。ところが、今の日本は選手からして冬の寒い日でも野球をやっているし、夏の暑い日でもラグビーをやっている。これでは心身共にバランスの悪い人間になってしまいますよ。
 いろいろなスポーツをやることで、自分の好きなもの、合ったものを探すこともできる。子供の頃から、ずっとそのスポーツだけというのは、決して好ましい傾向とは思えませんね」

 サッカーがプロ化するに当たり、「Jリーグ百年構想」という理念を掲げ、グランドデザインを描いたように、ラグビーも2019年のもっと先を見通した未来図を提示すべきである。
 8年なんて、あっという間である。

ラグビーW杯、決勝トーナメントも全試合生中継!


※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
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