5カ月間も続いたロックアウト(施設封鎖)がようやく終わり、NBAはクリスマス当日の12月25日からついに開幕する。
 収益配分比率の分配などを巡るオーナー側と選手会サイドの争いは、一時は永遠に続くかのようにも思えた。しかし最終的には無事に新労使協定が締結され、全米のファンもホッと一息。待望の2011-12年シーズンのスタートを間近に控え、やっとお金ではなくバスケットボールの話ができるようになったことに喜びを感じている関係者も多いはずである。
 さて、それでは私たちは今季のNBAのどこに注目すべきなのか。今回は4つのポイントに絞り、楽しみな話題を探っていきたい。
(写真:遅ればせながらの開幕は全米のファンにとって最高のクリスマスプレゼントとなることだろう)
【ロックアウトの影響は?】

本来の開幕予定日から約2カ月も遅れたために、従来82試合のレギュラーシーズンは今季、66試合に短縮される。それでも約4カ月の間にそれだけの数のゲームを終わらせなければならないだけに、例年よりも凝縮された過密スケジュールで日程が消化されていくことになる(通常のスケジュールでは週平均3.5試合なのが、今季は同3.9試合)。

さらにキャンプインとFA選手の交渉解禁日が12月9日に設定され、準備時間が圧倒的に足りないことは明白。各チームが駆け足でロースターを整えているのが現状で、それぞれ準備時間が足りないまま開幕になだれこむことになりそうだ。こういった状況は、各チームにどんな影響を及ぼすのか。

NBAでは1998-99年にもロックアウトが長引き、99年2月から50戦の短縮シーズンが行なわれたことがある。その年も当然のように準備不足が目立ち、当時ニューヨーク・ニックスのHCだったジェフ・バンガンディ氏は「(その年に行なわれたのは)質の高いバスケットボールではなかった」と振り返っている。

実際にこの1998-99年は平均得点、フィールドゴール成功率、さらに観客動員が前年比で激減。今季はそこまでの極端な影響はないにしても、平凡なミスやチームプレーの拙さが例年より目立つ可能性は高い。
そして何より、少ない練習時間の後に過密日程をこなすだけに、ケガ人続出も心配される。ベテランの多いチームは特に、主力選手のプレー時間を例年以上に慎重に考える必要も出てくるだろう。

【マイアミ・ヒート、“ビッグスリー”結成2年目の戴冠なるか】

 開幕前の現時点で、今季の優勝に最も近い位置にいると目されているのはやはりマイアミ・ヒートである。
レブロン・ジェームス、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュという空前の“ビッグスリー”を揃え、史上最大級の注目を浴びて臨んだ昨季は期待通りにイースタン・カンファレンスを制覇。それでもファイナルでダラス・マーベリックスに屈したため、多くの人から“失敗シーズン”の烙印を押されてしまった。
(写真:ヒート移籍直後は盛大な批判にさらされたレブロン。2年目の戴冠で自身の選択を正当化できるか)

最高峰の舞台であるファイナルに進んでも成功とみなされないのは、このパワーハウスが背負った重い十字架ゆえ。しかし挫折とはときに人を強くし、より大きなモチベーションを与えるものである。今まさに全盛期を迎える3人のスターが、1年をともに過ごし、最後に手厳しい経験も味わったことで、ここでついにヒートが頂点に立つ準備が完全に整ったと見る人も多い。

新たにチームづくりをする練習時間が十分にとれない今季の場合、昨季と同じコアメンバーで臨んでくるチームが有利になる。もはやそれほど多くの調整期間を必要としないであろうヒートは、おそらく開幕から順調に勝ち続けるのではないか。
もちろんプレーオフで敗れれば再び“失敗”とみなされるハードルの高さは変わりないが、そんなプレッシャーもはねのけ、9年目にして怪物レブロンの悲願がついに果たされる可能性は実際に高いようにも思える。

【ニュースターたちは新時代を築くか】

優勝候補本命がヒートだとしても、対抗馬として挙げられる楽しみなチームも豊富に揃っている。特に2季連続得点王のケビン・デュラントを擁するオクラホマシティ・サンダー、昨季MVPのデリック・ローズに率いられたシカゴ・ブルズがヒートを倒しても、それは番狂わせとは言い切れない。
向こう10年のリーグを背負うスーパースターになっていくとみなされるデュラント、ローズがどこまで成長できるかは、今シーズンの楽しみなポイントのひとつ。誰からも愛される好漢であるこの2人が、ヒールとしての役割を確立させたヒートに挑む構図は魅力たっぷりである。

 さらにもうひとり、昨季、現役最強ダンカーとして名乗りをあげたブレイク・グリフィンと、彼が所属するロスアンジェルス・クリッパーズからも目が離せない。クリッパーズは今オフ、過去オールスター4年連続選出のPGクリス・ポールをニューオリンズ・ホーネッツからトレードで獲得した。
司令塔ポールからのパスを受け取ったグリフィンが豪快なダンクを打ち込むシーンは、ハリウッドの新しい呼び物となることだろう。そしてこの新デュオが上手に噛み合えば、クリッパーズは今季中にもウエスタンカンファレンスの上位争いに顔を出すことになっても不思議はない。
(写真:グリフィンの豪快なダンクには一見の価値がある)

【大トレードの行方】

“現役最高のセンター”の称号を欲しいままにするドワイト・ハワードが、今オフ中に所属するオーランド・マジックにトレードを要求した。今季終了後にハワードはFA権を得るだけに、見返りなしにチームを去られることは避けたいマジックも、シーズン中のどこかでトレードに動くことは濃厚と見られる。

 獲得候補として、すでにロスアンジェルス・レイカーズ、ニュージャージー・ネッツ、ダラス・マーベリックスらがすでに浮上。もしもレイカーズがハワードを射止めれば、コービー・ブライアントとハワードという強力なイン&アウト・デュオを完成させることになる。一方でもし昨季王者マーベリックスがハワード強奪の手段を見つければ、2連覇の確率がも一気に高まることは間違いない。
(写真:ハワードの移籍先いかんで今季の覇権が左右されるのかもしれない)

ネッツもデロン・ウィリアムスという最高級の司令塔を擁しており、加えて来季には盛大なファンファーレを浴びてブルックリンに移転する予定。そんな背景に魅力を感じたか、現時点でハワードはニュージャージーへの移籍を希望していると報道されている。
この最強ビッグマンがどこに落ち着くことになるか、来年3月の移籍期限まで全米メディアの報道合戦は続くはず。その結果如何でNBAの勢力地図が変わりかねないだけに、ハワードのトレード話は、あるいはコート上のゲーム以上に注目が必要とすら言えるのかもしれない。

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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