3月3、4日、東京・恵比寿で「Sports of Heart」というイベントを開催しました。これは健常者と障害者の枠を越えて、みんなでパラリンピックを応援しようという発想から誕生したものです。会場となった「恵比寿ガーデンプレイス」ではスポーツ、音楽、アート界から著名人たちが集まり、パラリンピックへの応援宣言、メッセージを送っていただくとともに、トークショーやライブをしていただきました。さらに付近の加計塚小学校のグラウンドや体育館では高橋尚子さんによる「かけっこ教室」、車椅子バスケットボールやブラインドサッカー、車いすテニスなど、障害者スポーツ競技の体験会が行なわれました。2日間での来場者は1万3000人、集まった募金額は約320万円でした。たくさんの方々のご協力のもと、第1回目を開催できたことに感謝しています。
(写真:さまざまな分野の著名人が参加した「Sports of Heart」)
 募金額に表れた“思い”

 今回のイベントで反省すべきことは、まず、来場者に対しての訴求力に欠けていたことです。前述した通りイベントの来場者は延べ1万3000人に対して、募金額は約320万円。1人あたりに換算すると、わずか250円にも満たないのです。募金はその人の思いそのものです。つまり、「250円」は、このイベントに対する価値や思いの強さであるわけです。募金箱のところまで来てくれた人たちに対して、イベントを開催した私たちの思いが伝えきれなかった、そのことを率直に受け止めなければなりません。

 また、ターゲットの設定についても次回以降の課題です。今回の狙いは、「これまで障害者スポーツやパラリンピックを知らなかった人たちに、競技や選手たちを知ってもらいたい」ということでした。ですから、不特定多数の人たちを対象としたのです。しかし、まだこのイベント自体が認知されていない段階から、不特定多数の人を対象にするのは、あまりにも無謀だったと言わざるを得ませんでした。来場はしていただいたものの、パラリンピックのことは伝わらなかった場面も散見されたのです。ではどうすればよかったのか。例えば、障害者スポーツに関心を寄せる可能性が高い“スポーツファン”にターゲットを絞り、それに沿った会場、内容にすることも一つだったでしょう。逆に不特定多数の人に呼び掛けるのであれば、それを想定した方法を考えなければならなかったのです。対象者と伝える方法にずれがないこと、その重要性を学ぶことができました。

 “大規模”であることの重要性

 最も大事な来場者への部分においては、このように多くの課題が浮き彫りとなったことは否めません。しかしその一方で、障害者スポーツの関係者のすぐ外側の層、つまりスポーツ関係者や、関係の省庁などの人たちに理解を促し、私たちの覚悟を示すことができたことは一つの成果だったと考えています。今回のオープニングセレモニーには多くの著名人に出席していただきました。なかでも平野博文文部科学大臣にご出席いただいたことは、日本の障害者スポーツにとって、決して小さなことではなかったと自負しています。周知の通り、一般スポーツが文科省の管轄である一方、障害者スポーツは厚生労働省の管轄にあります。ですから当然、障害者スポーツやパラリンピックなどに関連した行事などには、厚労省の方の姿はあっても、文科省の方の姿はありません。日本の代表選手を送り出すパラリンピックの壮行会でも、厚労大臣は出席しますが、文科大臣は出席しません。にもかかわらず、「Sports of Heart」のオープニングにご出席いただけたわけです。

 また、今回のイベントに協力してくださったアスリートの方から、「これまでパラリンピアンに対して無知・無関心であったことに気づかされました。今回のイベントをきっかけに、今後は協力していきたいと思っています」という声が聞けたことも大きな成果です。前述したように今回のイベントは「パラリンピックを知らなかった人に知ってもらいたい」という主旨のもとで開催したもの。ですから、そういう声があったことを、非常に嬉しく思っています。

 そしてこうした成果を得るには、今回のような規模の大きさが必要不可欠だったと確信しています。今回はこれまでのパラリンピック関係、障害者のスポーツ関係のイベントとは比較にならないほど、大規模で華やかなイベントにしました。資金調達と来場者動員への不安はそれはもう大きなもので、正直、準備途中で開催規模を縮小しようか迷ったこともあります。しかし、そうした大きなリスクを負っていたことこそが重要だったとわかりました。このイベントを目にした前述の大臣をはじめ多くの来賓の方々、オリンピック、プロスポーツ選手の皆さんには、ひと目見て、その労力と費用がこれまでの障害者関係のスポーツイベントとは比にならないほど大きいということがわかったはずです。皆さん、一様に驚かれたことでしょう。しかし、その驚きこそが私たち主催者の覚悟を感じ取ってもらえる手段となったのです。障害者スポーツの業界で、いえ、いろんな場面で見られる、「できる範囲で」「予算の中で」やる程度では、覚悟は伝わらなかったでしょう。安易に縮小せず、当初の予定通りの規模で実施したことの意義の大きさを今、改めて噛み締めています。

 とはいえ、あくまでも私たち主催者の思いを伝えるべきは、来場者です。次回はその部分をきちんと練り直し、「Sports of Heart」をより充実させたイベントにしなければいけないと思っています。その意味でも、私は「Sports of Heart」を今回で終わらせるつもりはありません。1回限りでは、すぐに忘れ去られてしまうでしょう。それでは立ち上げた意味がありません。2回、3回と継続するからこそ、認知度が高まり、事業が成長していくのです。また、私自身、このイベントがどんなふうに成長していくのか、楽しみになっているのです。「Sports of Heart」はこれからもチャレンジし続けます。


伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。障害者スポーツをスポーツとして捉えるサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。1991年に車椅子陸上を観戦したことがきっかけとなり、障害者スポーツに携わるようになる。現在は国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション活動」を行なっている。その一環として障害者スポーツ事業を展開。コミュニティサイト「アスリート・ビレッジ」やインターネットライブ中継「モバチュウ」を運営している。2010年3月より障害者スポーツサイト「挑戦者たち」を開設。障害者スポーツのスポーツとしての魅力を伝えることを目指している。11年8月からスタートした「The Road to LONDON」ではロンドンパラリンピックに挑戦するアスリートたちを追っている。