北京五輪代表選考会を兼ねた競泳の日本選手権第3日は4月17日、東京・辰巳国際水泳場で4種目の決勝ほかを行った。
 女子100メートル背泳ぎ決勝では、伊藤華英(セントラルスポーツ)が59秒83の日本新記録で優勝し、悲願の五輪代表入りを決めた。1分0秒16で2位に入った中村礼子(東京SC)も五輪代表に決定した。
  アテネ五輪代表を逃してから4年。「ゼッタイ、3番にはなりたくない」という思いが、伊藤を後押しした。
 50メートルのターンでは中村に次ぐ2番手。得意の後半で伸びを見せ、中村をも突き放した。
「オリンピックに行きたいと思って、最後、踏ん張りました。いろんな人に支えてもらった。信じられないが、自分の泳ぎをすることだけ考えた」
 前日の準決勝は、予選で日本新を出した女子背泳ぎのエース中村、高校3年生の新鋭・酒井志穂(BSS古賀)に次ぐ3番目のタイム。伊藤が弱気になっていることを察した鈴木陽二コーチは「指が折れてもいいからいけ。そのくらいじゃないと勝てないぞ」と檄を飛ばした。
 4年前の選考レースは100メートルで5位、“本命”の200メートルでも2位と0秒66差の3位で、代表入りを逃した。その悔しさをバネに、一回り逞しさを増した印象を受ける。
「今まで精神面が弱くてチャンスをモノにできなかった。痛い思いも成長する良い薬になったと今は言えます」。こう話す伊藤の目に、涙はなかった。
「このくらいの力は持っているとずっと思っていた。まだ世界では8番手くらいだが、勝負できるところにはいるので、もう一段階上にいかせたい」とは鈴木コーチ。
 伊藤自身も「日本新といっても、世界との力の差はある。北京まで、背泳ぎを『もう泳がなくてもいいんじゃなか』というくらい練習したい」と、視線を先に向けた。

 優勝を逃したものの、五輪代表入りを決めた中村は「まずは代表権を獲得してホッとした部分もある。予選、準決勝、決勝と記録を落としてしまった。落ち着いていこうと思ったが、記録を出したいという思いが力みにつながってしまった。このタイムでは五輪では決勝にも残れない。どんなときも59秒台を出せるようにしたい」と語った。残る200メートルに向けて「調子は良いので、焦らずにしっかりレースをすれば、記録はついてくると信じて臨みたい」と意気込んだ。

 高校3年生の酒井は1分00秒45の高校新記録を樹立しての3位にも、五輪代表入りを逃し「悔しい、ただ一言だけです」と笑顔はなし。「準決勝より良い感じで泳げたが、北京の切符は手に入れられなかったので納得できない。トップの選手と実力差がまだまだある。良い経験になった」。今後が楽しみな次世代のエースが出現した。

 女子100メートル平泳ぎ決勝は後半に追い上げた種田恵(JSS長岡)が1分07秒91で制し、初の五輪代表入りを決めた。インタビューでは涙が止まらなかった。「とても嬉しい。あわてないように自分のレースをすれば結果はついてくると思っていた。やめないで頑張って良かった」。

 このほか、男子200メートル自由形決勝は奥村幸大(イトマン)が1分47秒90で優勝、女子200メートル自由形決勝は上田春佳(東京SC)が1分59秒09で制した。男女ともに個人での派遣標準記録突破者は出なかったものの、上位4選手の合計タイムによりリレーでの五輪出場が決定した。