アテネ五輪金メダリストの北島が、世界記録に迫る日本新記録で五輪連覇へ弾みをつけた。
 北京五輪代表選考会を兼ねた競泳の日本選手権第5日は4月19日、東京・辰巳国際水泳場で4種目の決勝ほかを行い、男子200メートル平泳ぎ決勝では北島康介(日本コカ・コーラ)が自らが持つ日本記録を5年ぶりに更新する2分8秒84で優勝、100メートルに続く五輪出場権を獲得した。2分10秒17で2位に入った末永雄太(チームアリーナ)も五輪代表入りを決めた。
 大歓声が会場を包んだ。ブレンダン・ハンセン(米国)が持つ2分8秒50の世界記録にあと0秒34と迫る2分8秒84――。さらなる進化を証明する、5年ぶりの日本記録更新だった。
「もうちょいだったなァ」。レース後のインタビューでは悔しそうな表情も見せた北島だったが、「優勝しても自己ベストを更新できない歯がゆさ、辛さを味わっていたので、日本選手権で日本記録を更新できたことは嬉しいし励みになる。この記録が背中を押してくれて、これからトレーニングができると思う。モヤモヤしたものが晴れて五輪に進めます」と、晴れやかな様子で話した。
 自身初の2分8秒台にも「ハンセンのことばかり言われるが、ほかの選手も強くなっている。(世界記録には)まだ負けている。そういう意味ではチャレンジャーだと思っている」と冷静に語ったが、世界のライバルたちに向けて大きなプレッシャーとなったはずだ。
 北島を指導する平井コーチは「嬉しいというより、胸がスカッとした。ラスト50メートルはへばったが、今まで以上に滑らかで軽い泳ぎに見えた。世界記録は残念だったが、康介自身が進化していることを感じてくれたと思う」と笑顔で語った。
「五輪の味は忘れられない。あの刺激のためにやってきている。北京でセンターポールに日の丸を僕が立てたい」
 頼もしい日本のエースが、力強く宣言した。

 女子800メートル自由形決勝では、この種目のアテネ五輪金メダリストの柴田亜衣(チームアリーナ)が、五輪派遣標準記録突破の8分28秒69で優勝、五輪出場権を獲得した。
「本当に嬉しいの一言。本当に(派遣標準記録が)切れてよかった」
 400メートルで代表切符を逃し、「ショックだった」と振り返る。「いつまでも引きずっていても仕方がないので、800メートルでは何が何でも代表権を獲ってやろうと」気持ちを切り替えて臨んだこの日の決勝。レースでは序盤から矢野友理江(KONAMI西日本)が積極的に前に出る中、「前に行こうという気持ちもあったが、空回りしそうだったので、前半は落ち着いて行こうと思った」と、この種目の第一人者らしい安定したレース運びを見せた。プレッシャーの中、五輪切符を手にし「まだ北京で金メダルとは言えないが、もう一度、気を引き締めて頑張りたい」と安堵の笑顔で語った。
 
 女子200メートルバタフライ決勝は、アテネ五輪銅メダリスト・中西悠子(枚方SS)が2分6秒38と100メートルに続き日本新記録を樹立し優勝、五輪代表切符を手にした。2位に入った星奈津美(スウィン大教)も2分7秒28の高校新記録で派遣標準記録を突破し、五輪代表入りを決めた。
「もうちょっと良い記録が出ると思っていたが、最後に少し身体が浮いてしまった。今日の出来は合格点だが、(2分)5秒台も狙っていたので悔しい」
 レース後のインタビューでこう語った中西。06年以来の日本記録更新にも、自己評価は甘くない。「まだまだ進化しているのは分かるし、まだやれることはたくさんある。来週、27歳になるが、27歳でもできることを示したい。(北京では)最高の笑顔で終われるように頑張りたい」。北京で目指すのはもちろんアテネよりも輝く色のメダルだ。

 男子200メートル背泳ぎ決勝はこの種目の日本記録保持者・入江陵介(近大)が1分57秒33で制し、1分58秒22で2位に入った中野高(ミズノ)とともに初の五輪代表入りを決めた。100メートルを制した森田智己(セントラルスポーツ)は4位だった。
 100メートルで代表切符を逃した入江と中野が、五輪への執念を見せた。入江は「(100メートルで3位となり)表彰台では無理して笑っていた。すごく辛くていろんな人の前で泣いてしまったが、人の温かさを身にしみて感じた。いろんな人のおかげで切り替えることができた」と、勝ってまた涙。北京に向けては「1分55秒台を出して最高のレースがしたい」と初の五輪での活躍を誓った。
 4年越しの五輪への思いを実らせた中野は「五輪ではべストを更新してメダルを獲りたい。入江はイトマンの後輩。もっと伸びてもらいたいし、自分もさらに伸びて、日本の200背を成長させていきたい」。

 このほか、男子100メートルバタフライ準決勝は、藤井拓郎(コナミ)が山本貴司(近大職)が持つ日本新記録を塗り替える52秒14のタイムを出し、20日に行われる決勝進出を決めた。200メートルで代表切符を逃した山本も全体で4番目のタイムで決勝進出を決めた。
 最終日の20日は、男子100メートルバタフライのほか、男子1500メートル自由形、男女100メートル自由形、女子200メートル自由形、女子200メートル平泳ぎの決勝が行われる。