今年もまた楕円のボールの季節がやってきた。8月31日にはラグビーのトップリーグが開幕。9日からは関東大学の対抗戦、リーグ戦がそろってスタートした。エディー・ジョーンズヘッドコーチ率いる日本代表も11月に8年ぶりに欧州遠征が決まった。2019年のW杯開幕が7年後となるなか、日本ラグビーの次世代を担う選手たちの発掘、育成は急務である。その点でも大学ラグビーが担う役割は大きい。

 木を見て森を見る指揮官

 大学ラグビーでは、今季、前人未到の記録に挑戦するチームがある。昨季の大学選手権で史上2校目の3連覇を果たした帝京大が4連覇を狙うのだ。
「震災もあってラグビーのできないところからのスタートした。3連覇への重圧よりも、大きなチャレンジができることが幸せだった」
 岩出雅之監督は昨季、勝ち続けることのプレッシャーについて、そう語っていた。

 王者が挑戦者の気持ちになった時点で、もう止められるチームはいなかった。対抗戦、選手権と公式戦無敗で頂点へ。偉業達成に貢献したキャプテンのSO森田佳寿(東芝)、滑川剛人(トヨタ自動車)、南橋直哉(神戸製鋼)、ティモシー・ボンド(サントリー)といった主力は卒業したものの、今季も対抗戦2戦目で青山学院大に100−0で圧勝するなど、優勝候補の本命であることは間違いない。

 帝京大の強さの秘密を語る上で、指揮を執る岩出監督の存在を外すことはできない。大学ラグビーの世界では早慶明に代表される伝統校中心の時代が長く続いてきた。その勢力図を変えるのは周囲が考える以上に容易ではない作業だ。ラグビーでは新興校と言える帝京大の監督に就任した岩出監督は、15年かけて3連覇を成し遂げるチームを育て上げた。

 その裏には「風土」を変えるという難事業が待ち受けていたと言ってよい。風土とは、言いかえれば土壌である。土壌が良くならなければ、本物の豊かな実りは得られない。そのためには時間がかかる。コストもかかる。小手先だけの策や要領の良さだけでは一時的な成果は得られても、3連覇という本物の“果実”を手に入れることはできなかったであろう。

 岩出監督が難しいミッションを成し遂げられたのは、指導者として最も大切な「ビジョン」があったからに違いない。以前、岩出監督と対談した際にはこんなことを語っていた。
「今できること、2年ぐらいかけてできること、長年かけてできること、という感じで、短中長期での課題を明確にしているんです。というのも、今できることだけに力を注げば、目の前の試合に勝つことはできますが、それだけではチームに真の強さは身につきません。2年後や将来を見据えての練習や実戦に挑戦するなかでチームは強くなっていきます」

 リーダーは、夢ばかりを語っていてはいけない。かといって目先の作業だけに追われていてもいけない。現実を踏まえた上で、中長期的な構想と、短期的なプランを持ち合わせていることが不可欠なのだ。「木を見て森を見ず」という格言は、目先ばかりを気にして視野が狭くなることを戒めている。かと言って木も森も両方見る作業は、言葉で言うほど簡単ではない。これは優れた指導者だけが持ちえる能力である。岩出監督は焦らず諦めず、着実に木の年輪と森全体を見ながら豊かな森林をつくりあげたと言えるだろう。

 そして今季のチームづくりにも、その岩出イズムがはっきりと表れている。対抗戦の開幕にあたり、ゲームをコントロールするSOに1年生の森谷圭介を抜擢したのだ。また2年生のWTB磯田泰成を起用するなど下級生を積極的に試合に使っている。
「3、4年生になった時にチームのエースになれるよう投資をしています。下級生が動けるようにするためには、上級生の役割も重要。上級生がいい空気をつくってやらなくてはいけない」
 指揮官は上級生だけでメンバーを固めない意図をそう明かす。

 選手は試合の中で伸びるものだ。特に若手なら、なおさらである。指揮官の思いに応え、森谷は得意のキックで開幕2試合での大勝に貢献した。磯田は自慢の俊足を生かして2試合で9トライをあげ、強力FWが売りの帝京大にスピードという新たなオプションが加わったことを示した。「目指しているのは勝てるラグビーと、ボールをどんどん送るスタイルへ進化させたラグビーの両面をもったチームなんです。そしてもうひとつは選手が育つチーム。この3つの魅力をもった“強いチーム”にしていきたい」という指揮官の理想は徐々に現実に近づきつつある。

 選手権は新方式に

 当然、他の大学にとって合言葉は“ストップ・ザ・帝京」だ。特に黙っていないのが早明の伝統校だろう。早稲田大は今季、史上最年少で代表入りを果たしたWTB藤田慶和が入学した。代表のジョーンズヘッドコーチが「人を抜けるスピードがある。2015年には世界でも指折りのウイングになるポテンシャルを持っている」と、そのプレーぶりを高く評価。元代表WTBの大畑大介さんは彼を“ラグビー界のダルビッシュ”と名付け、こう評した。
「今の段階では間違いなく2019年のエースです。まず、プレーひとつひとつのスケールが大きい。ボールを持つと“この子、何かするんじゃないかな”と期待感を持たせてくれる。そんな選手は本当に久しぶりですね」

 残念ながらヒザを負傷して手術を行ったため、今季の試合出場は難しい状況だが、彼が入ったことは上級生へのいい刺激になっているはずだ。夏合宿の練習試合で帝京大に0−43と完敗しており、対抗戦、選手権での雪辱を期す。セットプレーからボールをどんどん動かすラグビーに力を注いでおり、試合を重ねる中でどこまで磨きをかけられるかがポイントだ。

 また“重戦車”の異名をとる明治大も侮れない。夏合宿の帝京大との練習試合では35−31で土をつけた。FW戦では王者にも引けをとらず、攻撃のリズムをつくられると止めるのは難しい。各年代の代表に選ばれている選手も多く、チームとしてひとつにまとまれば16年ぶりの頂点も見えてくる。

 さらに昨季の大学選手権で初の4強入りを果たした筑波大も楽しみだ。対抗戦の初戦では慶応大を36−12と下した。昨季の主力メンバーの多くは3年生で、今季も引き続き最上級生になってチームを引っ張る。帝京大に続いて、筑波大が躍進すれば大学ラグビーにもまた新たな風が吹く。関西でも昨季の選手権決勝に進んだ天理大が今季も勝ち上がってくるだろう。

 今季から大学選手権の方式が変更される。これまでの完全トーナメントによる戦いから、リーグ戦方式を導入。総当たり制のファーストステージ、セカンドステージを経て、勝ち抜いた4チームが決勝トーナメントに進むのだ。セカンドステージでは各所属リーグでの順位に応じてアドバンテージポイントが加算されるだけに、通常のリーグ戦も大事になる。

 一発勝負の要素が薄れるため、番狂わせは起きにくい。真の実力を持ったチームが日本一に近づくだろう。1月13日の国立競技場の選手権決勝、ノーサイドの瞬間に歓喜の雄たけびをあげるのはどの大学か。約4カ月の短くも熾烈な戦いをスカパー!で見届けたい。

今季はJ SPORTSで関東大学対抗戦全28試合を放送!! 
大学生の熱き戦いから目が離せない!!



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