将棋の名人戦が毎日新聞社と朝日新聞社の共催となったのは2007年度からだ。毎日単独開催から共催に至るまでのゴタゴタは記憶に新しい。日本将棋連盟と両者との契約期間は5年で、今年3月末で切れる。
 1935年、名人戦を最初に主催したのは東京日日新聞(現在の毎日新聞)。49年に主催が朝日に移管し77年からは再び毎日。30年を経て先述したように毎日・朝日の共催となった。すなわち名人戦の歴史は連盟と新聞社の交渉の歴史でもある。
 棋士生活40年の著者は連盟の理事、あるいは臨時総会の議長という立場で名人戦問題に深く関わってきた。毎日と朝日の共催実現にあたっては米長邦雄会長の手腕を高く評価し、「米長裁きによる三方一両得」であったと断じている。三方とは言うまでもなく毎日、朝日、そして連盟のことだ。「戦いが終わった後は、ひとつの駒箱の中に仲良く入るのが将棋という伝統文化」という米長の言葉が思い出される。
 インサイダーが内幕を明かすと往々にして話が生臭くなるものだが、著者は終始、感情を抑え淡々とつづっている。文中の棋譜と合わせて読めば数々の熱戦の記憶が甦ってくる。 「実録 名人戦秘話」 ( 田丸昇著・マイナビ・1400円)

 2冊目は「伝説の『どりこの』」( 宮島英紀著・角川書店・1500円))。 「どりこの」の4文字にピンとくるのは、かなりのご年配に違いない。この摩訶不思議な名前の飲料に関する徹底調査とその報告は戦前の大衆史の役割をも果たしている。

 3冊目は「Dear KAZU」( 三浦知良著・文芸春秋・1200円)。 著者と初めて会ったのはもう26年前。齢を重ねても当時の輝きは失われていない。ペレ、ジーコから香川真司に至るまで55通の往復書簡がキング・カズの歩んだ道を映す。

<上記3冊は2012年1月25日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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