このチームの充実ぶりを見ていると、4連覇は到達点ではなく、まだまだ通過点ではないかとさえ思えてくる。

 さる1月13日、帝京大が史上初のラグビー大学選手権4連覇を達成した。
 国立大学勢として初の決勝進出を果たした筑波大の、最後まで勝負を捨てない粘りや個々のスキルは見事だったが、それでも帝京大の“赤い壁”を突き崩すことはできなかった。

 ともすると、これまでの帝京大にはFW一辺倒のイメージがあった。しかし、この日はFW、BK一体となった華麗な展開ラグビーで6トライをあげ、筑波大に付け入るスキを与えなかった。

 ピーキングを決勝に合わせるのがこのチームの特徴だが、今季もそれを実証した。準決勝の早大戦、そして決勝の筑波大戦と試合を重ねるたびに着実に成長していくチームの姿が見てとれた。
 帝京大を4連覇に導いた監督の岩出雅之は優勝後の会見で、チームの進化を次のように喜んだ。

「初優勝までの長い積み重ね、そして初優勝からの1年1年の経験があってV4につながった。いきなり今日のようなラグビーができたかと言うとそうではない。徐々に胃袋がでかくなって強くなって、腸が吸収できる、栄養を生かせるチームになってきた」

 周知のように岩出は帝京大のOBではない。日本体育大の出身である。大学3年時にフランカーとして大学日本一を経験している。
 大学卒業後は中学、高校で教鞭を執った。滋賀・八幡工の監督として7度、チームを花園に導き、高校代表監督も務めた。
 その後、縁あって帝京大へ。監督としての最初の仕事は「チームの風土を変える」ことだった。

 しかし、言うは易し、行うは難し。岩出の目に選手の姿は「自ら頑張っているのではなく、上から無理やりやらされている」ふうに映った。
 どうすれば、彼らに自主性を植え付けることができるか。岩出は選手ひとりひとりにキラーメッセージを用意し、パフォーマンスの向上をアシストした。

「たとえば“お世話になった親のために!”と言えば、頑張る気持ちが湧いてくる選手がいる。また、諦めの早い選手には、過去に諦めたことによって後悔した苦い経験に訴えるんです。あるいは気持ちが高ぶり、反則を犯しやすい選手には、それによって周りに迷惑をかけてしまったことを思い出させるようにしました」

 常勝チームになってからは「前年のチームを超えよう」を合言葉に、“継続力”に重きを置いた。学年間のバランスの良さもこのチームの特徴だ。
 筑波大との決勝のスタメンには、3年生3人、2年生5人、1年生1人。9人が来季の主力選手として残る。決勝の舞台を経験した強みは、何物にも代え難い。

 負けて学ぶこともあるが、勝って学ぶことはその比ではない。それを知り尽くした岩出のマネージは円熟の域に達しつつある。

<この原稿は『サンデー毎日』2013年2月10日号の掲載内容に一部加筆したものです>

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